『Collapsed caput sidus』
一行が本拠地であるリプレサリアを出てから約一週間程過ぎた頃、更に2日程を掛けて一行は遂に星都ソフィアリア・イルへと辿り着いた。
ーー辺りを見回しても人の気配はせず、不気味な程静まり返った環境だった。
残るのは廷であった名残の瓦礫と其れを突き抜けて建つ白塔、そして星の乙女やデインソピアにとって夢の様な世界を再現した筈の、成れの果て。
所々が崩れており都としての機能はほぼ失われている。
殆どは焔の花が起こす炎の雨の所為ではあるだろうが、恐らく洗脳の解けた人間達の暴動による影響もあるのだろう。
兎に角酷い有様だった。聖都よりも酷いかもしれない。
「うわ……」
「酷い………殆ど残っていないじゃないですか…………!!!!」
女神を討ち取ったのは彼等とは言え、流石に此処まで荒れ果ててしまっている事には引いた。ーー遣り場を失った怒りの矛先はこういう形で顕れる事もあるのだから。
(暴動も…だろうが、殆どはペールアの所業だな)復讐者は辺りを見回してエインが一時期過ごしていた小屋を探した。
…が、全ての建物が瓦礫と化してしまっていた為見分けも付かず、分かる筈は当然無かった。
「まあ此処に居るのも野暮ですし、早く塔の攻略に勤しみましょう」エインが何時も通りにそう言えば、一行は其の儘塔の中へ歩み入ろうとする。
ーー……然し、彼等の前に突如として火柱が現れ、其の先へ征こうとする一行の足元を立ち塞いだ。
「熱っ!!…何だ此れ、は、火柱か!?」
一行の行く手を阻む火柱の出現に皆が驚き、そして素早く距離を取る。
火柱は一つだけでは無かった。幾つもの火柱が白塔を周りを囲み、まるで塔を守ろうとしている様に見えた。
…………。
面倒な事になったな、と復讐者が睨む。
塞がれた行く手を茫然と見遣る一行の前から、白い羽がふわりと一枚だけ落ちてきた。
然し其の羽は火柱の熱に当てられて、まるで蝋の様にとろりと溶けてしまう。
「ーー…。」落ちて溶けた羽の持ち主を見る為に送った視線の先、より高くに一人の少女が浮かんでいた。
…少女の瞳は光を宿さず、虚ろに、静かに、復讐者達を見ていた。
「星の乙女……………………!!!!」
彼等が皆口を揃えて少女の名を出すと、小さく反応し少女はぼんやりと口を開いた。
「……ふくしゅうしゃ、」
復讐者、とたった小さな囁き程度だが、何故か恐ろしい程に声は通っていた。
そして少女はーー
何を思ってなのか、勢い良く下降し、復讐者の目の前に現れる。
「…………………………」星の乙女、と呼ばれた少女は虚ろな瞳の中に復讐者の姿を映して、彼の顔をじっと見詰めた。
怨敵ーーである目の前の少女に間近で見詰められた復讐者は其の薄気味悪さにやや引きつつ警戒をする。
「あなたが、復讐者なのね」虚ろな瞳の少女はもう一度彼の名を出し訊ねると、瞳孔を大きくした。
「……………………。」復讐者は強く、強く警戒をし続けた。此の気味の悪い少女に一切の容赦もしない。
あわや一触即発か、と同行する仲間達が思っていた中、虚ろな瞳の少女が何も言わずふわりと其の場から飛び立ち、恐らくーー塔の最上部の方へと飛んで行ってしまった。
「……………………」突然現れた敵方の少女に戸惑いを覚えている一行の前を、行く手を阻んでいた火の柱の存在を、早めに我に帰ったレミエが指摘する。
「あ…あれ……火柱が消えてますよ…」彼女の言葉の通り、行く手を塞いでいたあの灼熱の火柱は全てが消えていた。
「あの少女が、敢えて取り払ったのでしょうか?」エインの疑問も其の儘に、塔攻略の道が開けた事を素直に喜んで一行は身を引き締めた。
「ついでに、気も、ひきしめよー」エムオルの言葉に促される勢いで更に気も引き締めて、復讐者達は駆け足で塔の中へ進んで行った。




