『A parvis lapillis』
相変わらずユイルとの間が良くない状況らしいレミエを相手に、一人の小さなツブ族が聞いていた。
復讐者との間のやり取りの後でも、どうも著しくも芳しくも無い様だったレミエの状態に、アムルアが気に掛けて声を掛けた事が始まりだった。
兎に角アムルアは聞くだけ聞き続けた。半ばレミエの方から一方的というのもあったが、彼女が其処まで振る舞ってしまう程彼女自身の問題としては深刻なのだろう。
大きな愛らしい瞳でレミエを見ながら聞いていたアムルアの視界の端に、エインに引き摺られてゆく少年少女の姿がチラリと見えたが、何かやったのだろう、其の程度に留めて、レミエの話を引き続き聞いていた。
「レミエさん、のみすぎだよ。からだ、こわしちゃう」
アムルアがレミエの背中を小さな手で必死に擦るが、レミエは飲むのを止める気配は無い。
「〜らって、飲まなきゃやってられないですよぉ!わらひだってたまにはた〜くさん、のみひゃいとひらっひぇdr?f@tgy☆………」
「ああー、ろれつが、まわってない」
アムルアは既に沢山飲んでいるレミエの背を必死に擦るが、レミエはどうも簡単に飲むのを止めてくれない。
(そう言えば、すうねんぶりのおさけだって、言ってたっけ……)
しかたないのかも、とやや諦め気味だった。
………そんな二人の所にツブ族か駆け寄ってきて、緊急の報告が来たのはレミエが其の場でうつ伏せになってから数十分後の事だった。
レミエは赤い顔を其の儘にしてカウンターテーブルに突っ伏している状態であった。仕方無くアムルアがツブ族からの報告を取り次ぐ事にしたが、ツブ族の口から語られた内容は衝撃的なものだった。
ーー世界の中心部に突如として大きな白塔が建ち、同時に四女神の都に其々一つずつ同じ塔が現出したという事。
あまりにも突然で、あまりにも衝撃的な事実であった。
其の光景を見た先遣隊の話に因ると「地面が突然隆起し、地底から禍々しい唸りを上げて真っ赤に燃える炎の様な花を頂に抱いて其処に現れた」ーーと。
「たっ、たいへん、急いで、つたえなきゃ」アムルアは驚きのあまりキョドキョドとしていたが、傍らで突っ伏しているレミエの身体を揺すり必死に彼女を起こそうとした。
「レミエさん、レミエさん、おきて、おきて。たいへんな事がおきたよ。はやく、ふくしゅうしゃさんの所に、行こう」
「う…うう………ん」アムルアに大きく揺すられ、レミエが一度身を動かしたが、直ぐ動かなくなる。
………そして。
「…………ん、あの頃は……ユイルさんと、いっぱいのんだ…………なぁ…」
小さく呟いた彼女の瞼の裏に、何が見えていたのかはアムルアの想像に固くは無かった。彼女も心の中では何処かでユイルへの友好を失わずに持っているのだろう。
此処最近の彼女の様子を気掛かりに見ていた一人であるアムルアは、そんな彼女の様子からほんの少しだけ何かを悟った様で、近くで立った儘のツブ族に傍に居る様に伝えた後、一人で復讐者の所へ向かうのだった。




