『Amor non relicta』
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「ああ、シーフォーンさん………もう少し、もう少しの辛抱ですから………」
揺らめく赤い髪が、横たわる女体の秘密に掛かり隠し、そして其の髪の持ち主が女体の下腹部を愛おしそうに撫でる。
「待っていて下さいね。愛おしい貴女が黄泉帰ったら、…フォさん、しふぉさん……あなたのだぁいすきな、ジャンヌちゃんをいっぱい描いてあげますから…ね……」
其の薄っすらと伏せた瞳からじわりと涙が溢れていた。彼女は、新しい女神であった。存在する筈の無い五番目の女神として、覚醒してしまった者。
伏せられていた運命の女。
ペールア・ラショー。嘗て炎の魔女と呼ばれた追従者だった。
「ああぁ…しふぉさん、しふぉさん、しふぉさん、しふぉさん………とても、きれいな身体………………大きくて、なだらかな二つの丘…細い指先…可憐なお御足………なんて素敵なのでしょう。寒いですよね。私の熱で温めて差し上げたい……」
ペールアは女体の顔の横ではぁ、と吐息を零す。少し乾いた指先が女体ーー"シーフォーンだったもの"の膨らむ胸を伝い、そして髪で隠された下腹部をより下の密やかな部分をつう、と滑らせた。
「ああっ…こんな状態でも、ここはとぉっても柔らかいんですね……♡」
くちゅ、くちゅり、と粘っこい水音が暫くの間響き続けた。
「んふふ。シーフォーンさんってば♡ーー…でもこのナカには、シーフォーンさんたり得るモノは、存在しない。完全では無い。ただの…亡骸……」
ペールアはシーフォーンの秘された部分からヌポッと指を引き抜き、己の指先を見詰める。仄かに白くとろりとした粘液が付着していたが、腐った肉の様な悪臭を放っていた。
(サクモさん…サクモさん……、ああ早くして、早くして欲しいです…)
ペールアはぐっと苦しそうな表情を浮かべた。指先の悪臭よりも、「早くシーフォーンを蘇らせたい」という逸る気持ちからか。
「………だけど、私はまだ、やらねばならない事があるのです………」
ーーそう。彼女自身が想い描く遥かな理想の為に、此の世から消し去らねばならないものが居る。
「これから行かなければなりません……ああ、シーフォーンさん…寂しそうな顔を浮かべないで……。ーーだったら貴女が寂しくない様に、私と抱き合いましょう。沢山注いであげますからね…寂しくも、寒くもない様に…………」
熱を分け与えましょう。
一糸纏わぬ儘横たわるシーフォーンの亡骸へ向けて、ペールアは其の身を纏うもの全てを脱ぎ去り、彼女自身も一糸纏わぬ姿となったーー




