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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Quiescis ーveritasー(真相)
108/125

『Quod Memoria ーⅠー』

ーー丁寧かつこじんまりと整えられた部屋に、小さく古びた映写機、資料、彼女の記憶。

きっと彼女が何かを思い返す様に見ていただろう、映写機のレンズが向けられた白いスクリーンに掛かる僅かな埃。

ニイスは資料に紛れて置かれていたディスクらしきものを入れ、不慣れな手付きで映写機を電源へ繋ぐ。


ーーそして、ほんの僅かに熱を持った。





『……!!よし!何とか使える様だ』

起動の成功。何事も無く駆動する機械音。永い時の中で動いたのだから、正に古代の遺産とでも呼びたい所だ。



埃を払われたスクリーンに、ゆっくり其れは映し出される。

















































D.C4.663ーー2月21日。

施設に残存していた記録の中で恐らく「ほぼ」最古の情報ーー

























雲は少なく、夜は明るい。或る風の日の夜、白は夜闇に落ち込んで仄暗く青い。辺りは静まった建築物が並ぶ。演説のテラスの上、聖都の女神シーフォーンは夜風で火照った身を冷やそうと薄着で柔らかい風に身を委ね、長い髪を棚引かせていた。

涼む彼女を見下ろせる少しの高さに、外套を身に纏った、夜よりも黒い青年が座っている。




『所で破廉恥な薄着で涼む露出プレイ中の女神様』

「……なんですか」青年の妙な言い回しに少し癪に触ったらしいが、シーフォーンは青年の呼び掛けに何だと返す。



『ふーん。そう…………其れは残念だったね』

高みから外套の黒い青年は呆れを微量に含ませて話す。

『はっきりと言える其の正直さは良いと思うよ。そういう所が君を助けるだろう』

思ったより良い評価を得て、彼女はぱあっと明るくなった。そして如何にも「当然でしょ」と威張り散らす様な振る舞いに直ぐ戻る。









『ーーでも、其の幸せ。君の事を嫌ったりしてる人や、君にとって嫌いで仕方の無い人、嫌い過ぎて憎たらしい、或いは許せないから存在なんて此の世に最初から居なかった〜無視しちゃおっ…なんて考える程の人にも、ちゃんとお裾分け出来たのなら、君も、君のお友達とやらも、もっと幸せになれただろうに』




青年は涼やかな風を其の身に受けている。

「は?」シーフォーンの怒りと苛立ちの混ざった威圧的な言葉が向けられたものの、青年は意にも介さない。


「どういう事でしょう?私に喧嘩を売ってるのですか?」

『血の気が多いな。血気盛ん故に過ちを多分に犯すのは若者特有だ。そんなつもりなんか無いね。…最も、そういう気質が原因でトラブルを作るし、其の癖に自分は悪くないって逃げるんだもんね』

「喧嘩ですか?喧嘩ならそうだと言いなさい」

『だからそんなつもりは無いって言ったじゃないか。まともに言葉を聞けないのかい、君も。……許せないと思ったり、無視をきめこんでやると思う相手に対しても、例え相手が悪くても形だけ…形だけで良いから許してあげたならばーー』

「うるさい!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!」

シーフォーンは激しく怒り狂った。機嫌を損ねた子供の様に彼女は暴れる。




『子供だね』

まるで大人の様に呆れて笑う彼の姿に、彼女は酷く不愉快な感情を抱いた。私は立派な成人女性!!と舞台上の主演女優の如く、派手に振る舞った。

一々演技染みた身振り手振りを行いながら、さも己は世界と云う舞台の中で照明(スポットライト)を浴びて当然だと、そんな言葉を体現するかの様な姿で。




ーー青年は。

『まあ君がそう暴君めいた振る舞いをする奴なのは知っていたよ。自分を賢君だと信じて疑わないのなら、少しは世界に貢献するべきだね』

君の支配に降る世界が、君より弱い命を抱えているのだと彼は言った。

































ーー…二イス、彼が知る限りでは。シーフォーンに、其の言葉は最期まで理解されなかった様だった。




彼女は強靭な心の持ち主であり過ぎたのだろう。傍に控える星の影、デインソピアの様に。だからシーフォーンもまた、己より弱い心の者の事など、其の背景を一つも理解なんてしなかったのだろう。


『まあ良いさ。君はとっくに()()()()()()なんだから。もっと崩れる其の時を"僕"は楽しみに待ち望んでおこう』

外套の青年は薄っすらと笑っていたらしい。


















「…はあ?私は破滅しませんよ。あなたの様な人に楽しみにされるなんて、嫌ったらありゃしません。私のこの理想は、永遠であるべきものなのですから……私やでんちゃんの望んだ愛する全てを」

シーフォーンは青年を強く睨み、改めて向こう側を見詰め直す。

そして彼女は、「私のジャンヌちゃん、でんちゃんの■■君はでんちゃんの…………」と只管ブツブツと爪を噛みながら悪い目付きで遠くと目映い月を見ていた。


まるで歯向かう全てへの苛立ちを隠す気は微塵も無さそうな、そんなシーはフォーンの振る舞いに外套の青年は彼女に悟られない程度に、密やかに、そして冷たく笑った。

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