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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Marme Miwa Ogula(烈都白塔)
63/125

『Procul incautam nemora et huc venisti』

「ーーっわぁ、っ!!!!!」

ドサリ、と投げ出されたサクモが其の場に転がる。

「っ………」地面に触れた時か、小さいながら擦り傷を作ってしまった。地味にだが滲む様な痛みが広がる。




















「っ…うう……う…っ……………」

サクモは其の小さな擦り傷を大した傷の様に痛がり、其の場から起き上がらない。

「大したモンじゃ無いだろ……絆創膏やるから其れで何とかしろ、其処で待ってな」


サクモを投げ出した男がーー恐らく復讐者を呼びに行くと、サクモは近くに落ちていた絆創膏を取って己の擦り傷に貼り合わせた。

















「ううう…痛い……」少しばかり震える手で絆創膏を貼るサクモが、息を少し吸い込めば咳き込む。

ーーどうも埃っぽくあまり使われていない場所の様だった。

(此処…もしかして独房…なのかな………)

彼女は背筋にヒヤリとしたものを感じながら、仄暗い部屋の隅々を見回した。














































…サクモが部屋の隅で小さく座り込んていると、暗い部屋が少し明るくなる。

「君がサクモか」

以前、聞き覚えのある青年の声を聞いてサクモは顔を上げた。



「あっ………あなたは…」

「星都の件以来になるな、女神の特使」

黒髪の奥の青い瞳を見て。









「〜まままままままままっ!!!止めて下さいよっ!!!!!?拷問とか痛いのは無しで!!!!!お願いします!!!!!!!!ほんと!!!許して下さい!!!!!何でもしますから!!!!!!!!!」

「い○むにこびるな、なんだよ」

己の背の痛みなどどうとでも無さそうに挙動不審になりつつ以前聞いた事のある台詞を吐くサクモに対し、復讐者の足元から出たエムオルがまた別に何処かで聞いた事のある言葉で返した。

「すまんなサクモ、ツブ族に捕まったと聞く。彼等の事は苦手だろう」

「うわああああああああ!!!!!!!!!!すみません!!すみません!!!ほんっと痛いのだけは止して!!!!!あっでも殺されるのも嫌ですううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(……………。話にならんな…)

復讐者が呆れ半分に溜息を吐いた。

























そんな彼の様子から何かを察したのか、エムオルはーー何と実は勝手に付いて来ていたアムルアと一緒にサクモの前に勇み足で進んでゆく。

ひいい!!と怯えるサクモに対して、



「あのねぇおばかちゃん、うるさいんだよ。ちょっと黙っててほしいんだよね。まともに目の前のことをみれないの?おにーさん困らせるのがしゅみ???」

「ちゃんと、もんだいには、むきあわなきゃって、いわれてるでしょ」

殆ど無表情でサクモに詰め寄る。

「お…おばかちゃん……!!!」

サクモは言われたショックなのか、あっさりと大人しくなるのであった。多分ツブ族に対する恐れもあったからかもしれないが。









































「…大人しくなったか、所で訊ねよう。ちゃんと答えるのなら身柄は保障する」

「わっ…分かりました……」復讐者の言葉に対してサクモはあっさりと答えると己の意思を示した。

「………。そんな性格でよく女神の特使なんて大した立場になれたな…」サクモの掌をあっさりと返してしまう其の言葉に対し、復讐者は彼女に向けられる謎の信頼に感心した。






「………では問答を開始しよう。ーー君が特使である理由は?」

「ペールアさんにそう選定されたからです」

サクモは一言一言を噛まない様に気を付けながら答える。気を配る所が少し違う気もするが、彼女は必死なのだろう。


復讐者は次に、別の質問を行う。

「燃え上がる騎兵について何か知っているのか?」

「燃え上がる騎兵…?詳しくは分からないです。でも、ペールアさんの被造物の一つだと思います」

「やっぱりか…」復讐者は燃え上がる騎兵の正体について矢張り予想の通りであったと振り返る。

「なら、其のーー騎兵の出処は知っているのか」

「いえ…詳しくは………でも、確かペールアさんは4つの内の残ってる白塔の方に置いておこうと話してました」

サクモは騎兵の出処について何一つ知らないらしいが、彼女の言う言葉が本当ならば残されている2つの白塔の何方かに騎兵を置いているという事になる。




「何故身一つで旅をしている?」

「……。移動手段を持つとあなた方に気付かれるからとーー」


ダァンッ!!と復讐者が近くの壁を蹴り飛ばした。

「………そう云う事では無い。サクモ、君は巫山戯ているのか?()()()()()()()()()()()()()()()()

「ひっ…ぼ、暴力は無しにっっ………」

「だからちゃんと答えるのなら身柄は保障すると言っただろう」















「……()()()を集めろとペールアさんに言われました………」

最後の方は小声になるが、サクモは己の身の保全を優先して一応話した。

()()()?」

「い…言えません、言えないんです」

サクモがおどおどとした様子で物の正体を話せないでいると、復讐者はエムオルにサクモが所有している物の回収を頼んだ。


「わっ!ちょ、待って!!!止めて下さい!!」

「はいはい、ごめんねー」

エムオルはサササッと手際良くサクモの持ち物を持ってゆく。

そして復讐者の目の前で彼女の所有物を全て出した。




「此れだけか?」

予想より少ない手持ちに彼が問う。

「これ位しか無かったよ?」エムオルは何の悪気も無く其の通りだと答えた。


路銀、薬、そして何かの薬物。…其れ等のみのサクモを彼は尚の事疑ったが、其れより最も気になる代物の存在に彼は訊ねる。









「サクモ。()()()()は何だ?」

彼が指差して問うた其の薬品を見て、彼女は話す。

「其れはペールアさんのお手製の爆炎瓶です。瓶って言っても試験管みたいな物の中に入ってるので瓶って言えないですが…」

「どんな効果がある?爆発するのか?」

「ですね。安全の為の魔術式が施されていますが、其れを解除して投げ付けると爆発するんです。…えーと確か基本的な構造は………ほら!復讐者さんが使っていたという火炎瓶の要領でして」

あっさりとペラペラ喋ったサクモは、はっと我に帰って己の迂闊さに気付き口を覆い閉ざすが、もう遅かった。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」

「う、うっかりだ」エムオルには盛大に馬鹿にされ、アムルアからは唖然とされてしまった。

「成程な、そういう要領ならば安全機構は代替可能として量産が出来るな、部隊に持たせるには丁度良さそうだ」

妙に嬉しそうな顔でサクモが持っていた物騒な代物を手に取っていた彼は、近くで待機していた人間に代物ごと何かを命じた。


「うえええええええええそんなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




ーーサクモの情けない声が、機関中に響き渡るのであった。

























































ーー其の後、言葉の通りにサクモの身柄は機関の外、名も無き荒野に出され解放されたが、彼女が持つ者は路銀以外ほぼ向こうに奪われてしまった。



(あーあ……路銀は無事だったけれど、急病時の薬と護身用の爆炎瓶没収されちゃった…)

手持ちの虚しさにサクモは少し泣きたくなった。

復讐者の妙な律儀さも彼女の中の虚しさを少しばかり増幅させてしまっている。


…が。
































































「………でも、良かった。()()だけは隠し通せてーー」

サクモが特殊な作りの隠し衣嚢(ポケット)から一つの瓶を取り出す。

ーー瓶の中には、悍まし気に蠢く、女神の灰が入っていた。




「………う…っ……………。やっぱり蠢いてる………気持ち悪い…」

取り出した瓶の中身の恐ろしさに吐き気を催しながら見詰めるサクモは、せめて役割だけでもきちんと全うしなければ、と耐えながら一歩を踏み出して行った。

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