『Ardenti affectu ad exspiravit』
ーー唐突だが、或る女の話を始めよう。
嘗て追従者だったが、憎悪で女神に昇華した女の事だ。
名をペールア・ラショーと呼ぶ。
焔の花を創り出し、
白塔を隆起させた者。
今や紅蓮の女神だの絵画の女神だのと呼ばれては彼女の狂気性に惹かれた狂人達が立ち上げた焔の花教団の主神として敬われている。
と、或る女だ。
今回の話はある種の閑話休題に近いものと思ってくれないか。
そして、記憶に掛かる霧は深く、もしかしたら全てを話し切れないかもしれない。許してくれ。
赤い髪、紅蓮の炎の様に揺らめいて燃える薪の紡ぐ赤色。
黒い瞳、見る者達に一種の蠱惑と恐ろしさと、奇妙さを与えるだろう。
其の容姿の元は、嘗て彼女がぺ■■■■■と名乗り、或いはぽ■■す■■■て■と名乗った彼女が考えた「私が考えた騎士」というものだった。
ペールアと云う女は女神シーフォーンによって追従者となってから、其の姿で在り続けた。無論今もだが、まだ当時は良かった方なのだった。
異様な虫好き、或る亡霊への愛着、絵画の上手さ、ユーモア、奇特な部類ながら多くを惹き付けた。
ある意味シーフォーンとは別の方向で、かもしれない。
彼女は人間として過ごしていた時に心を病み、勤め事の全てを放棄した。
病んだ心の為に治療を経て、時に与えられた薬を規定の量より多く飲んでしまう事をしながらも絵と、■■■と、彼女達との遣り取りを生き甲斐に明るく振る舞っていた。
ーー…一度、彼女は肩を寄せ理解をしようとした。
だが■の深淵は余りにも深過ぎて、其の苦しみを理解出来なかった。
彼が吐いた言葉に傷付き、
そして彼女もまた彼を強く拒絶した。
同じ苦しみとて其の深さが違ったがばかりに、彼は傷付け、理解しようとしてくれたペールアを苦しめた。
……だが、ペールアもまた、罪を立てた。彼にしてはならなかった拒絶を、彼女達と同じ行為を、ペールアもまた行い、彼を深く傷付け心を殺し、更には彼の親類までも傷付けた。
其れは容易に。
其れは其れはいとも容易く。
……嘗て■を傷付け、シーフォーン達に続き心を殺した彼女が、虫の話を、亡霊の話を楽しそうにしながら女神となったシーフォーンを深く敬愛し、盲信し、愛を向けた。無償の様な愛を。
当時、彼女はまだ盲信程度で済んでいた。…が、其の盲信は仇となってしまった、らしい。
切っ掛けなんて恐ろしい程些細なもので、其れ等が備蓄される毎に膨大さを増してゆく。
今回の女神ペールア・ラショーとは、そんなものだ。
………さて、彼女が親類の者を拒絶し攻撃する時、其の人物へ向けて言い放った言葉を残しておこう。
『何度も来るのは何故?愛情の確認ですか?』
………愚かな女だ。仕様上何度も来なければ評価が出来なかったので純粋な評価、賞賛のみを行う為に来ただけであり、他意は無かったのだが。
愛情等と云う言葉を取り出したとは、寧ろ何故そんな言葉が出せたのかが限りなく謎だった。
因果こそあろうとも、其処で有名過ぎたが故に起こり得る事に想定すら巡らせず素っ頓狂な言葉を取り出して、…結果、過激で、攻撃的で、突き放し、既に壊れていた彼の心をまた破壊した。
…恨まれて当然である。
復讐の青い花は未だ枯れてはいない。
見よ、紅蓮に燃える妄執と狂気と情欲塗れの雌の喉を何度でも裂こうと咲き続けているじゃないか。




