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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Ara Rinnirea Kin(癒都白塔)
104/125

『Dolor』

癒都白塔で完全なる清純を装うリンニレースの贋者を天使共々消滅させた。

焔の花の核をレミエが「()()」し、満身創痍で脱出してから都の様子は恐ろしくなる程静かになった。塔内の天使達はおろか、彷徨っていた屍者達も皆一斉に消えてしまった。まるで始めから何も無かったかの様に。何一つ、誰一人として。

一見すれば虚しい最期の様に思えるが、寧ろ彼等にとっては死ぬ事すら許されず凄惨な目に遭わされ味噌樽にされるよりは、まだ、安らかな死であっただろう。


炎の女神の手で意図的に創り出されたとは言えど、「癒し」に長けた女神の贋者が、力無い他者の「生死」を掌握してしまうとは……

そんな()()が、まるで聖人の様に振る舞っていた事。


そして其れに翻弄され、狂い、生存欲求に駆られた植物として暴走し、救済されながら破滅した。

救いを与えられる存在が見下していた者に救われる。何とも皮肉なものだ。



…最も本物の女神自体「癒し」の力を使って快癒を求めた者を無惨に殺したりしていたから下衆な事に変わりは無いだろうが。

































ーー帰還の為の馬車に乗って、一行は沈黙した儘帰るべき場所へ向かう。

鎧殻馬(がいかくば)を率いて、ツブ族の御者が迎えに来た時は助かった、と安堵したものだった。癒都から機関への道は最も遠い。

疲れ切った身体を引き摺って歩くのは至難だ。




「みんな、お疲れー」

ツブ族の御者は呑気そうに労いの言葉を掛けた。…いや、一行の様に敵の拠点へ向かって戦うなんてある意味命知らずな事をしている訳では無い。当然だ。

「助かったよ、後は頼む」

「はあい」

其の遣り取りで、ツブ族の御者は鎧殻馬を走らせた。

















一行を乗せた馬車は思い良く走り、早く帰れそうだ、と心の中でぼんやりと皆は思う。考えている事が偶然にも一緒だな、と復讐者は彼等の顔を一瞥してそう感じたらしい。

「…あーっ、帰ったらメシ食いてえなー!!」


(おもむろ)に言葉を発したのはオディムだった。

「そうですね、あんなに動きましたもん。お腹空きましたね」

続いてユイルが落ち着いた何時もの声音で、溜息混じりにそう答えた。

「そうそう。エムも帰ってぐーっすり寝たいなー」

「そっちかよ!?」

エムオルの言葉にオディムが突っ込みを入れたり、

其れを朗らかに笑って見るレミエとユイル。

二人に呆れるサフィー、

…目を閉じて静かに座る。多分、仮眠を取ってるかもしれないエイン。




一行の柔らかな遣り取りに復讐者の口元はほんの少し、軽く緩んだ。

四つの白塔はもう、脅威では無くなった。

だからこそ彼等はこうして束の間の安寧に身を預けられる。


危難はあったが、無事に乗り越えた。

星の乙女(■■■■)も、デインソピアも居ない。

アンクォアも、リンニレースも。

そしてシーフォーンも。


シーフォーン以外の贋者も皆、塔と共に世界を侵す災厄では無くなった。

















ーー然し。

未だ脅威は取り除かれた訳では無かったし、ペールアという恐るべき存在が残されている。

復讐者達が倒すべき相手であり、そして、彼女の本拠地である世界の中心に聳え立つ巨大な白塔こそ最後の攻略地だ。


窓枠の向こう側を見れば、砂嵐か何かで遮られているのか。ペールアが居ると思われる巨大な白塔は其の形しか見えない。

…彼処に、女神(ペールア)が居る。

復讐者を一方的に憎み、殺してやると叫ぶ彼女。真っ赤な髪を、ゆらゆらと揺れる炎の様に揺らすペールアが、其の指で描く炎の使徒達。

其れ等は復讐者を殺さんと襲い、そして返り討たれたもの。




確かに復讐者を殺そうとするのは本気の様に思えたが、はて、何故だろう。少しだけ、少しだけ小さな違和感を感じるのはーー










































…………ガタガタと一定の規律ある振動に揺られながら、馬車は帰路を辿る。

温度の下がって涼しくなった外が、さらさらと砂を巻く。

ぼんやりと見遣った外。

様々な自然の音に紛れ込む様に、()()が聴こえた。


そして彼は耳を澄ませる。

































……何処からとも無く乾いた風に乗って、虚しさに彩られた音色が聴こえてくる。




暗く、憂鬱な調べ。

拙い奏で。

ーー不愉快と迄は至らないが、何処か誰かを思わせる旋律。


望まずして弱き者の寂しい最期の様な、あの無明を思い起こさせる。









そして彼等は音色にまるで魂を引き抜かれた様に現の世を離れ、心は、魂は空を征く。









































ーーザザザッ、とノイズが走る。




ーー瞳の奥に別の宇宙を見ている様な感覚に襲われる。エントロピーが増大し、そしてネゲントロピーによって収縮してゆく感覚は一行の脳に直接伝えられる。


何処かで宇宙が生まれ、何処かの宇宙が消える様に、繰り返されてはまた戻る。

































(……………ニイス?)中空を漂う中、復讐者とエインの二人にはニイスの物憂げな姿が映し出されていた。

映像の中の"彼"はあまりにも寂しそうで、何か悔恨の情に満ちている様で、そして伸ばされた両の手の先には自分達(復讐者たち)が居る事に気付いた。




……映像の中の復讐者とエインは横たわり、まるで死んでいるかの様に眠っている。

『済まない。()()待っていて欲しい』

映像の中のニイスは其の一言だけを口走り、其々の額に手を翳した。



ーーニイスが何かの力を行使している。呼応する様に復讐者とエインの二人は植物に守られてゆく。


青々と茂る緑の中に、蒼色の花が寄り添う様に咲いた。















ーー此の映像に意味はあるのだろうか。



































ニイスは、何故……………………


















































耳を突き抜けて、脳へ直接響く、鐘の音。




「「「「!!?」」」」復讐者と同時に、脳に響く振動と頭痛を訴えたのは、四人。

エインの両眼は開かれ、レミエが苦痛を訴える。ユイルも頭をぐっと抑えて必死に堪らえようとした。

「皆さんっ!?」

「おっ…おい!!あんちゃん達どうしたんだよ!!!」サフィーと、オディムが苦悶の表情の四人へ慌てて寄り添う。彼等の中で鐘の音が鳴り響く度、一層苦痛は増し、一人、また一人と倒れてゆく。

「皆さんっ!!!!!!!!」

サフィーの声も届かない。

「うっ…」

そして、サフィーですら彼等の様に苦悶の表情を浮かべた。自身の頭を抑え、苦しみ、そしてゆっくりと身体を崩した。

「おいっ!!!」

オディムがサフィーを抱き起こそうとするが、彼も頭痛に苦しむ事となる。

「あたま…痛………い……………………よ」

オディムも、遂にはエムオルも倒れ、馬車の中は一瞬で混乱に彩られた。

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