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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Dedelwn Dark Kawntein(星都白塔)
49/125

『Falsum Virginis』

少女の不安を乙女は理解しない。




其の瞳は、限り無く虚ろであり、

其の心は、憐れな程に空虚であり、

感情は読めず、理解は喪われ、

そして乙女と云う容れモノだけが其処に在る様なもの。

















そう云う"モノ"を、人は「贋者」と形容する。

ーー曰く復讐者。

彼は、強い感情の中に、贋者の星の乙女(■■■■)への憎悪を抱いた。


彼にとって怨恨の大きな原因の一つに過ぎないし、例え贋者であろうと憎いものは憎い。

彼の知る限り「本物の」星の乙女(■■■■)は既にニイスに殺されている、筈なのだから。












































そして乙女は振り上げる。

己の武器を、硝子の剣を。

愛する天体を、宇宙を、煌星の民なるものの血に秘められた美しい力と、愛と、想いを。

感情の失われてしまった其の身に本物の再現の如く顕そうとしてーー














































少女の身体は、破砕した。













































「!?」

星の乙女(■■■■)様ぁっ!!!」一行と少女が、驚愕と叫びに(うず)もれる。

「……あ、………ああ、…あ、……………あ、ああ、あ、あ…あ」乙女の身体はガクガクと大きく震え、立ち留まろうとしている。打ち砕けた頭部からは脳が漏れ出し、口からは体液を溢れさせ零している。

血は無機質な迄に白かった。

「い…や……いやあああ!!!!!!!!!!」少女が嘗ての悲劇を思い出して泣き叫ぶ。乙女は言葉にならない言葉を呟き…ゴボゴボと口から泡を吹かす。

「やだ、嫌だぁ!!!■■■■さまっ、星の乙女(■■■■)様ぁぁッ!!!!!」

少女は縋る様に乙女の元へ己の身を引き摺りながら手を伸ばし向かう。

「いや…あれは……()()は……………」

一行が一人、レミエが只一人、何か乙女にある「悍ましいもの」に気付いて僅かに怯えた。




レミエには視えていたのかもしれない。


乙女の形をしたモノに漂う、残り香から。




ーー絵の具の匂い、混ざった鉄の様な匂いに、差し込まれた赤色。

此の場で彼女が風に煽られた事で認識して気付いたが、こびり付いた錆の様に衣服の一部を濡らし、羽を赤黒く染め、髪の黒で隠された錆びた赤。

僅かに焦げ付いた一部と、少し煤の付いた靴。

場違いな程の青で不気味な程誤魔化されていた()()は、乾いた空気の中で幽かな香りとして、吹き荒む風に乗せられて届いた。



星の乙女(■■■■)がペールアの創った贋者ならば、恐らく、必要とした素材に人肉と鮮血を望んだのだろう。()一人創るのに何人が犠牲にされたのだろう。

そして恐らく犠牲になった者は、炎の雨から逃げ遅れた者と、焔の花教団の人間数名ーー


ペールアが"創作"を行う際、数多の命が犠牲とされ、彼女の創作の為の「素材」にされていた。

































レミエから、彼女が視えたものの顛末を聞いて、復讐者は再度思う。「可能な限りの人間を避難させる事が出来た事」を、

ペールアの悍ましい行為から逃す事が出来たという事を。

































































「っくう…っ!!!!!」

少女(サフィー)がエインとエムオルの二人を相手に取って牽制を続ける。土壇場での少女の行動力は二人掛かりでも中々に困難な様だ。

「…すみません、私、あのお二人を加勢しに行きます」レミエが已むを得ず二人の加勢に向かうと、其処に残されたのは復讐者と偽りの星の乙女(■■■■)、此の二人だけだった。


乙女はゴボゴボと音を立てながら破砕した己の頭部をゆっくりと再生成させている。

「新たな女神に歪められて不気味な化外に成り果てたな、星の乙女」

復讐者が語る間にも彼女の破砕部分は再生されてゆく。

「……ア、アァ、あ………おあ、ア゛、ォ゛ア゛、アあ゛……………」

彼女は再び硝子の剣を掲げた。

そして先程と同じく彼女の身体は再び破砕される。




「自壊するつもりか」復讐者の冷めた声は乙女に届く筈は無い。

其れでも彼女はーー剣を掲げる。

「!!星の乙女(■■■■)さまっ!!いけませんっ!!!戦っちゃ駄目ですっ!!!!!」

少女が彼女の行動に気付いて、止めようと彼女の元へ向かうべく振り返った時、

























「…すみません、強行手段を取らせて下さいね」

涼やかなレミエの声ーー

「ソフィ…っ…………!?きゃぁっ!!!!!」

刀剣の鞘で咄嗟に少女の鳩尾を強く叩いた衝撃で、少女は其処に崩折れる。

「あう、うーー」

ガクリ、と項垂れる様に少女の身体は動かなくなった。






「すみません、レミエさん」

「いいえ、こうするしか、無かったんです。こうするしか…ーー」エインの言葉に、レミエは少し落ち込んだ様子で返した。

例え敵対してしまっていたとは言えどリプレサリアへ来た難民の一人で、厄介者ではあっても守らねばならない対象だった。許せない所は多々あるけれど、少なくとも、殺す訳にもいかない。




ーー三人が少女の動きを止めた後、突如塔全体が大きく揺れた。

「!!!?」其の場に居た一行全員が驚いて直ぐ、復讐者から別の目配せが送られた。



(…そいつ(サフィー)を連れ出して先に塔から出てくれ)




(私達だけで?貴方はどうするんです)

(私は構わん。やる事が出来ただけだ)

エインと復讐者は目配せのみで遣り取りを行う。

(もしかして貴方だけ塔を爆破して楽しく帰るつもりでは無いですよね?)

敢えてエインは巫山戯た事を復讐者へ目配せて伝える。ーーが、復讐者は(そういう事じゃない)と若干呆れ気味ながら冷静に返した。




(アレ(星の乙女)はもう殆ど持たん、どうやら女神は私達を牽制しあわ良くば殺す為だけに創ったのだろう。まあ、私に出来る事をするだけだから先に帰っててくれ)

























復讐者の意図が何と無く分かった気がして、エインはこくりと小さく頷いた後、サフィーを背負った後、先立ってレミエとエムオルと共に塔を降りていった。

ーーそして、本当に、頂上に残ったのは二人だけ。



小さな揺れを小刻みに繰り返す白塔の中で、青い服の乙女と黒装の青年が向かい合って立つ。




































































「ーーやあ、星の乙女(■■■■)、今日は恐ろしくなる位素敵な天気じゃあないか」


復讐者は敢えて振る舞いを変える。ーーまるで()()()()()()




「ご機嫌麗しゅう、偽りの乙女よ。其の虚ろな瞳には何を映しているのかな」

彼は溶け出した彼女の瞳を覗き見る。光を失った其の瞳を。

「壊れ掛けた其の身体で誰かを傷付ける必要は無い。ましてや自分自身を破砕する必要も無い」

態とらしく気遣った声音と言葉でーー

「君は救いを求めている。本当はそうだろう。随分無理したんじゃ無いのか?」

雲間から覗いたヤコブの梯子を指差して。

「もう良いのさ。女神(ペールア)の言葉を聞く必要は無い。君が彼女の言葉に従って我々に宣戦布告をして、そして此処に居るのならば」









「ア゛………ア゛ァ、ぉア゛、あゔ……あ゛、ア゛ォ゛…………」

言葉にならない乙女の爛れ切った声が、まるで悲しみの様にも思えて、復讐者は目を細めた。

「…辛いのか」

「ア゛ゥ゛……………ウーーーーーーーーー、うぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

とうとう彼女の言葉は泣いている様なものへと変わり、そして復讐者は憐れむ様で冷め切った様子で、彼女へ向けて報復者の剣を静かに向ける。

乙女には見えていない。

















「……だったら、私が終わらせてやろう。本物を(ニイス)が滅ぼした様には出来ないが、使い捨てられるであろうお前に引導は渡してやれる」

風に煽られて、復讐者の蒼い瞳がはっきりとされた。

そして呼応する様に黒い刀身の剣は蒼く美しい輝きを放ちーー




大きく振り上げた其の一撃を、偽りの乙女(■■■■)へ向けて振り下ろした。









蒼い輝きが彼女の全身を穿き、塔の頂上を蒼く照らしたーー

目映い輝きに真っ赤な焔の花も、全て呑み込まれて軈て枯れ果てる。

































其の輝きは、先に塔から抜け出していた一行の目にはっきりと焼き付いていた。
















































例え偽りだとしても、乙女に相応しい最期を。




敵への情け、憐れみーー

其の様に振る舞っていながら、彼はどうやら乙女の最期まで、欠片程の憐憫すら彼女に寄せなかった。

込めたの只、■■■■への憎悪のみ。

刃は花束の中に沈めて、そして怨敵を殺す。ーー多分そういうものなのだ、彼にとっては。




そうしてたった独りだけになった復讐者は、一息深く吐いて先程乙女が立っていた所まで歩く。

…下を覗くと、辺り一面は凄惨な瓦礫の跡地だけだった。









「…あの一箇所だけはどうやら安全そうだ」安全を確認した彼は、己の身の回りを確かめ直して、そして助走を付けて其の場から一斉に飛び降りたーー

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