『10,000 annos blank』
ニイスが隠した嘘の千年。真実が露見した白昼の一万年。
復讐者とエインは眠りから永く、一万年の時の果てで目が覚めた。
汐屋は朽ち果て、高村は廃れる。
其れ程迄の永い永い時間が、過ぎた。
そして其の間に人に有る花は隆盛と栄華を極め、
聖女を讃えた言葉は聖歌の如く世界に響いた。
星の乙女の為に無数の賛美歌は生まれ、星の乙女の為に甘美な言葉の数々は奏上し、人に有る花を中心とした四人の女神には永遠であるべき彼女の地上の理想と輝く灯火が常に注がれた。
……ただ美しいものだけを選りすぐり、正しく定められるべきものの殆どは惨たらしく打ち捨てられ続けた。女神は己を賛美しない者と理解しない者へ、兎に角厳しかった。
可愛がって愛してくれるものだけしか存在資格を与えなかった。
そうでは無いものの全てへ、根絶やされよと慈悲の無い手を降した。
自分自身と、己が一部の様に愛する仲間や乙女以外を賛美せず、理解せず、愛しもしないのに。
然し彼女達は求めるものだけが一方的に大きく、風船の様に膨れ上がり、分け与えるものは砂の礫より遥かに小さかった。
ーー本来、咲かぬ筈の花は彼女達の為に咲き誇る。
其の毒であどけなく狂った少女達を殺す様に、其の鋭さで骨の髄まで染み渡ってしまった悍ましい欲に踊り狂う女達を八つ裂きにする様に。
そして其れが果たされた今、一万年と少しの時を経て、女神殺しの為に一度だけ咲いた徒花は渦の様に巻く炎の中に存在していた。
炎の様に揺らめき震える、新しい女神の誕生の為に。
やがて花々は炎への抵抗の為に賢人達の社を打ち建て、破滅の白い塔を壊した。
ーーペールア。
あれから一万年の時が過ぎた今、過ぎ去った時間の事を気にはすれども、最早、最早ーー炎の女神を止めるしか無い。
世界に降り掛かる火の粉を払い切る為に。
もう進むしか道は無くなった。
一万年の空白。
ニイスーー彼が千年の時と嘘を吐いた理由についても、其れは目的を果たした時に彼に直接訊ねようと、再会した時に聞こうと復讐者とエインは考えを改めたのだった。




