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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Dedelwn Dark Kawntein(星都白塔)
38/125

『Domus comprehensionem』

復讐者達が星都へ向けて旅立ったのは3日程前だったーー

彼等が星都へ向かっている間、オディムとサフィー、此の二人はリプレサリアの個室で過ごしていた。所謂(いわゆる)謹慎処分というやつで、サフィーの身勝手な行動と振る舞いが復讐者達の足を引っ張った為に取られた処分、及び措置だった。




勿論一行と行動した者達の中で年少であるオディムとサフィーが危険に曝されるのを防ぐ為でもある…のだが、サフィーの場合は専ら前者の方が強かった。

対してオディムの場合は後者の意味合いの方が強くて、そしてサフィーが何かおかしな行動をしない様に見張りの役目も負わされている様だった。

















「……………………。」


サフィーは部屋に戻ってきた少年の姿を見て忌々しそうに睨み付ける。

オディムの方はと言うとサフィーに睨まれて心底嫌そうに眉を顰めたが、直ぐに自分の寝台(ベッド)の上に座り刃物(ナイフ)で何かを彫り始めた。




(木の枝……?)

サフィーがオディムの様子をじっと見詰めていると、ふと、気が付いたらしくオディムがサフィーを見る。

「…何見てんだよ」

「…いえ。危険な物を使って物騒な事をしているのではと思ったもので」

サフィーがそう答えると、「お前がそれを言うのかよ」と呆れた顔で返される。確かに、自分も星の乙女(■■■■)様とデインソピア様から賜った硝子の短剣を常に持っている。




「…なあ、お前さ」オディムがサフィーに声を掛けた。

「何ですか」サフィーは事務的に受け応えた。


「塩塗り込む事聞くけどもさ、その硝子の短剣さ、どうするんだよ」




ーー少年の口から、ぽろりと零れた言葉が、少女の心に影を差す。

































「……………わ、」

俯いたサフィーの前髪が、彼女の赤紫色の瞳を覆う。


「私は………この刃物(硝子の短剣)を、使える気がしない……………」

少女の声は震えていた。









ーーロザを殺してしまった剣。復讐者(■■■■様の仇)を殺す為に大切にしていた武器。

たった一つの。


自分にとっては憧れの。

















でも其れは憧れていた者達の死によって赤く染まった。

錆びついてしまう筈の短剣。だけれど其れはあまりにも綺麗過ぎる硝子で出来ていて。

だから其の血に埋もれても、恐ろしくなる程綺麗な儘で。



そして初めて"武器は怖いもの"だと認識してしまった。

















「…ふーん…………………」オディムはサフィーの言葉を只々聞いていた。

そして彼は何を思ったのか、「じゃあさ、」と言葉を吐く。

















































「それ俺にくれよ」少年はニカッ、と歳相応の笑顔を少女へ向けた。

其れは其れは唐突に。

「なっ…!!あげませんよ!!!大体これは星の乙女(■■■■)様から賜った星の乙女教徒(ソピステラ)の宝であって、選ばれた者にしか…!!」

「だって使える気がしないんだろ?そんなんじゃ武器が可哀想だぜ?武器にとって使われないのはーー」



ーー無用の長物であるのと同じ。

















「…だって、爺ちゃんが言ってた。……まあ、本当なら、武器なんか使われる事の無い世の中な方が一番良いんだろうけど」

そう言いながらオディムは、手に握った木の枝を立派な木彫りの小さな人形にして喜んでいた。どうやら自慢の一品になったらしい。

あまりにも少年らしい彼の姿を見て、今度はサフィーが呆れた。

「…で、貴方がさっきから彫っていた…木彫り人形?其れは何なんですか」

「エムオルだよ」

「エムオル?あのツブ族ですか?」

「うん、そうだよ。アムルアの奴、エムオルの後ろによく食っ付いて付いてくるだろ?エムオルが居ない時きっと寂しいだろうしさ、それでこれ作ってたんだ」

ーーそう見せてきた小さな木彫りのエムオルは、よく見ると意外と出来ている。




(木彫り…………………)よく出来た木彫りの人形をまじまじと見て、少女は思い付く。


ーー此の少年(オディム)を出し抜いたりして、どうにか脱出出来ないだろうか?



等と、彼女なりに頭を必死に働かせて考えた。

























「…あの、ちょっと。もし…これ位の大きさの木彫りの人形を作って欲しい、と頼んだらどれ位掛かります?」

サフィーは必死に大きさをオディムの前で形にし、時に自分が座る椅子と比較して教えた。

「え〜?そんなの早くても一週間以上掛かるに決まってるだろ〜?」

おっと、誤算だった。

どうやら木彫りを甘く見ていた。仕方が無い、直ぐにでも脱出出来る様にしなければ。




「…じゃあ、それ、アムルアに渡しに行ったらどうです?貴方は出入りが自由なのでしょう?」

「そりゃそうだけどもさ……」オディムはサフィーが勝手に抜け出したりしない様に見ていなければならない。



「でもアムルア、きっと直接渡された方が喜ぶんじゃないですか?それにあんなに小さな子に対して此処まで来てもらおうとするとか…」

「〜分かったよ分かったよ!!!渡しに行けば良いんだろ!!!!!絶対其処に居ろよな!!逃げんなよ!!!!!」

…と言うと、オディムは颯爽と部屋から出て駆け足で走って行ってしまった。

(馬鹿ね。本当に貧民窟(スラム)の人間って愚かだわ)

少女がほくそ笑んでいる事すら知らずに。








































「…っ、と…………………………」サフィーは本を慎重に積む。勿論教徒の聖書は積まない。

少女はてきぱきと早く、少年が戻って来る前に済ませた。

「…扉の前に棚を置いて簡単には開けられない様にしましたし、私の寝台(ベッド)敷布(シーツ)を裂いてロープにしておきました。ついでにもし扉が開いた時の為にもあいつが困る様にちょっとした仕掛けも施しておいたし……よし、行かなきゃ。今度こそ復讐者を殺すんです」

そして傍らの短剣に視線を落とす。

(硝子の短剣………ロザを殺してしまった…けれど、私、星の乙女(■■■■)様の仇を討つって、誓ったから……………)

少女は硝子の短剣の柄を強く握り締めて、そして専用の鞘に収めた。


(絶対…星都に辿り着いてみせる!!!)

そうして少女は鍵を外して窓から飛び降りたーー


























































































「ーー〜っ、何だよこれ!!!開かねえ!!!!!」

サフィーが窓から飛び降りて抜け出してから数分後、オディムが扉のノブを必死に掴んで開けようと奮戦していた。

「おでぃむ、だ…大丈夫??」付いて来たアムルアが心配そうに見詰めてから直ぐ、オディムが扉を蹴破って開いた。

……が、案の定サフィーは其処には居らず、残っていたのは椅子の上に積まれた数冊の本と、敷布(シーツ)で作ったと思われるロープと、そして扉を塞いでいたと思われる棚だけだった。



「あいつ、やっぱり……!!!」オディムは心底腹立たしそうに辺りを見回すと、足を引っ掛かったらしく、油断した彼を更に追い詰める様に"()()"が飛んで来た。









「ーー〜ぶっ!!!!!!!!」

オディムの顔に高級そうな装丁の分厚い本が直撃すると、彼は其の勢い、或いは痛みの為か其の場に倒れてしまった。

「んん!!!?」一連の流れを見ていたアムルアが思い切り吃驚(びっくり)した後、慌てて医務室の人間を呼びに走って行ったのであった。

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