『Primo magnitudinis mens praetrepidans avet』
舞う一等星。遍く星達の中で最も輝ける御方。麗しき可憐の星。愛されるべき少女騎士。
煌星の少女。
『星の乙女』と呼ばれる少女についてそう伝えられている。
ーーそういう少女として創られた理由としては、デインソピアの「好き」を詰め込んで"設定"された為。
故に数多から「可愛い」「可憐」「綺麗」…等といった賞賛を一手に集める容姿、性格、振る舞い、全てだった。
兎に角皆から愛されるべき存在として創られたので、星の乙女教というものはデインソピアや彼女を絶賛したシーフォーンにとって、狙った通りの未来だった。
そもそも、宗教という形にして世界中に彼女の存在を伝播させたのはシーフォーンだったのである。女神曰く「神話」。
「■■■■■は神話」ーー嘗て彼女がまだ人間だった頃に呟いたとある一言である。
ーーが、正直復讐者にとってはどうでも良い話であり、と言うか寧ろ在るべき公式を乱しかねない程度には影響力があった事と存じない立場の人間を勘違いさせてしまう所から良い印象は皆無だった。
其の上まだ復讐者が■■という人物だった頃に見た人間時代のデインソピアの
「■■の■■■■が上位になったら深夜の街中を叫びながら走り回る」
……なんて発言をとある所で目にした事があったので、創り手であるデインソピア自身に対して相当な気持ち悪さと、序に"頭の可怪しい人"という印象を持っていた。
そういう事で、デインソピアには一番ヤバい人という印象と、其の創作物である星の乙女にはヤバい、おかしい、怖いという印象が残った。
…特に"あの人"は彼女と創作物に対して復讐者以上に恐怖を感じていたらしい。
……………………と、復讐者が知る限りの「対象」という存在のこと。
「……………………」復讐者は黙り込んで、考える。
其の折の事であった。
ーーふっ、と彼の中で何かが明滅した気がした。
「敵の事を思い返す」という思考行為の中で、彼は何かを見ている感覚に陥った。
…レミエ、ユイル、エイン。
そしてニイス。
彼を含めて5人。何処か遠い昔から知っていた様な気がして、言葉を吐こうとして彼は空気を僅かばかりに吸い込んだ。
一枚の磨り硝子を隔てて、暗闇の向こう側のノイズを見詰める感覚。
古く錆びた記憶の映画を暗い部屋の中で視聴するあの雰囲気に近かった。事柄の殆どを覚えている筈の彼には有り得ない光景。何故、此の感覚に陥るのか。
そして其れは塔の中を進み行くにつれて大きくなり、遂には脳漿の果てにすら到達せしめんと言わんばかりに彼の視界を時折奪った。
「………?」困惑する復讐者を側目に見たレミエが、少しばかり気掛かりそうに肩を叩こうと伸ばした。
…が、其れは彼女自身も何故か復讐者に似た状況に陥ってしまった。まるで感染する様に。
「ーー!?」レミエも戸惑いを強くする。自分もまた傍に居る彼の様になっている。
然し同じく、其の戸惑いを必死に隠そうと精一杯振る舞う。幸いエインとエムオルには悟られていない。…きっと、復讐者も同じなのだろう。
両者は同じ状況に陥りながら、偶然にも同じ考え方をしていた。
「此れは星の乙女が視せているものなのかーー?」両者の偶然の一致が導き出そうとした答え。
或いは塔の持つ力なのか、
矢張り本当にあの星の乙女が視せているのか。
立ち止まるな、と心に強く念じて、幻惑めいた思考の占拠から二人は逃れた。
己の心が囚われず無事である事を一時の安堵としながら、視線でお互いを認識し合う。
然しまたーー同じ暗中の海の中に落ちてしまわぬ様に強く自我を持たなくてはならなくなった。故に必死を繕い一行は最上部を目指してゆくーー




