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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Reorganisation(再編成)
13/125

『De sanguine puellae, pueri autem odio』

夕方の空から月が登り、宵が近付いてきた頃。ーー少女は只管(ひたすら)走り続け、(やが)て一つの樹の下に辿り着いた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……………」少女は大きく呼吸を繰り返し、其の樹の下でしゃがみ込んだ。己の顔を伏せて、小さく呻き震えていた。


「うぅ、ううーー」なんて情けないのだろう。憎い復讐者に()()()()()()()()()、屈してしまった。憎くて憎くて仕方が無いのに、恐ろしくなって其の場から離れてしまったーー親愛なる星の乙女(■■■■)様を殺したあの黒衣の男を許せる筈が無いのに。




少女の脳裏に、()()()の光景が浮かんでくる。

ーー黒い姿の人物が、星の乙女(■■■■)を刺し殺した場面を。

衝撃のあまり、彼女から賜った硝子の短剣を落としてしまった。其の日の夜から、星の乙女(■■■■)に仕える為に女神デインソピアの廷へと向かう最中であり……









(悔しい……悔しいっ………!!!)少女の込み上げた悔しさが、尚更怒りの感情と綯交ぜになって渦巻く。

だからこそ復讐者を刺した時彼の行動に驚き、"どうしてあの場面で更に刺す事が出来なかったのか"という事実、そして彼に突き付けられた言葉を否定出来なかった。

弱い立場の人間だからこそーー

"女神"に縋り、"星の乙女"を敬愛し、彼女達の幸せを願い、望み、実現せよと狂信し、

そして、最終的な「救い」を求めた。



其れは彼女にとって至極当たり前の環境と感情だったし、敬虔な星の乙女教徒(ソピステラ)だった彼女の母親も何度も何度も少女に聞かせ続けた。


然しそう育った彼女にとって一つだけは違った。今や世界を燃やし続ける新たな女神ペールア・ラショーは信仰の対象では無く、たった一人の肉親である母を殺した怪物だと思っている。

少女が此処に来たのも復讐者を殺す為だけでは無い。母を焼き殺したペールア・ラショーを「救いの女神」と(うそぶ)き続ける新興宗教の人間の様になりたくなかったからでもある。

















「なのにーー」

少女は蹲った儘悔しそうに涙を滲ませた。

















































ーーガサッ

















































「ひゃっ!?」少女が突如聞こえた枝葉の擦れる音に吃驚した時、申し訳無さそうな顔をした少年が少女の隣に落ちてくる。

ドンッ!!と意外と大きな音を立てて尻餅を付いた少年が痛そうにしている様子を、少女ははらはらと見詰めていた。

「ってー………」

「ああ…あの、大丈夫ですか………」

恐る恐る、声を掛ける。

























「うーん……俺は大丈夫、ぶつかってない?」

「あ…うん、大丈夫…です」

少年は己の痛みより少女が怪我をしていないかを気にしていた。

「そっか、良かった」

少年は快活な笑顔を少女へ向けた。



(此の少年………私と同じ位かな。星の乙女教徒(ソピステラ)っぽく無いけれど)

少女は少年をまじまじと見詰めていた。少し怪訝な様子も孕みながら。

















「俺さー、此処に来てからこの樹の上に居るのが好きになってさ」

少年は少女の様子を余所に再び樹の上に登り寛ぎながら勝手に喋り始める。

「いや…此処に来たのはそんな経ってないけど、エムオルとアムルアって奴に教えてもらったんだ」

「アムルアを知ってるんですか!!?」

聞き知った名前に少女が反応した。






「え…?ああ、うん、お前も知ってんの?」少女の態度に吃驚しながら少年は答える。突然の少女の行動に少年はまた樹から落ちそうになったが、どうにか留まれたらしい。

「えーーあぁ、は…はい」対して少女の方は僅かに気不味そうな振る舞いをして、軽く俯く。



「……………………」少年は一度沈黙し、少女を見続けた後、あっさりとした様子で少女へ言葉を投げた。

「お前って変な奴だな」

「はっ、はあぁ!!?」

少女は少年の言葉に思わず反応し、「変な奴」と言われた事に衝撃(ショック)と軽い怒りを見せ、そして少年の方へ向き直り怒鳴った。










「ーーあなたね!!私とあまり変わらない年齢の方でしょう!?相手への口の聞き方がなってませんね!!!星の乙女教徒(ソピステラ)なら同教徒の者へ礼節を……ーー」

素早く少年が動き、少女の前に立つ。

「…星の乙女教徒(ソピステラ)?あんな薄汚い連中の作り上げた馬鹿馬鹿しいシンコウシューキョーとかいう奴と関係あんのかお前」




少年の表情は先程と打って変わって険のある表情だった。

「な、なんですそのーー」

「俺はお前みたいな星の乙女教徒(ソピステラ)なんかじゃねえよ!!お前が信仰してる女神の所為で!!俺のたった一人の爺ちゃんは殺された!!!女神の所為で、貧民窟(スラム)の奴等も沢山殺されちまったんだ!!!!!なのに、なのに………!!!!!」

少女は少年の言葉に驚く。だが彼女も退いてはいない。

「め、女神様の御気分が優れなかったとか、機嫌を損ねる様な真似なんかしたからじゃないの!!?ーーそもそも、星の乙女教徒(ソピステラ)じゃないなんて!!!不敬にも程があるわ!!!女神様や星の乙女(■■■■)様は敬い、信仰するべき存在よ!?………あの復讐者って奴…星の乙女(■■■■)様を手に掛けて…あんな所で逃げるんじゃなかった、ちゃんとしっかり、殺してーー!!」

少女の発言に、今度は少年が驚き、少女の肩を揺さぶった。

「…お前………まさか……復讐者の事を殺そうとしたのか!!?あの人を殺す為に此処に来たのか!!!?」

「きゃっ…痛……っ!!教徒では無い上に、暴力までーー!……悪いのですか、星の乙女(■■■■)様の尊い御身に傷を付け、挙句殺した者を教徒である私が殺す事が悪いと!!!?」



ーー復讐。少女の目的はもう一つあった。一つは新たな女神の従属になる事を否定し、避難する為。そしてもう一つは、避難先に居るという、復讐者を殺す為。


だが、此の少年はどうも復讐者に対して何らかの思い入れでもあるのかもしれないらしい。
































少年は少女へ怒りの感情を強く向けた。

「〜っふざけんなっ!!!お前か復讐者を殺しなんかしたら難民達がどうなるんだよっ!!!!!」

少年の言葉は最もだったが、少女には簡単に届かない。ーー少女にとっては信仰するべき、敬愛なる星の乙女(■■■■)の方が大事だったからだ。

「其れは其れ、私個人の意思はあなたの様な人に邪魔なんかされる必要は無い」

「っの!!!ーー……………………」少年は怒りのあまり迂闊に手を出しそうになり掛けたが、其の場で止まり、考える。




「……………………あっ、そ。じゃあ勝手に殺したければ殺せばいいだろ。でも俺が邪魔してやる。お前ーー何と無く仲良くなれそうな気がしたけど、今から敵だ。()()()()()()()()()。皆が困るのも嫌だし、ーーお前の事は今嫌いになったけどお前が手を汚すのも俺は嫌だ。絶対お前なんかに負けねーからな」

彼は言える限りの事を全て言い切った。

「……だったら、私だって。あなたを掻い潜ってでもあの男を殺しに行きます!!邪魔なんかに屈するもんですか。良いでしょう、私達は今から敵!!!あなたと仲良く出来そうだった。けれど私は()()()()()()()。困るのは仕方の無い事だわ…でも、私には私の望みがある。星の乙女(■■■■)様の仇を討つ為に、私はあなたなんかに負けません!!」

そうして両者の対立が始まった。


「れいせつ?かどうかなんてどうでも良いけど、敵なら名前を知るべきだろ、俺はオディム。おまーーアンタは?」

「わ、私はーーサフィー!星の乙女教徒(ソピステラ)のサフィーです!!あなたの様な奴に振る舞うべき礼節なんてありませんから!!!」




さて、一つの樹の下で少年と少女の対立と妨害が始まるのだった。

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