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『Estuans frigus』
ーー感覚は、喩えるなら急速に失われてゆく体温の様に。
冷えてゆく身体が動きを鈍らせる。
次第に硬直の迫る此の状態が、言うなら病態に蝕まれていた嘗ての己の様に思えてならなかった。
…照らしたものが、まあるい太陽。
私の身体は照らされた際の暖かさで、次第に硬直を脱し、柔らかさを取り戻す。
そうであったら。
………そうであれたなら。
ーー人型の手を握る、握り続ける、一人の女。
赤い髪を僅かに揺らして、其の姿は、静かに祈る敬虔な信徒の如く。
目を閉じて思い描いているものは、彼女の黄泉帰りか、或いは寵愛を得た未来の己の姿か。其れだけは彼女にしか分からなかった。
自分の手より、人型へ熱を分け与えんとする。
…例え己の灼熱が冷めてゆくとしても。




