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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Prolog:In pluviam flammae(焔の雨の中で)
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『Flamma de Adamas』

ーー雨が降り頻る中を、一人が走っている。


パシャパシャと音を立てて、降雨で出来た水溜りを蹴る。

彼の足は止まらない。









































ーー……いや、止められないのだ。

足を止めれば死ぬ。殺される。至極適解的な答えである。

其の黒い外套を雨に濡らして、青年に見える男は走る。息を切らせてはいるが、幸いな事に長命と共に得た強靭さのお陰で何とかなっている様だ。

















雨と共に炎が降る。

炎は膨大な熱量を宿して青年を殺さんと無数の雨の如く降ってくる。

()()の炎だ。女神を殺した者へ対する圧倒的な怨嗟と憤怒の炎が、雨すらも打ち破って消える事無く展開される。




青年ーー復讐者も、()()の持つ力に驚かざるを得なかった。

四女神、特に女神シーフォーンに忠実に仕えているだけでしか無かった筈だった赤い髪の追従者が、此処までの猛威を振るう者であったとは。

「…(まさ)しく、"紅蓮の魔女"、だな」

魔女の手から逃れながら、復讐者は思う。追従者が此れ程の力を振るえるのか?単なる"怒り"等の感情だけで世界的な災害をもたらせる程の脅威と成り得るのか?









(其れよりも、彼奴達が先に逃げ延びたかが気掛かりだ………)

最も、仲間である者達が無事に逃げ果せたかが一番に気になって仕方が無かった。あの追従者による炎は聖都のシーフォーンの御所を中心に()()()()に及んでいる。

炎に巻き込まれれば、一溜りも無いだろう。

雨すらものともしない激しい炎が身を焼き尽くすのだから。

(出来れば世界中の人間達も逃げ延びれたら良いのだが)

一人となっている今、復讐者は戦わねばならない。

赤い追従者……ーーペールアを倒さなくては。

銃弾を素早く装填する。更成る有事に備え、報復者の剣も密かに構える。ペールアは此方にしか注目していない。せめて時間位ならば稼げるだろう。



「エイン達とは死なないと約束をした。…だから切り抜けるしか無い。ニイス、」

剣の中の親しき友へ声を掛ける。…だが、応える筈の声は聞こえない。

(…何故だ?)復讐者は応えぬニイスの様子を不審がる。改めて剣を見詰めると、どうやら其処にニイスは居ない様だった。

















「……万事、休す…………か…」

報復の力すら最大限に使えない状態となれば、己が持つ報復の力に頼るしか無い。だが其の分だけであの相手を調伏出来るとは全く思っていなかった。

今の状態では恐らくペールアの炎に焼かれて殺されるだけだろう。無謀過ぎる。

復讐者は遂に大人しく其の場に立ち尽くした。最早手の打ち様も無いのならば、勝ち目の無い戦いに身を投じる必要は無い。

(然し女神は殺した。こいつだけを残してしまうのは口惜しいが…唯一心残りになるのは残されてしまうエイン達の事だけか…)

ニイスに見限られたとは思っていないし、此れもまた己の業へ対する報いか、とも思っていない。

只々心残りとペールア討伐が叶わなかった事だけが彼に残っている。




ーー…復讐者は、静かに、ゆっくりと、雨と炎の中で目を閉じた。
































































……すると、唐突に辺りの光景が揺らめいた。

ペールアの唸る声に何事かと閉じた瞳を開くと、ペールアが自分を探している様子である事に気が付く。

…………何だ?

復讐者は目を見開いて思考する。()()()()()()()()()……蜃気楼の様な何かに、自分が守られている。




其れと同時に、別の者の気配が復讐者の近くに現れた。

「うわ蒸し暑いな!!」…雨と、炎による蒸し暑く湿った環境を酷く嫌そうに訴える者が、今復讐者の前に立った。



「いえーいお久しぶりじゃん」光景にそぐわぬ程に軽々しく声を掛けてきた者が、復讐者にとってはあまりにも思いもよらな過ぎた存在であったが為に彼はただ茫然としている。

目の前の人物は己の外套の汚れを軽く手で払い、少し振り直して更に続ける。

「スノ氏の事を忘れたとは言わせん、復讐者、此処から逃げとけ」



そう、紛れも無くリンニレースの追従者であったあのスノウルだ。復讐者からすれば彼女も立派な敵なのだが、何故か今回は復讐者を助けようと現れたらしい。

「状況が理解出来て無さそうな顔してますけど〜スノ氏は貴様を助けてやるんだぞ好意には従えよ」

何て軽々しい。

だが復讐者にとっては絶好の好機であった。

「……本当に私を助ける為なのか?」

他意は無いんだな?そう訊ねると今の所は、ね。と返された。

スノウルの言葉の意味がまだ分かってはいなかったが、折角なので好意に応えてやる事にした。

本音を言うと、あまりいい気はしないが。


























「取り敢えずこっち、付いて来い」スノウルがほんの僅かだけ口角を吊り上げて明らかに楽しそうに振り向く。

復讐者はただ現状からの打破の為に已む無くスノウルに付いて行った。

「貴様に助けられたのは虫唾が走るが、助かった…」

復讐者は苦虫を噛み潰す様な表情を浮かべ、そして己の力の足りなさを実感する。


……スノウルの能力なのか、上空からは白い雪が降りしきり、何時の間にか炎の熱は静かに下がっていった。

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