『Graecus scriptor pictis dolors』
彼等が内部を進み行く最中、其の塔の最上ーー星の乙女が虚ろな瞳で塔より遠く向こう側を眺めていた。突然の空気を切り裂く音が鼓膜を響かせ、彼女は振り向く。
「ようクソ創作物」酷く品性の無い言い方で声を掛けてきたV字の様な前髪でメッシュ頭の少女。青い瞳が奥の方で鋭く光る。
「まー生きとったんかいワレぇ、大人しくくたばってりゃ良かったのに」
えらく攻撃的に言葉を吐く此の少女は動き易くある程度頑丈な衣服に身を包んで赤色の羽織物を纏っている。
顔立ちや格好からは一見少年の様にも見えなくも無い。だが一つ纏めの長い髪と僅かに膨らむ胸元からして確かに少女であった。
「さーすが、一番頭可怪しいだけあるから暑いわー」あち〜と言って手で仰ぐ彼女は、確かに暑過ぎる環境故か袖無しの服を着ている様だ。
「…………………………。」気配すら発さず現れた少女に声を掛けられても、虚ろな瞳の星の乙女はびくとも反応しない。
「………ムカつく、」無視された、と感じてか、少女ーー改め、スノウルは不機嫌そうに呟いた。
ーークソ、
スノウルは舌打ち後、星の乙女を突き飛ばして、そして彼女を組み敷いて詰った。
「何なんだよテメエは!!!!!くるんくるんだかキラキラだか何だか分かんねえけどよ!!!!!!!!!!似合わねえんだよ!!!!!!なーにが"煌星の民"だ!!!!!!!!巫山戯んなよガキが!!!!!!!!!お前のメルヘンイカれクソ■■■なんて合ってねえんだよ!!!!!あの世界観に!!!!!!!!!!!!創った奴も大概イカれ頭のメルヘン脳だな!!!!!!!クソ■■■が!!!!!■違い■■人が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
乙女の目と鼻の先で只管詰り、罵倒するスノウル。
其れですら反応しない星の乙女の、虚ろな瞳。
「ーーっハッ、耳にも届いておりません、ってやつ?本当にら本当に自分達への賞賛とかそういうもの以外には目もくれず否定するってか。…草生えるw肯定だけじゃ何も成長しないんじゃ無かったっけ?」
心無しか無言を押し貫かれた事への負け惜しみの様にも聞こえなくは無い、スノウルの言葉。
「…………………………。」例え突き飛ばされた挙句押し倒されても無反応な乙女に、とうとうスノウルは皮肉を吐いた。
「ふっはははっ!!!何それ?無視かよマジか!!!!!ーーまるで人形みたいだな。女神に創られた都合の良い理想人形だもんなぁ〜www、異邦者の糸人形ってか!!!wwwwww」
今のお前には相応しいよ、と吐き捨てたスノウルに、
「ーー!!、デインソピアを悪く言うな!!!!!」
星の乙女が感情を一時取り戻す。
ぶわりと大きな力の奔流が彼女を中心に展開された。
「!!!っ」スノウルは素早く翻り乙女から離れ、事無きを得る。
「ひゅ〜あっぶねw」と軽々しい口調を紡ぎながら巫山戯た薄ら笑いを漏らすスノウルの目は笑っていなかった。
「ーー…あなたはここから立ち去って。いてほしくないの。わたしのしょうがいになるだろうから」
一瞬強く宿した光が少しずつ失われて、そして虚ろな瞳に戻った。
「………………………………ふん、」スノウルは僅かに鼻を鳴らして強気に彼女を見た。
(試しに煽ってみたが殺される前の状態に戻るトリガーは完全じゃないみたいだな〜)
と、スノウルなりの考察を経て彼女は判断した。
(こりゃ贋者だな)
噂を聞き付けて直接見に来たがーー喜ばしい事に、或いは残念な事に、本物では無かった。女神の創作物と復讐者の滑稽な争いを高みから見物してやろうとでも思っていたが、興醒めしたらしい。
ーー丁度焔の花が開きかけて炎の雨を降らす兆候が見えたのも相俟って、スノウルは其の場から引き下がった。
「じゃあ楽しく殺し合って下さいね〜wお前が殺されるのを期待してるぜwww」
何処か邪悪さを秘めた笑みを見せて彼女は靄の様に立ち去って行った。




