『Quasi stella Priming』
ーー星都。
嘗て「ソフィアリア・イル」と呼ばれていた都。女神デインソピアが治めていた場所であり、彼女の理想の集大成である「星の乙女ちゃんランド」そのもの。
…そしてその「星の乙女ちゃん」が暮らす場所と定めていた、彼女の夢の城が聳え立っていた所でもあった。
煌星の少女騎士と名高き星の乙女を主神と擁し彼女と四女神を信仰する星の乙女教の総本山。確かに、其処には女神デインソピアの廷があった。
然し今では耐震設計もぞんざいだったが為に倒壊し果てた瓦礫の山であり、夢の城は女神と乙女の死によって霧散した。
ーーそんな廷の成れの果てにうず高く聳え立った、白い塔。そして頂上に戴く、焔の花。
塔を見上げる虚ろな瞳の少女に、赤く燃える髪を棚引かせた女が隣に立っていた。
「…………………。」
少女は光を失った青い瞳で塔の頂上の焔の花をじっと見ている。少女の背には小さめの白い翼、黒い髪は毛先にかける度にまるで宇宙を内包したかの様な多色を持っていた。
白皙陶磁の様に白い肌は、宛ら理想的な少女の様だ。
然し其の造りには創り主の意図があるらしい。"まるで意中の男に恋する者が、己自身を美化して其の男に宛て代わらせ"たがった様な。
「死に絶え、虚ろになっても、矢張り星の乙女ちゃんは可愛くて美しいですねぇ……はあ…デインさん御自身も相当お美しかったのでしょう……何たって自分と同一視されて喜んでいた程でしたからね」
少女の肩を優しく掴んで、ねっとりと傍で囁くペールアは例えるなら純真な少女を惑わし、良くない事を吹き込む魔性の女にも見えなくは無い。
ペールアは眉を下げて星の乙女らしき少女へ語った。
「…酷いですよねぇ……お可哀そうに…星の乙女ちゃん………貴女の理想の場所である此の場所…貴女が創った■■■■ちゃんランドが……あの復讐者共に滅ぼされてしまって………」
少々態とらしい程に悲しそうな声で続けながら、
「本当なら■■くんと結ばれる筈だったのに、復讐者共に邪魔されて、また離れ離れにされてしまって………ああ、本当に可哀想に、可哀想に、可哀想に。許せないですよね?復讐者によって離れ離れにされちゃった事。貴女の■■■■ちゃんランドがこーんなに滅茶苦茶にされちゃった事」
■■くん、という言葉に少女がぴくりと反応した。
「だぁかぁらぁ、さっくり殺しちゃいましょうよ。復讐者共を皆殺しにしてぇ、また作り直しましょ。貴女の理想の■■■■ちゃんランドを。もう一度、もう二度と、わるーい奴等に好き勝手されない様に」
ペールアの吐息は淫らに虚ろな瞳の少女を取り巻いた。
「そしてやり直しましょう…星の乙女ちゃん……貴女が、生まれ変わった■■■■ちゃんランドで、貴女の愛する■■くんと、また巡り逢って今度こそ結ばれるんです。お二人で、え・い・え・ん・に…♡」
魔性の言葉が虚ろな瞳の少女の心を蝕んでゆく。
「…、■………ん……………………■…■……く………。■■…くん…………………………」
虚ろな瞳の少女が囈言の様に男の名を唱えた。
「そう。■■くんですよ。彼の為に、殺しましょう。貴女と、彼を隔てる障害を」
にんまりと光の無い目を笑わせ、口を大きく吊り上げて歪ませ。ペールアは囁き、嗤う。
「…ふくしゅうしゃ、」
少女がぽつりと復讐者の名を出した時、ペールアの瞳はカッと見開かれ少女の両肩を強く掴み彼女へ強く怒鳴って言い聞かせた。
「そう!!そうだ!!!復讐者だ!!!!!あの男を殺せ!!!!!食っ付いてる仲間も纏めて殺せ!!!!!!!!!!造物主達に報いろ!!!!!!!殺せ!!!絶対に殺せ!!!!!!!!!!殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!!!!!!!!黒外套の男を殺せ!!!!!蒼い瞳の!!!復讐者を!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
打って変わって鬼気迫る表情で虚ろな少女に言い聞かせる。其れは最早人の道から外れた者の様な姿であり。
「…………………………」少女もまた、怯える事も無く既に人ではなくなっていた。
「分かった。ペールア………その人を、殺せば、良いんだよね…?………そうしたら、デインちゃんや…ア■■ちゃん…や、みんな…戻ってくる……んでしょ…」
ぼんやりと、少女の瞳は空を見ている。
「みんな戻ってきたら…■■くんも………戻って、く…るの……?…わから…ない………けど、頑張るね」
少しずつ輪郭を失った言葉が空に舞った。
「そう。そうですよ。だから頑張って、復讐者共を殺しちゃって下さい。ばぱっと、貴女なら出来ちゃいます」
ペールアの邪悪な微笑みが少女に向けられた。
「ああそうだ。サクモさんがどうもやらかしたみたいだから助けましたが……お仕置き必要あるかしら…」
少女から離れ、ペールアは廃墟の影からフッと消えていった。
ーー塔の前に取り残されたのは、虚ろな瞳の少女ただ独り。
上の空で塔を見上げる、一人の少女の姿をしたモノ。
「あれ…■■くんって……誰だったかな………でも、とても大切な気がする…愛おしい…名前……………■■くん…■■…………………………」
形を保てない囈言が、焼き切れた灰と共に空に吸い込まれていった。




