『Seditionis』
「……………訓練、開始!!」
女性の大きな声が空間にけたたましく響き渡った。
「1!2!!1!2!!」
「掛け声が足らないぞ貴様等!!!!!」数十人の男達の声よりも大きく、舞台に立つ女性は叫んだ。
「ユイル姉ちゃん………俺こんなの無理だって〜」
「此の場では隊長と呼びなさい、オディム部隊員」
へたばる少年を傍目にユイルは厳しく接した。
「其れで、サフィーさん達は………」
振り返った先にはサフィーを含めた数人の女性達が立っている。
「訓練終了の後に彼等を労ってやって下さい。あと、サフィー」
彼女は指導者としての顔を一旦緩め、
「貴女は実技の総合評価が高かったですね。もし構わないのなら部隊の構成員として所属してみませんか」
「えっ!?」
サフィーはユイルから告げられた言葉に一瞬だけ驚いた後、面持ちを僅かばかり暗くして、そして彼女は言う。
「………良いんですか…?私、部隊員になっても」
暗い面持ちも彼女からしたら当然である。機関の人間達に対しては反抗的で裏切りに近い行為をしていたのだから、風当たりは総じて良い筈が無いと思っている。
事実、彼女に対して攻撃的な人間はチラホラと見られるが……幸いな事に復讐者達を含めた少数の人間は彼女に対して敵対的な態度を向けなかった。
「…部隊員から何かされるかも、とでも気にしていらっしゃるんですね?……大丈夫、指導を任されている身、私の目が其れ等の行為を断じて許しはしません。だから安心しなさい。優れた力を活かさずどうするのですか」
ユイルが強い眼差しで語り掛けた。
「……っ。はい!」
力強い彼女の言葉に、サフィーは少しだけ救われた気がした。
ーーリプレサリアでは、新たに持ち込まれた複数の情報により現時点での活動では対抗するのは厳しくなるだろうと云う事ともし第五の女神の教団が襲撃してきてしまった場合等といった要因から、機関の全体的な活動や緊急時のハザード、そして対抗の為の部隊を設立する事となった。
対焔群隊Sinoitides。
通称、叛逆部隊。
部隊の指揮を執るのは軍属経験のあるユイルが抜擢された。
白羽の矢を立てられた彼女は初めこそ辞退しようとしたが………復讐者から頭を下げられた事で辞退を取り下げ、快諾に至る。
…そもそも彼女が立てられたのも星都での一件の他に、武人としての鋭い観察眼や洞察力等があったからだろう。
復讐者は避難者として匿う事は予定していたが、前線に立たずとも構わない上で指揮全般を彼としては願いたかったのだ。
じろり、とエインやエムオル、アムルアからは睨まれる事となったもののそういう経緯あって今がある。
「まだまだー!!!甘いぞ!!!!!続けろ!!腕を止めるな!!!!!!!!」
ユイルの厳しい叫びが再びけたたましく響き渡った。
(わあ…凄い人だわ………)サフィーが茫然としている中、サボろうとしたオディムがユイルに引っ張られて連れ戻されてゆく。
「サボるな!!!!!」
「いててててっ、ごめんってば!!!!!!!!」
ユイルの叫びは怒号に近しいものとなる。
「そんな風にサボっていたら復讐者さん達と戦えませんよ!!敵を討つって言ってたではないですか!!!!!」
彼女の言葉にハッとしたオディムが先程とは打って変わってキリッとした表情へと変わり、
「そうだ……俺、絶対ペールアの奴を打ちのめしてやるって決めたんだ…!!爺ちゃんや貧民窟の皆の仇だって…」
「はい!ほら、だったら早く持ち場に戻りなさい!!」
ユイルがオディムの背をバシンと叩く。
「いっ…てて、ユイル姉ちゃんちょっと加減してくれよ〜」
ユイルに叩かれた背中を擦りながら、彼は持ち場へと戻っていった。
…そんな一連の経緯を、物陰に寄り添って静かに見ている者が一人居た。
「……………………。」頭巾を少しばかり揺らした其の女性は、ユイルの様子をそわそわとした様子で見ている。
「……?あれは…………?」サフィーが背後を振り返って彼女の居る方へ視線を向けた時、はたと目が合った両者は、其々の思いを抱く。
(レミエさん?)
サフィーが物陰の修道女を気に掛けると同時に、レミエはぱっと隠れてしまった。
(え…、どうして……………?)少女が彼女の取った行動に疑問符を浮かべる中、ユイルは自分が親しんでいる友に見られていた事には気付かなかった。




