『Pueri et puellae』
「………退いて下さい!!退きなさいっ!!!」
「へん!!嫌だね!!!退いたら何処で飯食わなきゃいけないんだよ!!!」
「お…っとなげ無い!!!!」
「なんだと!!!!」
食堂に響いた男女の声。
「お前の方こそ穏やかに食事も出来ないのかよ!!!」
「なんですってえ…!!!」
食堂ではオディムとサフィーが食事をする人達の中で一際目立っていた。何故なら彼等が大声で諍い始めているからである。
「おいおい喧嘩か?」
「何だどうしたんだあの二人」
「嫌ねえ食堂なのにこんな所で……」
無論…食堂には多くの避難者達が食事にあり付いている為、二人の喧嘩は彼等に露見されている状態だ。所謂ガヤ、野次馬と言った存在が二人の喧嘩について彼是と言いながら見ている。
見守る者、野次を飛ばす者、嫌そうに見る者、色々な者が其々を兎に角見ていた。
「どうして私が毒を盛ろうとするのを邪魔するんですか!!!!!」
「はっ!!第一!!!食事に毒を盛ろうとするとか食べ物を粗末にするのは良くない事だろ!!!!」
オディムのド正論がサフィーに直撃した。
「くうっ……!!!」食事を粗末にする事は良くない。其れは当然の事であり彼女達星の乙女教徒にとっても軽度の背信行為の一つであった。
「毒だって…?」「何あの子」「よく言った少年!!」「食事に毒を盛る?一体誰の食事に?」「ヤダ、今の子供ってそんな子居るの?」「怖いわね……」
二人を取り巻く野次馬も、突然現れた物騒な事に過敏に反応する。
「ほら見ろ!!周りの人もお前のやろうとしてる事絶対悪く見てるぞ!!諦めやがれ!!!」
オディムもオディムでサフィーを煽るだけ煽り倒し、出鼻を挫こうとしていた。
「っ……………!!!」衆目に晒された事を自覚した事で流石のサフィーも僅かに涙目になった。
そしてぬうっと徐に現れる、誰かの影。
「ーー誰が、誰の食事に、何をしようとしたのでしょうか」
一段と低い男の声が二人の上から降り掛かる。
「ヒェッ」
「っ…」少年少女は声の主を見て酷く驚き、そしてササッと其の場から立ち去ろうとするが、むんずと服を掴まれて二人共其処から引き摺り去られてゆく。
二人の諍いを見ていた野次馬達もぽかんと呆気に取られながら、軈て其々が其々の食事に戻っていった。
「離してくれー!!!!!」
「ちょっとっ…乱暴はいけません!!!離しなさいっ!!!!」
必死に振り解こうとする二人を力一杯掴んで引き摺り回す、エイン。
流石やんちゃをしていただけあるのか二人の服を掴む手は無駄に力が強い。
「…。じゃあ、何故食堂で諍いをしていたのです」エインはピタリと足を止めて、二人を問い質した。
「〜あんちゃん聞いてくれよ!!コイツっ、あんちゃんの仲間の食事に毒をーー」
オディムが口走ったのをサフィーが必死に遮る。
「ちょっと!!ーー誤解です!!!この人貧民窟出身でしたよね!?だから嘘を平気でーー」
「此処は身分問わず流れて来た避難者が沢山居ます。口を慎みなさい、星の乙女教徒のサフィー」
エインの低い声がぴしゃりとサフィーを打ちのめした。
彼女の隣では、ニシシっと勝ち誇った様に笑うオディムが居た。
「そして貴方もですよ、オディム。何なんですか其の態度は。「一人前になりたい」と仰ったのですから女性に対してそういう態度は良くないですよ。貴方も口を慎みなさい」
エインの一瞥が勝ち誇るオディムを捉え、睨み付けた。
「…………………ハイ…」少年の妙に力無い返事が聞こえた。
ーー二人の諍いを見ていたらしいエインが二人を引き摺り連れ出してから、何故争っていたのか問い質そうとする中でエインは酷く苦心していた。
何故ならオディムがまるで茶々を入れる様に喋るし、肝心のサフィーに至っては俯いて話そうとしない。
かと言って口を開いたかと思えば「貴方達星の乙女教徒では無い方に私が話す必要はありません!!話す訳無いでしょう!!!」と一言だけ怒りと共に吐き出して黙ってしまう。
流石のエインもうんざりし始め、顔にやや疲れが出始めた時ーー一人のツブ族が扉を勢い良く開けて入ってきた。
「エインさん、たいへんだよ!世界のまん中に大きな白いとうがたった後、よん女神の都にそれぞれ一つずつとうが出てきたって!!」
突如もたらされる急報ーー
「何ですって?」
青年の表情が、少年少女の表情が、其々大きく変わった。




