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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
HORTUS MUSICUS et deprimentes(過激と憂鬱)
122/125

『Certe arbitrium erat ーⅡー』

「あハ、アハ、ギヒっ、ギヒヒッ!もう…私に敗北モ不幸もナい!!復讐者ァオマえたチこそ私達の前に敗北しシーフォーンさん達ノ絶対的な幸福ニ不幸ななるべキなのダカら!!!!!」



再度咲き誇ってしまった大輪の焔の花。開花と共に周囲の熱は上がり、空は赤色に染まる。

時は夕刻へと移り、宛らペールアによる完全な支配が完了してしまったかの様に、世界は赤い。

紅蓮の中で呻き声を上げながら消えゆく怪物、熱の融合に歓喜の涙と強い陶酔、快楽を示しながら抱き合って溶けてゆく女神の信者達。赤色の薔薇は血となり、ペールアの独り善がりなショーが始まる。





「あはっあはっあっはははははははははっ!!これからは私の最大の見せ場、燃え上がる焔の花!!そして今死への道へ足を踏み入れた愚かな復讐者達!!!私の大事な特使は今より私の理想の補佐、唯一の観客はシーフォーンさん。…お見せしましょう、全て貴女の為に!!!」

大袈裟な振る舞いを見せて、ペールアは夕焼けに向けて悦楽に浸った表情と共に手を伸ばす。

沈み行く夕日は、彼女にとって眩く輝くシーフォーン。例え沈み行こうとも、最早ペールアにとっては彼女(シーフォーン)が再び天上を統べる為に必要な小さな過程に過ぎない。



「これより!!シーフォーンさんはこの世界に蘇る!!私はどれ程待ち侘びた事でしょう!!!!!」

あはっアハっあはハハハはっハははッと再びけたたましく嗤い始める。

「ぎゃハッギヒヒヒヒっギャヒヒッくっふ…クッくッ………んフふ、アハっ、はははハっ、あーーーーーーーーアはハハはははははは刃ハ波羽は張はハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

彼女の嗤い声は炎の矢の様に降り注ぐ。

「待っててネぇシーフォーンさァァァァん、貴女をコロしタ復讐者達ヲぉ私が殺しテあげますからネぇっ…貴女が想いエガく理想の美しイ世かイを創レる様にこの世を焼キ尽シテあげマすカラねぇェエッ!!!!!」


狂った歓喜に満ち溢れたペールアの瞳、ふしだらに緩んだ口、彼女の表情。

















「……………………。」

ペールアの歓喜を他所に、サクモは大輪の花を見届けながら重い口をゆっくり開いた。

「復讐者さん。私、決めました。ぶら下がってたりし続けてちゃ駄目ですよね、やっぱり」

目の前の恐怖(焔の花)を前にして何一つ怯えなかったサクモは、全てを話す。



己の選択を、決意を、顛末を。









「身の上の話をしてしまいますが、最期なので聞いて下さい。…私はかつて、女神シーフォーンの膝下である聖都ミストアルテルで過ごしてました」


「私はただ、自分で決めながら適当に済ませ、自分で望みながらただ望むだけで自ら動こうとしない、そんな奴でした。色々な理由を挙げては諦める。そんな事ばかり。…けど、私はそれに生かされ、それによって今まで私は変われなかった」


「変わろうとしなかった、の間違いかも。でも…ペールアさんに気に入られて、大切な役目を与えられて、私は最初諦めかけた。一度じゃなくて何度も。でも……………………」

サクモは話してゆく内に湧き上がった恐怖の感情をぐっと抑えながら話す。



「ーー私は、やっぱり自分の意思で動いてなんかいなかった。()()()()もペールアさんから与えられたもの。私自身の意思じゃない」


「まだ手遅れじゃないのです、復讐者さん。皆さん。私は、まだ私自身になれていない。例えこの選択で、この世界から切り離される結末を辿ろうとしてもーー」

そう語りながら、サクモは焔の花へ向かう階段を一段一段ゆっくりと進み行く。カツン、カツンと立てる彼女の靴音がまるで暗闇の舞台から光の在る場所へ向かわんとしている様であり…





ーーそして、焔の花の、ギリギリ熱過ぎない部分にサクモは立って、呆然と見守るペールアと復讐者達へ振り返った。

「やっぱりーー……こんな事望んでないです。ペールアさんはシーフォーンさんの一部を集めて、何か其処からシーフォーンさんを蘇らせようとしてるみたいですが、私は嫌です。……シーフォーンさん達によって、また世界中の人達が苦しめられるのは、もうお終いにしよう」


彼女は深く息を吸う。炎の熱さにも、乾いた空気にも負けずに。




「だからーー見ていて欲しいんです、()()()()を。今までちゃんと生きようとしなかった、私の…最初で最後のーー勇気を」


決意に満ちていた。けれど、己の今後の生を諦めてしまった様な声だった。

















「ペールアさん……貴女に詰られても仕方無い事なのは分かってます。だから好きなだけ私の事を詰ってくれても、罵ってくれても、良いですよ。ーー傷付かない訳じゃありませんけど、此れから私がする事には、それ程の事をされる理由があるーー」

「サクモさっ、何をーー」



サクモはにこりと笑い、女神シーフォーンの()()を燃え滾る焔の花へ投げ込み、そして自身もまた、遺灰の詰まった瓶と共に身を投げた。

















































彼女(サクモ)を燃料に、忽ちゴウゴウと燃え上がる花の姿を一行はただ呆然と見送る。

「ーーあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー………!!!!!」膝から崩折れたペールアが、遺灰ごと燃えたサクモに向かって手を伸ばす。

サクモと云う薪を得た焔の花が、焼けてゆく彼女の皮膚からビュウビュウと噴き出る血に沈められようとしている。

サクモが焼き尽くされる方が圧倒的に早いだろう。吹き出る毎に血は蒸発し、人の形を次第に喪い、ドロドロと溶ける。然し花の方も彼女の強い最期の決意によって朽ちようとしていた。


先に投げ込まれたシーフォーンの遺灰は燃え上がる中で形を取り戻そうとするシーフォーンの生への異常な執念をなぞろうとするが、噴き出たサクモの血で凝固し、最早「シーフォーンの肉体」となる筈だったモノとは異なる不気味な代物として、灰すら焼き尽くす焔の花の中で完全に消滅した。




(…好きなだけ詰っても良い、と言っておきながら、詰る余地も与えず直ぐに自決してしまうとは)

サクモの最初で最後の勇気と決断を以て、彼は追悼した。









ーー…………………………………………

ーー……………………


サクモを燃やし尽くした焔の花は遂に力を失った。花が力を失った途端に辺りの空気は冷え、広がる様に世界は落ち着いた涼しさを取り戻してゆく。


朽ちてゆく花と共に焼ける肉の臭いと空へ昇る煙だけが残された。

サクモの決心によって女神の遺灰は彼女と共に消滅し、ペールアの望む女神シーフォーンの復活はとうとう潰えたのだ。




「あアァああァァァァあアアあぁぁアァァぁぁァアアあァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

あぁ、はあッハあッ、うわアアっ!!!と叫ぶペールアの錯乱した姿へ復讐者は視線を移す。

彼女はサクモさんが、灰が、灰が、シーフォーンさん私のシーフォーンさんが、デインさん達の愛しいシーフォーンさんが、等とブツブツ言い続けては時折発狂した様に叫んでいる。





ーーサクモが命を掛けて作り出した、此の好機を逃すべきではない。

















駆け出した復讐者の冷たい調停が、ペールアを背後から突き抜けた。

























「ーーっハ……………?」

鎧を突き破って飛び出す切っ先に、ペールアは軽く触れる。

「……?なんで…?むねが…痛い………??」

炎の様な女神は急速に熱が失われる様に弱々しくなり、そして其の場に倒れた。ドロドロとした血の海が作られてゆく。



「終わりだ」

倒れ込むのと同時にスルリと抜けた黒剣に付いた彼女の血を振り払い、復讐者は全てが終わろうとするのを感じたーー

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