『Creepy capitis』
ーー馬を走らせて向かった先は癒都リナテレシア。リンニレース亡き今、ペールアの炎の力を受けて甚大な被害を受けている。
ーー…………筈だった……………………。
「………何だ、此れは…」
ーー復讐者が辿り着いた、癒都リナテレシア。
被害を受けたにも関わらず都は以前の様に形を保ち、無機質な建物達が残っていた。
然し都の上空だけがやけに暗く、他の場所以上に淀んだ空が広がっている。
そして其の違和感は空と都だけでは無かった。癒都の彼方此方に喪服を纏った屍者達が跋扈していたのだ。
そして廷のあった場所ーー其処には白塔が高く聳え、より一層不気味さに拍車を掛けていた。
「御者から聞いた話と照らし合わせても納得出来るな…」
御者の話と、そして此の光景。照らし合わせてみても共通する所が多過ぎた。
(つまり…………)
もしも、復讐者の考えの通りならば此の屍者達は、既に亡くなっていながら仲間の葬儀を開き葬列を成していた、と云う事になる。
こうなれば最早死者の国と何ら変わり無い。
…然し、不思議な事に御者から聞いていた「赤い翼の天使」の存在は確認出来なかった。
ーー実情を見たのだからもうリプレサリアへ戻っても、と彼が踵を返した時、背後の方から動乱めいた騒音が聞こえてきた。
「何だ…?」復讐者が振り返る。彼の其の蒼い双眸に入り込んだ光景は目を疑い、視線を集中させる。
空から、正確には白塔の方から複数の赤い翼の天使が舞い降り、跋扈する屍者達に無機質な微笑みを向ける。
其の背の翼に注視すると、翼は確かに赤く…寧ろ血で出来た様にすら思えた。然し先の方にかけて炎の目映さを孕んでいる。
まるで貼り付けられた様な其の表情は何の違和感も抱く事無く、至極当たり前の様に振る舞っていた。
天使の姿は皆、同じ容姿の青年である。
彼等が舞い降りると同時に両手を広げ、宛ら屍者を迎え入れる様にしていた。
ーー彼等の発する眩い光に屍者達のうち或る者は目映さに目を伏せ、また或る者は祈りを捧げる。
更にまた或る者は酷く恐れ、また或る者は呻き声を上げている。
……天使は己へ向けられた屍者達のあらゆる感情の様なものを、貼り付けられた微笑みで受け入れた。
『愛してあげよう』
天使の一人がただ其の一言を発したと途端、口火を切る様に他の天使達も同じ言葉を吐き始めた。
喩えるならば救いの詠唱の様に。
そして祈りを捧げていた屍者の首が一瞬にして切り落とされた。
「…………何を…しているんだ………奴は……」
復讐者が茫然と見届ける中、天使達が繰り広げ始めた屍者の殺戮に癒都は赤黒く染まる。
(既に死んだ者をまた殺すのか!?)自身の感情を驚愕に渦巻かせながら、其の目は把握しようと目を離さない。
『君達を愛そう』『愛されれば救われる』『愛してあげるよ』『その愛を受け止めてあげるよ』『さあ愛に救われよう』
無機質な微笑みに、耳障りになる程の愛。"博愛"のカタチが歪んだ其れ等が履き違えた救いを与え続ける。
屍者は既に屍者でありながら、天使がもたらす恐るべき苦痛に苛まれ、二度目の死を与えられる。
安らぐ事も許されず何者かによって蘇り、天使による愛という名の無慈悲な救いによって甚振られ、そして形すら残されない。
ーー次第に漂う異臭に吐き気が込み上げてくる。
其のあまりの気味の悪さに、彼は只、固唾を呑み込みながら身動き一つすら取れずに光景を見続けていた。




