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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Ara Rinnirea Kin(癒都白塔)
105/125

『Impatiens』

ーー…………………………………………



ーー……………………




ーー…………





ーー……

























薄い霧、或いは布に遮られたかの様な幻の園。

















…幻は復讐者だけのものでは無かった。気が付けば、馬車の中に居た者達全員が立ち尽くしている。









「う…あ、何だよ…ここ……………………」

僅かに不明瞭な視界に、オディムは自分の目の所為にでもしたのだろうか。其の琥珀色の目を擦る。




「ん……」

彼が視界の中に世界を収めようとした時、少し離れた所で復讐者とエインが立っているのが見えた。

(あれ、あんちゃん達だ…)

自分の近くにサフィー、そしてエムオルと小さな者同士で固まっている事に、一瞥で気付く。そして自分達の居る空間、世界が遠方からの輝きで少しだけ明瞭になると、更に別の位置にはレミエとユイルが立っていた。









「オディム…オディム……」

ふと、彼の耳元にサフィーの声が聞こえてきた。

「あれ、どういう理屈…なんでしょう」

其の声には疑問が幾分多めに含まれていた。オディムは少女の言葉に、何も返せなかった。

返せる訳が無かった。

だって、全く分からないーー

















































そうだ、思い出してみろ。此の世界が、此の、世界が。どれ程の時間が経過したと思う?

黒い君達が眠る間、果たして千年か。

魂の廻り手よ、君達は本当に千年の時を転生し続けたとでも?




ーー復讐者とエイン。レミエとユイル。彼等の間に、奇妙な声が聞こえる。

遠巻きに見詰めるしか出来ない少年少女と小人を背に、彼等は世界の正しい一片を見詰めさせられていた。

































『いい加減に気付けよ。君達だって()()()()()()()()()()いたんだろ?』









































ーーパァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!





"誰か"の声が聞こえた途端、彼等の中を突き抜ける様に硝子が割れる音がした。

合わせる様に鐘の音は大きくなってゆく。



隠した儘抱き続けた違和感が、映像と云う答えに照らし合わせられて明かされてゆく。
































ーー……軍戦闘用意!! ……敵は…の四人だけ……!!!



"()()はまだか‼️我々の力だけでは「彼女達」を滅ぼせられない!!"

"大変です!!!!"


"我々の所有していた兵器の一つが連中に奪われていました!!"









"何っ!?"


"何一つありません!!全て向こうに占有されてしまった様です…!!"

































"………我々は彼女達に屈服せざるを得ないのか……………!!!!"










































ーー年代は20。極東の国で元号が変わってから2年目になった頃。

世界は流行り病の渦中に有り、多くの死者と死亡について報じられ、世界は全体的に疲弊していた。


其処を、「彼女達」は突いたのだ。









弱っている状況だからこそ、世界も人類も統制下に置けると。()の考えは正しく、そして実行された。




四人だけと思わせ、隠した伏兵達によって主要部を押さえ、各重鎮達を支配した。

人の欲を煽り立て、囃し、導いた。

流行りの病は癒しの力を発現させた四人の一人が癒し、雑兵は別の一人が人民を率いて制圧した。


病。其れを治す為に革命の長となった()は条件を課した。

『私達へ永遠に隷属するのならば、流行り病の恐れの全てから守り、そして取り払いましょう』と。



死に至らしめる流行り病を利用して、彼女は世界中の人民を掴み獲ったのだ。

偉い立場の人間でさえも。

そして力で、立場も、欲も、何もかも掌握した。其の手が世界へ至る。

















『ーーこれより、私達の治世が始まります。皆さん、私達に隷属なさい。約束は果たしましょう。ただし…反抗的ならば、私達はその全てを奪い尽くします。容赦はしません。尊厳すら踏み躙ります』


『私達の民草よ。沢山の欲を私達の為に噴き出しなさい。私達に搾り尽くされて、朽ちなさい。溜めた欲も何もかも骨の髄までしゃぶってあげる』


長い時、長い時、長い時、長い時、長い時。時間が沢山必要だ。

私達の理想的な目標の為に、世界中から欲を集めなくては。

沢山の人間から、搾り取らなければ。

私達に出して、私達にぶち撒けて、私達を満たしなさい。

もっと純粋なものを。

もっと濃くて甘いものを。





()の扇情的な振る舞いと妙に厭らしい言い回しが映し出された答えと共に響く。




然し、()()がそう言った事が、「本当の事」なのか、「自分達が見せられている光景」が見せる幻なのか。

()()は、欲を抑える普通の人間としての理性と箍を失った者。


故に己の目的の為に手段を選ばなくなった存在だし、邪魔立てされない様に悪い知恵を働かせられる……

























…とするのなら。









































「…もしかして、あの連中(シーフォーン達)は、何か隠し事でも抱えていたのか?」




復讐者とエインが永い時間眠らされていた間、

レミエの魂が何度も巡り続けていた間。

天下と泰平を謳っていた彼女達が、其の裏側で企てていた事とは。

























『ーーもう察しているのかもしれないが、敢えて言おう。世界の時間はな、1000年じゃない。永い時は経ているが、桁が違う。黒い二人、君達の計算は違っていた』

何処かから聞こえる声。

「じゃあ今は()()()から何年経っている?」

『ーー10000だ。10000年の時が経った。君達二人は(ニイス)から1000年間と伝えられ、眠らされた。まんまと騙されたんだ君達は…』

「騙された…?ニイスを知っているのか!?ーー誰なんだ?」

復讐者は問う。答えなんて返ってくる筈が無い事を知っているのに。


彼の中の疑問は尽きない。ーーニイス、一万年の時、女神の隠された計画、シーフォーンの真意、此の胸の中に生じた、複数の違和感。

無論彼だけで無くエインだってそうだったし、レミエとユイルも、居合わせている以上抱える謎は存在していた。転生に纏わる事のほぼ全てが、何か関係でもあるのかと。

膨大な情報量の正体と理由を知れるのか、と。

















ーーなのに、声の主は何も返さず無言を貫いて、フッと綺麗さっぱりと気配を消し去ってしまった。

()()()()()()()()()、と分かっていたのに、正体も何も掴めなかった儘、声の主は復讐者達の前から姿を消したのだ。




「……語る必要は無い、という事か」

復讐者は此の振る舞いである程度理解出来た様に思う。…だから、先ず。物事の整合を図ろうと思考を四人は巡らせ始めた。


ーー世界は10000年の時が経っていた。1000年間と云うニイスの言葉に惑い、復讐者とエインは1000年経ったと錯覚していた。

レミエ達もまた転生の時期、そしてあやふやな記憶の影響で時の境目を定められていなかった事。

オディム達は当然知る由も無く、女神が誤魔化しの嘘を吐けば当然騙される。

そもそもエムオルに至っては、時の流れの違う領域で過ごしていた事。





捏造された歴史と、騙された事実と、忘れられていた境界線。

『其れでも構わないのなら、受け入れて進めばいいさ』等と風に乗せられ聞こえた声を最後に、彼等の白昼の意識は途切れた。

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