『Duorum hominum homo mundi』
時は夕刻、中央広間で、エインとユイルは語らっていた。彼等が語るのは互いの相方についてーーエインは復讐者、ユイルはレミエの事を。
「……で、でしてね」
エインも堅苦しく真面目な表情ではあるが、思ったよりも話が弾んでいるらしく、両者の間には話題の花が咲いている様だった。
「へえ、そうなんですか!!」
ユイルも非常に楽しそうに振る舞い、時にレミエの事を話す。互いの事について話す時、もう一人は必ず聞き役に徹する。程良い相槌を伴って中々楽しそうな遣り取りを繰り広げながら。
そんな二人の横を復讐者とレミエの二人が通り過ぎる。
「おや、復讐者」
エインが声を掛けると、彼は「おう」と手を上げて挨拶をした。
「あっ…レミエさん!」ユイルも隣に立っているレミエへ声を掛けたが、相変わらず芳しく無さそうな様子で返されてしまう。
「ああ…ユイルさん………」レミエは軽く会釈をしてから、小声で「…行きましょう」と復讐者へ囁く。
レミエがあまりにも急ぎたがった為、復讐者は引っ張られる儘に行ってしまった。エイン達に対して少しばかり申し訳無さそうな表情だった。
『……………………』二人共やや呆然とした様子で二人を見ていたが、ユイルが軽く項垂れて落ち込んでいる事に気付いたエインが、ユイルを気遣う。
「どうしました、ユイルさん」
「ああーー」ユイルは僅かに嘆息している様な様子であり、そして静かに重い口を開く。
何故なのか分からない様子で、彼女は「何故か分からないのですが…レミエさんから避けられてるんです……」と、ぽつりと吐露した。
目に見える形で親しくしている人から避けられる事に対して、ユイルは戸惑っている。
「……………………。」エインはユイルの様子に身に覚えがある様子でありながら、彼女の苦悩に酷く共感した。
項垂れた儘のユイルへ、彼は肩を軽く叩きながら、
「お辛いでしょう、何と無く共感出来ます」と彼は言った。
「情けない話ですけどもね。気になった人が私にも居たんですよ。女性で、良い感じの仲でした。お互いに似てる所があって、馬の合う方で。ーーでも、私が昔「荒くれ者で喧嘩に明け暮れていた」と彼女に知られてからは、見事に避けられる様になってしまいましてねーー」
本当に情けないですよね、と言いながらも、かんらかんらとやけに明るく振る舞いながら笑い話として彼は打ち明けた。
エインの過去を聞いたユイルは先程とは一転して吃驚した表情を浮かべ、話を聞いていた。
「そ…そんな過去があったんですか!!?」
ユイルの態度も当然だろう。なんせ、横に居る穏やかで真面目そうな男性が本当に荒くれ者であった事にも驚いているし、意中の方が居た事にも。
「吃驚しましたでしょう?」
「失礼なのは承知で、まさか荒くれ者だった事にもお好きな方がいらっしゃった事にも驚いてます…」
「此処まで知ってるのは復讐者とニイス位なものです、あまり話さないですから」
エインは特別嫌そうな様子は無くユイルへ最後まで話してくれた。
…するとユイルの中で、一抹の疑問が生まれる。
「あの〜…お身内の方にしか話さない事を、どうして私なんかに」
恐る恐る訊ねたが、エインは其の問いかけに対してもあっさり答えてくれた。
「ユイルさんの状況が、当時の私みたいだなと思いまして。……実際は違いますが、私の過去でも話して慰めになればなと。慰めには全然なってませんでしょうけれど、でも何時か、笑い話になれば良いですね」
エインの不器用な微笑みがユイルへ向けられる。
「まあお互い相方を大切にしましょう。ーー振り回されるのはそう苦痛ではないですよ、楽しいです」
急がなくては、とエインが先に其処から立ち去り、ユイル一人が残された。
「振り回されるのは楽しい、か………」
レミエを長年の友として大切に思いはしていても、避けられる事への戸惑いは消え失せない。
ユイルは独り溜息を吐いて、レミエとの間を憂慮するのだった。




