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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
HORTUS MUSICUS et deprimentes(過激と憂鬱)
121/125

『Certe arbitrium erat ーⅠー』

「サクモさん…!」

此の場における唯一の味方の登場に、ペールアの表情は安堵と綻びが生じる。


「特使」として選出し、世界中にある"女神(シーフォーン)の灰"を集める様に命じたサクモが、ペールアを呼んでいる。





「…っはっ、やっと、っ集まりましたよ!!」

長い螺旋階段を駆け上がった所為なのか、サクモの体力は殆ど無さそうだ。

「び…瓶の中にっ、入ってますっ!!!!!」

サクモが差し出した瓶を見て、ペールアは無邪気な子供の様に満面の笑みを見せる。



「あぁ………!これで…これでシーフォーンさんが……っはぁ…♡うれしい…うれしい!うれしいうれしいうれしいっ!!!」

復讐者達が居るにも関わらずペールアは喜び飛び跳ね、軽い足取りでサクモの方へ駆け寄る。









「サクモさんっ、早く()()をーー」

駆け寄りから飛び付く様にペールアが近付きサクモへ瓶を渡す様に要求をすると、サクモは薄っすらとした笑みを浮かべ、飛び付こうとするペールアをサッと避けた。

















「ーー!?…サクモさん?」

「急に飛び出されたら危ないじゃないですか」

サクモは微笑んだ儘、ペールアに優しく注意する。

「折角の瓶………割れちゃったら、申し訳無いですし」

一応、頑丈ではあるけれども。と付け足した彼女は、取り付けられた紐に指を通してクルクルと回している。




「…?サクモさん?駄目ですよそれは偉大なるシーフォーンさんが詰まった愛おしい彼女の彼女ノカのジョの瓶なんですからーーね?そんな事されたら割れちゃうじゃないですか丈夫でモ。あなたも言ってたじゃないですか割れちゃったら申し訳無いってねえサクモさんサクモさンっテば」

ペールアは挙動不審になりながらサクモの行動を止める。サクモはペールアを見てぴたりと動きを止め、ぺたりと座り込んでいるペールアを見る。



「…ええそうでしたね。すみません。…あ、そうだ戻ってきたんですから状況とか色々報告します。幸い人の手に落ちてなかったから、特使として振る舞う必要無かった。それに、其の灰…勝手に集まるんですね。とても集めやすかったです。」

サクモは淡々と事情や状況を話し始めた。敢えてゆっくりと話し始める。

「ねえっサクモさんっ報告は後で良いから早くっ、早くっ」

「灰になっても元に戻る為に集まって固まろうとする………瓶の中身、最初見た時凄く気持ち悪かったです。だって肉片や内臓がいっぱい蠢いている様に見えたから。けど慣れちゃいました。ふふ。瓶に入れてなくてもそういう状態になっちゃうのにはびっくりしましたけど」

無理矢理か、自分の当時の状況をありありと説明する。

「サクモさんサクモさぁんっ!!ねえ早くっ早くちょうだいっそのシーフォーンさんわたしにちょうだいっ」

餌を求める動物の様に吐息を漏らし、或いは雌の様にふしだらに腰を振りながら瓶を欲しがった。









「ペールアさん…分かってますよ、ちゃんとやります、やりますからね」

ハッハッと涎と吐息を吐きながらペールアは火照る身体をよろめかせ、再びサクモに近付く。


シーフォーンの事で全てが満たされ、彼女の忠実な従者である事を至上としているペールアにとって、憎い復讐者達を殺し尽くし更に彼女と再会を果たせる最大の機会。

其の上殺し尽くした復讐者達の首を「シーフォーンのストレスの捌け口としての玩具」として捧げる事すら出来るのだから、尚更早く手中に収めたい。


然し肝心の瓶はサクモが持っており、彼女の意思一つで如何とでもなる。ペールアは其の辺を理解していた。もし穏便に済まさなければ、サクモはきっと瓶を割り捨ててしまうだろう。

















「ペールアさんにお願いがあります。大切なものを渡すんですから、私の望みを先に叶えて欲しいんです。ーー…ペールアさんの力で、塔のーーあの焔の花を咲かせてはくれませんか?」

サクモはーー手中の瓶を利用して、ペールアに取引を持ち掛けた。焔の花を咲かせて欲しい、と。

「…何を考えているんだ!」

最後の焔の花が開けば、今度こそ世界は炎に包まれる。其れを知る復讐者はサクモに怒りを向けた。

彼の態度にサクモは一瞬だけびくっとしたが、()()()()()()()()()()()()()()()。少しだけ怯えを残しつつも、いつもの振る舞いに戻った。






「い~いでしょォ!!っはははっ、サクモさんの望み叶えてあげますよ!!!なァんだ、やっぱりサクモさんは私を一番に思い遣って、大切にシてクレる!!!!!」

ペールアはいかれたピエロの様な恐ろしい表情を浮かべて、手の平にぽっと小さな()()を出した。

「燃えなさい」

其れを蕾の状態の焔の花へ投げ付けると、火種の小さな刺激を受けて焔の花は見事に咲き誇った。

「ああ……!」

より一層最悪な状況に追い込まれてゆく一行は、熱風に曝されようとする中で、大輪の花とけたたましく嗤うペールアを見るしか無かったーー

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