『Pluma in flamma』
「復讐者ァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
ペールアの凄まじい怒りや怨嗟が彼の身に押し寄せ、圧倒しようとしている。
「殺すころす頃すコロスコロす湖ロス頃酢ころ巣子ロスぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ペールアの剣はまるで空気を斬る様でーー確実に復讐者達の首を狙っての真空撃。
纏われた炎が更に切断した面を燃やさんと勢いを増す、炎を纏った無の刃。
其れを復讐者とレミエが合わせ技の水氷の盾で防ぎつつ、復讐者は素早く彼女の懐に入り込む。
「!!!」ペールアはハッと一瞬だけ目を見開いたが次の瞬間にはニヤリと嗤った。
「ぎひひぃ……、間違いを犯しましたね」
ペールアの言葉の意味を彼が理解するよりも早く、彼女は復讐者の片腕を斬り落とした。
「復讐者さん!!!!!!!!」
レミエが彼の名を呼ぶ。
「っぐ……………!!!!」復讐者は痛みに僅かに呻いたが、彼はペールアの眼前に其の蒼い瞳を晒して告げる。
「目論見を見誤ったのはそっちだ」
バァンッ!!!!!!!!
一際大きな音が響いた次の瞬間には、ペールアの腹に大きな穴が空いていた。
「は……………?」
ペールアは超小規模ながら爆風の圧に其の身を僅かに吹き飛ばされ、そしてよろめく。
既にくすんでしまっているが今だ頑丈な白銀の鎧は穴の空いている部分を中心に形を崩し、彼女が自らの手で触れた時にはどろりと赤黒い血が溢れ出していた。
同時に、斬り落とされた復讐者の腕がぼとりと仲間達の前に落ちる。
「きゃ…っ」サフィーが吃驚して小さい悲鳴を上げた。
ーー斬り落とされた復讐者の腕の部分から、一滴の血も零れ落ちない。ペールアが苦痛の中で戸惑っていると、其処から彼の腕が出てきた。
「贋物を作れるのがお前だけだと思うな」
新たにーーいや、元々あった彼の腕、其の手が持っていたのは改造された大型の銃だった。
「銃の改造は手間取ったがこういう可能性もあると思っていて予めエインに頼んでおいて正解だった。貴様ご可愛がっている特使ーーサクモだったな、奴から徴収した爆炎瓶を急ぎ足だがより小型化させ威力を向上させた。お前の腹に穴が空いたのは其の爆炎弾の力さ」
ペールアの目を見ながら、彼は全てを話す。
「爆炎…弾……………」ペールアが己の腹に空いた穴に再度触れて、そして復讐者をより強い憎悪で睨み付ける。
「アァァ…復讐者………!!!許さない…よくも、よくもぉぉぉ…………………………………………!!!!!!!!!!!」
口からごばりと血を吐きながら、深い怨嗟の混じる不気味な声を絞り出す。
口端から同じく赤黒い血を伝わせるペールアの鬼気迫った表情は、復讐者の心を揺るがさない。
「無論、こうした所でお前が死ぬとは思っちゃいないさ。撤退しろ、臓腑の全てを爆炎で吹き飛ばしたくは無いだろう」
…血肉と臓腑を醜く飛び散らせたくは無い。
異形を愛する彼女としては至高の光景だとしても、其の光景が発生する条件が己の死であるならば勿論避けようとする。
病んでいても己の死に直結してしまう状況は、選びたくない筈なのである。
復讐者は「病みながらも幸せに生きる人間だったもの」のそういう所を理解していた。
無闇な消耗を強いられる状況ではあるが極力は避けたい彼の意図として、ペールアが撤退する様に選択を選ばせる。
ーー本来ならば完全に殺しておきたいが、此の先の状況を思えば、其の選択しか彼には無かった。
「なる…ほ、ど……………、私に、撤退を、させる…つも…り、でしたか……………」
ペールアは腹部を必死に抑えながら復讐者との間に距離を取る。
「…我々も今の疲弊した中では其の気になれん。全快の時に殺し合おう」
「ふふっ……良いですよ…ならば今回は私の方が撤退、致しましょう……………!!」
ぼたぼたと血を落としながら、ペールアは炎の渦の中に飲まれ、そして其の場から消えた。
「き…消えた……………」
あっさりと引き下がったペールアの行動に、一行は唖然としつつも安堵する。
「本物が直接現れるとは…背筋が冷たくなりましたよ……」
彼の言う通りであった。
そう長くとは言えなかったものの、確かに現れた本物が持つ圧倒的な力は、例え意図的に抑えられていたとしても避け様の無い圧迫感をもたらしたのだ。
…何より、交戦した復讐者に至っては彼女の中の暗い感情すら感じ取れた。
(………。何だか妙で、嫌な予感がするな)
復讐者は対峙したペールアから読み取れた妙な気配に、只ならぬ恐ろしい何かが有りそうだと本能的に予見していた。
ーー然し目先の危難を乗り越えたばかり、問題の残る先行きの中で一行の士気を下げてはならないと判断してか、彼は敢えて伏せる事を選んだ。
「此の先はどうやらペールアが露払いをしたらしい。敵の気配は無くなっている。ずっと上がってゆこう」
本来、伝えるべき言葉よりも塔の攻略を優先した言葉を紡ぐ。
ペールアを退けた事による士気の向上から其の儘真っ直ぐ塔の最上を目指し行く其の果てに、とうとう彼等は頂上への一つの道へ辿り着いた。
「此の先へ進んで行けば頂上ーーだが、行く手を阻んでいるな」
白壁は其処には無い。だが、燃える炎が白壁の様に彼等を阻んでいる。
…其の炎の壁に、ペールア、及び塔の守護者の並々ならぬ執念を感じ取った。




