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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
HORTUS MUSICUS et deprimentes(過激と憂鬱)
118/125

『Memorial』

ーーアムルア(■■■)が螺旋階段を上りきった後、最上部の扉を潜り抜け外に出る。塔の周辺の空は淀み、赤く染まっていた。

(此処が…………)

■■■は嘆息した。此の惨状を嘗ての同胞が作り出していた事に。だからこそ此処まで進んできた。









ーーそんな中、肝心の相手は優雅にカップに注がれた流血を飲み、淀む空と灰を切なそうに見ていた。

































「……ペールアさん」■■■はゆっくり其の名を呼ぶ。名前と、懐かしい気配に郷愁を抱き視線を向けてきたペールアに、白い小人となった■■■は唯じっと見詰める。

「ーー…。あなたは」















「………何ですか?"()()()"さん、どうして私の前に立ちはだかるんです?()()()姿()で」

常に焦熱が覆い、空は赤く、地上は熱い。"クロル"ーーアムルアは思った。(みんなきっと苦しんでいるのだろう)と。

「…立ちはだかることは、とうぜんです。だって、ペールアさん、あなた……このままでは、世界を、燃やしてしまう」



「当〜然でしょぉ!!?当然でしょ当然でしょ当然でしょ!!!?だって此の世は私に優しく無いですもん!!!あんな愚かしくて馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で汚らしい()()()なんかの為に優しくって世界は有利で私に対してキツイんですもの!!!!!!!!!シーフォーンさんだって居ない!!デインさん達だってみんな皆ミンナ皆んな見んな民なミンな居なくなってしまった!!!!!!理不尽リフジンリフ人りふじん理不尽………こんな世界は私のオモチャ箱!!おイタをしちゃう悪い子だらけの玩具箱なんて燃やして燃やして捨てちゃいましょ!!!!!」


ペールアは自分は被害者だ、と必死に訴える様に、然し突然気の狂った母親の様にアムルアの言葉に反論した。

























「…………。それじゃ、はんろんにもなってない。ただのわがままだ。…ペールアさんが「ひがい者」だって言うのなら、ならどうしてたくさんの人や都市を焼いてしまったの?」

アムルアはふう、と溜息を吐いてペールアを静かに咎めた。

「……………。あなたまで復讐者達(ヤツら)に感化されてしまったんですか?」

ペールアはアムルアを強く睨み付け見据える。



「…、感化?感化だなんて、そんなこと。ちがいますよ、女神ペールア。私は感化されたんじゃない。「世界を守るべきものとしてやらなくてはならない事を果たす」だけですよ」

アムルアは静かにもう一度溜息を吐き、そして嘆息した。

「私はかつて、女神であったシーフォーンさん達と一緒に世界も人も痛めつけてしまっていました。だって、あのころは、…ううん、言い訳になってしまうけれど」

アムルアはゆっくりと小さめの剣を持ち、鞘から抜く。

「"()()()()()()()()()()()()"ーーついじゅうしゃ、でしたから。女神のする事は間違っていない」

アムルアの言葉に、ペールアは顔を僅かに綻ばせて正当性を訴えた。

「はっ!!そうでしょうそうでしょう!!?シーフォーンさん達のする事は正しいんですよ!!ーー今は、不服であれど私が女神!!仰る通りならば私の行為は間違っていない!!!!!咎められるのは可怪しい!!!!!!!!!!」

ペールアの顔は此れでもかと言う程に歪み、喜び、涎を垂らす程に興奮している。

「ほらぁシーフォーンさぁぁん…はぁ…♡貴女は誰よりも正しい…正しいんですよ……貴女の"元"追従者も貴女の正当性を言ってますよぉ」

取り出したシーフォーンの()()に舌を這わせながら、アムルアを余所に嬉しそうに身をくねらせた。

































「…ああ、本当に、本当に変わってしまったのですね、ペールアさん。……そんな人じゃ無かったのに、たった一つのきっかけで、まるで別人になるなんて」


「少なくとも、私のしっているペールアさんは、あなたのような人じゃ、なかったのです」

惜しみながらーー

辛そうに、

悔しそうに、

悲しそうに、

アムルアは武器を構えた。(かつ)て親しく共に在った者を前に。




「…でも、今の私は、ついじゅうしゃだったころの、ぜんせいき。■■さんーーニイスさんと()()()()をした時に、一度だけなら振るう事をゆるされる、この力」

すると、アムルアの剣に力が収束し、剣が光り輝いた。…其れに呼応する様に、アムルアの白い髪の先も変色する。

其の力は確かに、追従者クロルのものであった。

そして、復讐者が報復の力と同時にクロルの力を使えなくなってしまった、真実もーー

















































「其の姿に成り果てて尚、………追従者の全盛期?()()()()()!!!!!女神に追従するだけでしか無い追従者如きが!!!ーー私の力は凌駕した!!最早私は追従者では無く女神だ!!!!!私に逆らうのなら其の魂、私の憎悪で髄まで焼き尽くしてやるわ!!!!!!!!!!」

アムルアの言葉を、姿を、忌々しそうに睨み付けて彼女は吐いた。

「ならば、私はあなたを止めなくてはならないし、うち取ります。世界をこわすのですからーー」

アムルアは駆け出した。

本来有るべきだった、「世界を護り、生きとし生けるものの笑顔を守る」追従者として。


















































ーー先手。

序の槌を振るったのはアムルアだった。ツブ族ならではの軽く素早い身の熟しでペールアに急接近する。

「!!!」ペールアはアムルアの恐ろしい速さに対して武器を構えて己の身を守る事に必死だった。ペールアが驚く程にはアムルアの身体能力は高い。

だがアムルアも急接近しただけで終わる筈は無い。収束させた光をペールアの眼前で解き放つ。



「ガ…ァァッ……!!」ペールアは己の両眼を抑えて其の場にのたうち回った。眼前に展開された強烈な閃光で目眩まされたのだーー彼女が目眩んでいる隙に、アムルアは剣より複数の水球を作り出し、ペールアにけしかける。

「う…うっ!!!」パシャ、パシャと水球の一撃は割と強くは無い。然し焦熱に晒され、尚且つ紅蓮の魔女と謳われていた炎の女神には、僅かであっても大きなダメージを負う程の威力があった。

「ク…ロルさん……っ!!おのれ…っ!!!!!」

ーーペールアが咄嗟に掲げた手から巨大な火球。

































アムルアの方向へ途轍も無い速さで飛んでゆくペールアの火球を、アムルアは瞬時に氷球を作り上げ更に水球で覆い、そして更に其の上を冷気で覆って巨大な氷塊に変える。

火球は氷塊に打つかり、氷塊が打ち砕かれるのと同時に火球も消滅した。辺りに氷の破片が飛び散り、(やが)て水となる。焦熱で直ぐに蒸発したがお陰で少しだけ涼しくなった。

「…猪口才(ちょこざい)な!!!」

ペールアが更に複数の火球をアムルアへ容赦無く向ける。対してアムルアは氷の盾を展開し己の身を守った。

















ーーブシュウウゥゥゥウゥゥウウゥッ!!!!!!!!




複数の火球がアムルアの氷の盾に直撃し、幾つかは消え、幾つかは氷の盾に(ひび)を入れた。ペールアは罅割れた部分を見て口元を大きく吊り上げさせ罅目掛けて火球を断続的に放ち続けた。

(此れで…勝てる……!!!!!)ペールアの笑みが勝利を確信し、更に歪んだ。

留めだと言わんばかりに巨大な火球が仕向けられ、氷の盾を直撃した時、盾は粉々に打ち砕かれた。









「ーー!!?」火球に焼かれた筈だろうと思っていたペールアの表情が驚愕に変わり、皿に忌々しそうに酷く歪む。チッ!と小さく舌打ちし、見れば居る筈のアムルアは其処には無く。

…一体何処に。

紅い女神は見回して相手を探す。

































ーー背後。




アムルアは属性変化の能力で風の力を行使し、火球と氷の盾が溶けた勢いで発生した水蒸気を利用して高く飛び上がったのだ。

更に辺りは女神の力で燃え上がっている為に熱が上昇気流の役目を果たしており、より高く上がってからペールアを刺し穿とうと力を解き、急降下したのである。

ーー嘗て、()()が復讐者と戦った時の様に、高く高く飛び上がって、剣を構えて…兜割りで相手を殺そうとした。

あの時は復讐者の咄嗟の行動によって仕切り直され、そして敗北した。


だが。

だが、今度は。

























































「たあああああああああああっ!!!!!!!!」

アムルアの急降下、そして兜割りは、ペールアの脳天を直撃し、深く貫いた。

ぐぇぶっ、ごぼっ、と叫びにならぬ叫びと溢れ出て零れた赤い血の混ざりによって異形の鳴き声の様な声を発し、其の場に膝を付く。

「ペールアさん…なぜ」アムルアは憐れに思った。一つの切っ掛けで此処まで堕ちた嘗ての同胞を。

ーー其れでも、アムルアは警戒を解かなかった。

















「…ぐぶっ、くふっ、あっは、あはははは!!!!!」

血を吐きながら、目の焦点が合わない儘、片手で脳天に刺さる剣を引き抜いた。アムルアの剣は対して大きく無い。引き抜くのは容易だった。

「何故?なぜなぜなぜなぜ???其れは復讐者の所為だわ!!復讐者が悪いのよ!!!『()()()()()()()()()()()』、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()www』、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?』全部ぜ〜んぶ復讐者の所為!!!復讐者が居なケれバこうならなかった!!!!!アイツが悪い!!彼奴が悪い!!!復讐者ァア、アいツニ加担する奴等は全〜員悪!!!!!!!!!!」

壊れたピエロ人形の様に、酷く戯けて戯けて語るペールア。

口から溢れ続ける血の泡と焦点の未だ合わぬ瞳が彼女の異常さを引き立てている。









(やっぱり、■■さんの持っている力じゃなきゃ、どれだけ攻撃しても回復してしまう…か……)

アムルアには復讐者の様な、報復の力も彼が新たに得た調停の力も持っていない。

其れに、此の場所は復讐者と戦った時と違い吹き抜けた室内では無い。壁を利用する事は難しい。アムルア自身が今持っている「属性変化」を大いに活用しなくてはならない。




驕りでも何でも無く、アムルアはーー己の実力を悟っていた。

全盛期の規模であったとしても、女神へと変貌してしまったペールアには敵わない事を。

諦めに限り無く等しいが、叶わない後戻りへの未練も捨てた。


其れでもアムルア(クロル)はーー













































「ーーでも、私、時間を作ります。彼等の為に!!」

瞬間、属性変化で足場を隆起させた。アムルアの能力で作り上げられた新たな足場はアムルアを高所へと導き、其処から風の力を振るって大きく飛び出す。

更に風速を利用して自身を弾丸の様に飛ばし、ペールア目掛けて剣を鋭く向けた。…同時に、氷で自身の周囲を少しばかり覆い、冷気を纏った。ーーペールアに、少しでも近く、近く接近する為に。




「さっきと同じ手は受けない!!!!!」ペールアが叫び、掲げた手から巨大な火球を展開した。周囲の焦熱が収束し更に勢いを増す。

アムルアは更に水を纏い上げ、風を強めた。アムルアの髪が緑青色の輝きを放つ。





















































『はああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』

両者の攻撃が同時に放たれ、そして同時に力が衝突した。

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