『Finis meus Somnium』
ゴォォォォォォォォーー
塔を飛び降りた復讐者の身体は、高所の風に煽られて黒衣を荒々しく翻した。
そして一度、体勢を変えて塔の白壁に剣を突き立てる。ガリガリと硬質の壁を削り切る音がした。
(未知の物質で出来ているとは聞いていたがーーどうやら今の状態からして此れで傷付けられるらしい…)
詰まる所未知の物質には同じ様に未知の物質で出来ている代物で何とか出来るという訳だった。…いや、もしかしたら、塔の主と焔の花が消滅した事で塔其の物が脆くなったのかもしれない。
壁を削り切る事で復讐者の身体が落下する速度は次第に緩やかになっていき、そしてぴたりと動きは止まった。
彼が真下を見てみるとどうもまだ高さがあるらしく此の儘落ちれば一溜りも無いだろう。
「……………………。」復讐者は考える事もせず、身を大きく翻してから今度は剣を抜いて白壁伝いに駆け抜けて降りてゆく。
下方に向かっている為、彼の速度は更に速くなってゆくがーー何と己の身体の一部を亜獣化して壁を蹴り飛ばした。
徐々に地面に近付いてゆく。
此の儘では確実に彼は顔面から直撃するだろう。
ーーそうなるよりも先に、地面から数十m上の方で己の黒剣を持ち直して剣を強く蹴る。衝撃が剣を通して彼の腕に伝わった。
「くっ…」少し痛そうに振る舞うが彼は続けて空気を蹴り、そして一回転する。くるりと再び翻った彼の身体は滑らかに素早く動く映像の様でーー彼は、復讐者は大きな衝撃と共に地面に着地し、辺りを凹ませた。
…そして其の衝撃の所為なのか、形を必死に留めていたであろう星都の白塔は一気に崩れ果てた。
デインソピアの夢の様な城の瓦礫の上に、乙女の夢の塔の白い瓦礫が積もる。
ーー二つの愚かな夢が潰えた姿を、彼は静かに眺めている。
彼女達の様に我が為ばかりでは何一つも生まないのだと知りながら、彼は復讐を続ける。
自分自身の為でもあり、
永遠に喪われた"彼"の為に。




