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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
HORTUS MUSICUS et deprimentes(過激と憂鬱)
117/125

『Alma』

ーー大きな白塔の螺旋階段を白い小人が駆け上がってゆく。現れては襲い掛かる炎の女神の信徒を持ち出した剣で往なしながら、確実な疾さを以て進んでゆく。

少し伸びた白い髪を細やかに束ね、琥珀の色の瞳は強く、熱さでほんの少しだけ汗を流していたが決して立ち止まらない。アムルア(■■■)は焦燥よりもずっと早く、事態を収める為に動いた。




「まだ、まだずっと上。ペールアさんはあのずっと上で、世界を見る事の出来る場所で、きっと復讐者(あのひと)達を待っている、筈」

小人は一度立ち止まり、果てしない程の吹き抜けの上を見詰める。

(暑い…………暑い…ペールアさんの力は、ここ迄なのですか?)

女神となってしまった()()の力を垣間見て、僅かな不安の綻びが生まれた。


ーー私では止められないかもしれない。

そう心の中で悟っていた。

だけれども引き返す事が出来る時は、当の前に過ぎ去ってしまった。最早引き返せやしない。でも…もう恐れを抱いてもどうしようもならない。




(………。もしかしたら…()はこうなると分かって私を目覚めさせたのかもしれない……)

小人はゆっくりと目を閉じ、ほんの少しだけ「彼は意地悪な人だった」と憤った。

「でも進まなければ。これ以上ペールアさんは狂ってはいけない…」

フゥーッ…と大きな溜息を吐き、少しだけペースを落として歩を進め始めた。少しだけ難儀な螺旋階段を一段、一段上がってゆく。










































フウ、フウと呼吸をしながら螺旋階段を上がった先にあった広間へ辿り着くと、啜り泣く声が聞こえてくる。

場にそぐわない声に違和感を抱いて声のする方へ進んでゆくと、()()に蹲っている人間が居る事に気付いた。





「………っ、…っ…………っ、っ……」

鼻を鳴らし、ぐずぐずと泣き続ける其の人物は、()()を前に泣いていた。

「……どうしたのですか」

「!?」アムルアが声を掛けると、驚いた其の人物はばっと素早く後ろを振り返り、そして()()を手に持って後退った。


「だ…だだだだ誰ですか……!!」

「………」びくびくと震えながら訊ねる其の人物の言葉に、小人は暫しうーんと考えた。

「………っ、あれ、あなた…は」

……どうやら、目の前の人物は此の()()の事を知っているらしい。




正直な所アムルア(■■■)にとっては面識は無く、此処で初顔合わせになるのだが。

「……おひさしぶり」

相手の振る舞いに合わせ、目の前の人物が知る()()()()の振りをした。



「どうしてここにいるんですか…?」

其の人物はそわそわと、見知った者が此の場に居る事へ興味を抱いていた。

「…んーとね、おでかけ。みんなに、ぷれぜんとさがしたかったの」

アムルア(■■■)()()()()として答えた。

「そうですかぁ…でも、ここはとっても危険ですよ。だから帰りましょう?」

目の前の人物は安堵した様子で、でも諭す様に語り掛ける。




「ううん。アムルア、かえらない」

「え…どうしてですか?ここはペールアさんの御所ですよ…とにかく危険なので、帰って下さい」

己の言葉に沿わない答えを受けたからなのか、其の声音には焦りが見えた。

「だめ。アムルア、この先に進むの」

「だけど………っ!」

くるりと踵を返して、上へ向かう螺旋階段へ進み出すと、其の人物は小人に対して必死に説得をする。









「〜駄目ですよ!!!危ないじゃないですか!!もしあなたがケガなんてしたら………っっ…!!!!あの場所(リプレサリア)にいる皆さんは、どう思うか!!?」

其の人物は兎に角必死に、必死にアムルア(■■■)を引き止める。危ないから進んじゃ駄目だ、と。




「…でもね、進まなきゃ駄目な時だってあるの。あなた、言葉で言う割には私の事を力づくでも引き止めたりしてこないでしょ?本当に進ませたくないのなら、力づくでもこの身を捉えようとするはず。あなたは人間。私を捕まえてしまえば、簡単に此処から出せる筈」

アムルア(■■■)は其の人物へ向けて手痛い一言を言い放った。図星だったのか、其の人物は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

「……………………っ」

「中途半端なのですか?最後までやり遂げられる筈なのに、何時だって何かを理由に逃げているんじゃないですか?」

小人の其の言葉を最後に、其の人は其処で立ち止まり、そして小人は螺旋階段を進み始めようとする。



































「ーーあのっ!!」

ふと、後ろの方で呼び止める声が響く。

「…なに」

「私の事っ、忘れないで欲しいんですっ」



人物はーーサクモは、アムルア(■■■)を呼び止めて、そして語る。

「確かに……私はっ、仰る通り"何か"を理由に逃げていたと、思うんです…っ、でも!!私だって…私だって……!!!!」

必死になるサクモの瞳に、光が宿る。

「もう……もう、私はーー私は中途半端で、逃げたくなんかない…!!理由に逃げるのをやめて、変わりたいんですっ…!!!…だけど、だけど、わがままだけど、中途半端な私の事、忘れないで欲しいんです…!!変わる前の私の事、誰かに覚えて欲しい…」

サクモの両目からぼたぼたと、大粒の涙が零れる。

ぐっと抱えた()()を、強く強く握り締めて。









「………分かりました。貴女の事は忘れません。決して」

其の場で泣きじゃくりながら、でも先征く小人を見送るサクモの姿をしかと見届けた後、アムルア(■■■)は塔の最上部へ向かって行ったーー

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