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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Imo umbra chorus(踊る影の底)
61/125

『Vide in turrim』

時は幾時か過ぎ、ある一室。













































「……………矢張り可怪しいと思ったんだ」

珍しく黒い外套を脱いで寛いだ様子を見せている復讐者が、部屋の隅に有る寝台(ベッド)に座るレミエに話し掛ける。

「…復讐者さんも、ですか」

レミエもまた、彼の言葉の意味が分かっているらしく、其れに対応した答えを返した。









星都白塔の攻略時に、復讐者とレミエだけが見た()()()()()()ーー

住み慣れた環境と、様々な苦労と、そして大きく渦巻いた後悔、苦痛。

流れ込んできた無数の情報量に意識が飛んでしまいそうになったが、踏み留まって意識を白昼の底に沈めずに済んだ"あの時"の事。




…復讐者としては、白塔に何らかの力があるとは思っていない。

何故なら星都の前に攻略した聖都白塔の時には歯車仕掛けの絡繰は存在していたが魔術的な力は無かった。

白塔の造り手であるペールア自身星都の白塔だけ何らかの魔術的な仕掛けを施すとは思えない。彼女の性格なら、全ての白塔に魔術的な仕掛けを施すだろう。

























「私も同じく思います」

レミエが復讐者と同様の事を述べる。そして更に彼女自身は己が"感じた"事も語った。


「…塔の中間点辺りでしたよね、確か。私達の脳裏を何かが駆け巡ったのは………」

















……………………

ーー只、其の場に居たのは自分とレミエだけでは無かった。

ユイル、エイン、そして"あの人"。…エインはずっと遠い昔の頃の姿であり、"あの人"が確かに生きていた頃、だと思う。




レミエ、ユイルと何処かで会った事があるのかーー?

然し復讐者はあの瓦礫の聖堂で二人の事を初めて知っただけであり、レミエとユイルも同様である。

(矢張り白昼の幻視なのだろうか)

彼は考察する。…結局、双方納得のいく答えは得られなかった。

































































ーー復讐者が月の夜の回廊を歩いている時、彼の意識が()()引き摺り込まれる感覚に陥った。

「……………………!!!」

彼は頭を抑え、そして目蓋の裏に、瞳の向こうに幻を視る。

















ーー湖面に星が映り、時は夜の帳が下りた。

波間一つすら立たせず、移ろい、揺らぎ、湖面の底へ彼は沈む。


深淵。


復讐者はーー□□は、暗い水底の向こう側に小さな光を見付ける。

画面の明かり。

青を含む光。

誰かが手に持っている。

何者かは見えない。




そして彼が其れを認識した途端、急速に引き摺られて吸い込まれてゆく。

彼が認識した()()に。

















ーー気が付けば彼は"()()"になっていた。



厳密には其れの中から、其れの視点で何らかの画面を見ている状態。彼は、□□は、画面の向こうに見覚えのある光景を視た。









(SNS……………………?)

画面に映されたものがSNSであると分かった時、視界に画面の詳細が鮮明に認識される。

端末の持ち主のアカウント画面に、恐らくは相互で繋がりのある人物との遣り取り。

(気軽に呟けるタイプのSNSか)

全体的に白や青色が多かった画面を見て、彼は直ぐに当時大型規模だった交流型のあるSNSだ、と気付いた。



(はは、楽しそうな様子だな)其の楽しげな様子に彼も僅かに綻ばせた後、アカウントの人物が何者であるのか判明する。

ーーああ、此れは、"あの人"のだ。"あの人"のアカウントじゃないか。ある件でもう存在していないが、本当に此の頃は楽しかったんだな……………

彼は当時の其の人の様子を思い出して懐かしみ、一時の感傷に耽った。其の頃が最も"あの人"自身の苦しい人生の中で珍しく幸せな時期だったのだから当然なのかもしれない。


…だからこそ、尚更シーフォーン達を許せなかった。

















(そうだ、私は聞いた範囲でしか知らない。けれど此の後、■■ヒコだか■■の■とか云う名義の人物とあるトラブルがあって彼は他者をまた信用出来なくなった。そして不幸な事にトラウマが再発し掛かっている時にシーフォーン…当時は…■■さんと呼ばれていた人だったな、奴との間にも起きた。心が既に限界だった彼は少しずつ壊れて、いや連中に壊されていったのだ)


彼は()()()()()()を知る一人だった。其れ故に例え故意でなかったとしても結果として彼の精神を破壊し自殺に追いやった彼女達を許せない。

態とそう狙ったのだとしたら尚更だ。


例え彼女達を地獄に突き落とした今でも。



















































「ーー…っはっ!!!」

復讐者が意識を現へ戻した時、月は上天へ昇っていた。

まるで水の中にずっと潜っていた様な苦しさと感覚が一気に襲い、彼は空気を求めて息を大きく吸う。

一通りの呼吸を繰り返して、落ち着いた頃には彼の意識は明瞭としていた。辺りには誰も居ない。




寧ろ幸いだったのかもしれない。

誰かが居れば、特に見知った者が居たら、きっと心配を掛けてしまうだろうから。

彼はまた呼吸を整えて、何時もの振る舞いに正して、そして自室へ戻ってゆく。

夜は確かに天幕を暗く落としていた。月の目映さを引き立たせる為に。

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