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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Ara Rinnirea Kin(癒都白塔)
75/125

『Videntique funus indicitur, una cum rubrum angelus』

……一行が塔を降りると、遠くの方に黒い馬車と数頭の鎧馬が見えた。

「おおーい、おおーい」

ゆるゆると手を振る小さな人型が御者を務めていた。どうやら迎えに来てくれたらしい。

「危険な所まで態々(わざわざ)!!」

復讐者があっと驚くと、御者のツブ族は扉を開いて一行を乗せる。

「けがしてる人いるで、しょ?」

ツブ族なりの労いだったらしい。言葉に甘えて機関まで向かう事になった。

「よろいうまが付いてるから、だいじょーぶ」

ツブ族の家畜である鎧馬が付いていた為か、道中は安全に済んだらしい。




「ビレッジの時に一度は聞いていたが、実物を見るのは初めてだ」

馬車を取り囲む様に進む鎧馬の姿を見て、復讐者は呟いた。

「あれれ、その時()()()()してたのかな。よろいうま、ごぞんじなの?」

「正式名称は鎧殻馬(がいかくば)だったか」

「あっ、そうだよー。がいかくば。ふかしんりょういきの外でたまーに野生のこたいを見かけるの。ツブ族はそれをつかまえて仲良くなるの、さー」

あんな所に野生の鎧馬が生息しているとは!

其れだけでも充分に驚いてはいるが、何にせよ鎧馬と呼ばれている通り「身体から超硬質の鎧と角が生えている」事が最も驚きだ。


原生の生物にもそんなものは確認された事は無い、其れこそファンタジーの世界の生き物みたいなものだ。

































「あ、それでね。ひとつ……変な話を、きいたんだけどね……………………」

ツブ族の御者が何やら意味の有り気な言い方をした。

御者の話は一行の興味を引くには充分だった。

















「んーとね、おにーさんたちがフィリゼンに向かってからちょっと後にね、リナテレシアの方で妙なうわさを聞くようになったの。調査班(さーべいちーむ)が出向いてたしかめに行ったら、何でも、何かにせんどうされて、おそうしきやってた、らしい」

「葬式?」復讐者が訝しげに訊ねる。

「うん。リナテレシア、ひなんしゃ、少なかったでしょ?だからもしかしたら、ひなんしゃの人ごくる前に、リナテレシアの人達、死んじゃったんじゃないかな?」









ーー確かに、リナテレシアからの避難者は医療関係者が多かったものの彼等は災害発生後暫くしてからだったし、其れ以外のリナテレシアの住人は殆ど少なかった。

……もしかしたら逃げ遅れて亡くなった者か、或いは災害発生間も無くして巻き込まれて亡くなってしまった者の葬儀だろうか?

「然し奇妙ではありませんか」

馬車に乗ってから黙っていたエインが口を開く。

「生き残った者はほぼリプレサリアへ避難済の筈。なのに癒都の方で葬儀を開いてるなんて可怪しいと思いません?」

「…………確かに。リナテレシアにはもう生者は居ない筈だ。生き残った集団が彼処に留まってるとは……」

生きている者はリプレサリアへ避難するか、其れかペールアへの魂の忠誠を誓って焔の花教団の狂信者になる筈。

「だとしたら、葬儀を執り行っているのはーー」

ぞくり、と一行の背筋を冷たいものが這う。


























「……あ、そうだったー」

ひやりとしたのは御者もだったが、恐ろしい考えを廃するつもりでか"ある事"を話し始めた。


「あ、あのね、そのおそうしきの中に、()()()()()()()()()()んだって」

話題は其の儘、一行の興味を他の事へ変える。

()()()?」

葬儀の中に混ざる奇妙な存在に対して復讐者が最も興味を引かれた。…其の筈、災害後の世界に発生し始めた奇妙な出来事や存在は十中八九()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。



「詳しく聞かせて頂きたい」

勿論、ペールア絡みだろうと睨んだ為であった。最終的な目的である"ペールアの討伐"に確実に近付ける可能性であるなら直ぐにでも確認位はしたいのである。

「えっとー…たしかねー………」

御者のツブ族は思い出しながら話す。

















「たしか、そのへんな人はー…「赤いつばさを持ってて」、「てんしみたいな男の人」だったんだそうな」




赤い翼を持つ、天使の様な男…………









「一人だけなのか?」

「いーや。何でも、同じすがたをしたやつが何人もいたって、さ」


…………どうやら、同じ姿をした個体が複数存在しているらしい。

「はは、そりゃ天使めいてはいるな」

そんな異常なモノが葬列に混ざりある者は先導したりしている。奇妙かつ不気味な事此の上無い。









































「…済まないのだが、連れている鎧馬を一頭だけ借りたい」

「ええ!?」

唐突な復讐者の言葉に御者は驚くが、

「癒都の様子を見るだけだ、白塔には乗り込まない」

復讐者はどうやら様子を見るだけのつもりらしく、其れ以上の危険な行動には出ないらしい。



「行くんですか?」

レミエが少し不安そうに問う。

「敵情視察は基本的な事だし、可怪しなものが彷徨いているのだとしたら侵入経路を確保出来る様にする必要はあるだろう。…何より其の不気味な光景とやらを一目見てみたいものだ」

安心してくれ、と彼は言った。

















「じゃ、じゃあ気をつけて、ね」

御者のツブ族が心配そうにする中、復讐者は一頭の鎧馬に乗り癒都の方へ向かう。

小さくなってゆく黒い外套を、一枚の小窓を隔てて仲間達も不安そうに見送った。

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