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6話 優しさ


 沙希は少し疲れたようにそう言う。

 どうやら魔法は疲れるモノらしい。


「十分さ」


 実際支援魔法がなくても、ゴブリンはあまり強くないだろうと俺は予想していた。

 どの物語でも最初に出てくるようなモンスターであり、強敵のイメージがないためだ。

 おそらくケヴィンもそう思っているだろう。


「じゃあ僕から攻撃を仕掛けるよ。―――はぁ!」


 素早くゴブリンへと近づきその体へとハルバードを突き立てる。

 穂先がゴブリンの体を貫き、鈍い音を響かせた。


「ギィアアアアアァァァ!!」


 なんともいえない叫び声を上げるゴブリン。

 その声に眉をひそめるケヴィン。

 俺も嫌な気持ちになるが、今は戦闘の最中だ。

 形見の剣を肩に担ぐようにして走り出し、ゴブリンへと袈裟斬りに振り下ろす。

 ス、と何の抵抗もなくそれはゴブリンの体を通過した。

 空振りしたのかと思うほどの感触。

 だが、


「ギ………?」


 ゴブリンの体は斜めにずれていき、肩口からずり落ちるようにその上半身は地面に落ちた。

 その瞬間、パァ、と光がはじけゴブリンの体が消滅していく。

 残されたのは一つの石のようなモノだけだった。


「はあ~………」


 戦闘が終わったことを悟った俺は、ひとつため息を吐く。

 気がつくと心臓がはねるように鳴っている。

 必死だったのもそうだが、気づかないうちに相当緊張していたらしい。

 生き物を殺したのは初めての経験だ。

 モンスターとはいえ人型の生き物である。

 後味が良い物ではない。

 振り返って沙希を見ると、沙希も同じような気持ちだったのか、青い顔をしながらも気丈に立っていた。


「終わったんですか……?」


 確認するように沙希。

 

「みたいだ、な」


 その言葉を聞くと、沙希はへなへなと腰が抜けたように地面へと座り込んだ。

 その姿に苦笑いを浮かべる。

 そりゃ生き物を間接的にでも殺し、その一部始終を見ていたのだ。

 気が抜けるのも仕方のない話だ。


「ヘイ、ツカサ! これを見ろよ!」


 振り返るとケヴィンがゴブリンが落としたであろう石をその手に持っていた。


「ドロップアイテムだな。どうやらさっきのモンスターはゴブリンで間違いなかったようだよ。この石を調べてみたら[鑑定]が働いて、ゴブリンの魔石と表示されたんだ」

「へぇ」

 

 どうやら見たとおりゴブリンだったらしい。

 この世界ではモンスターを倒すと消滅し、魔石をドロップするようだ。

 

「他には何もないのか?」

「ん~、みたいだね。定番だとモンスター由来の素材もドロップしていいんだが、どうやら今回は運がなかったか、それとも魔石以外は落とさないのかな。まあ、これから分かるだろうさ」


 そう言ってケヴィンが俺に魔石を渡してくる。

 ゴルフボールサイズのそれを手のひらに乗せて眺めてみる。

 

----------------

『ゴブリンの魔石』

----------------


 そう短く頭の中に表示された。

 なるほどね、と納得する。

 沙希に向かってそれを差し出してみるが、


「いいです、いいですから!」


 慌てて首を振って拒否してきた。

 鑑定を使う良い機会だと思うんだけどな。


「どっちが保管する?」


 ケヴィンに問いかけると、


「とどめを刺したのはツカサだからね。ツカサが持っていなよ」

「そうか?」


 別に所有権を主張したいわけでもないが、そういうモノかなと思い魔石をアイテムボックスにしまう。

 するとケヴィンが笑いながら俺の肩を叩く。


「それにしてもツカサ、凄い攻撃だったな! そんな長い剣を小枝のように振り回して、音もなくゴブリンを一刀両断。まるでバターを切ったみたいだったよ。こうサムライみたいに」

「……あ、そういえば言ってなかったな」

「?」


 俺は手に持った剣をあらためて見る。

 確かに見た感じ大人でも簡単に振り回せるようなサイズには見えない。


「この剣はNPCの婆さんに貰ったんだよ。道で足を挫いたのを助けたお礼だったんだけど、なんか凄い性能でさ」


 形見の剣をケヴィンに渡す。

 鞘は背負ったままなので抜きの身のままだ。

 ケヴィンは慎重にそれを受け取り鑑定する。

 重さにびっくりしたみたいだが、それ以上にびっくりしたのだろう、声を荒げて、


「攻撃力+125!? +[軽量化]!? アンビリーバブルな性能だぜコレは! 俺のハルバードは攻撃力+15だぜ!? ざっと8倍だ!」


 驚いたように剣を眺めている。

 しばし眺めた後、満足したのか、


「大事にした方が良いよ。多分凄いシロモノだぜ、ソレ」

「言われなくても大事にするさ。婆さんの夫の形見らしいからな」


 剣を受け取ってそのまま鞘にしまった。

 サンキュー婆さん、良い物をありがとうな。

 改めて感謝の意を送る。

 

「そういえばステータスを見てみたがレベルは上がらなかったみたいだ。ゴブリン一匹じゃ経験値は足りなかったんだな」


 その言葉に俺も確認を含めてステータスを見てみると、

----------------

綾峰司

Lv:1

HP:16/16

SP:10/10

----------------

STR:9

VIT:8

DEX:6

AGI:6

INT:5

MND:3

LUK:7

----------------

武器:形見の剣

防具:革の胸当て、革の靴

装飾:

----------------

攻撃力:134

防御力:18

魔防御:3

----------------

☆スキル

[剣技Lv1][格闘Lv1][鑑定][アイテムボックス]

☆称号

[プレイヤー][優しさLv1]

----------------

所持金:1000ギル

----------------


「ん?」


 もう一度よく見てみると、称号の欄に[優しさLv1]と書いてあった。

 あれ、こんな文字なかったと思うんだが。

 不思議に思いその称号を意識してみると、


----------------

『優しさLv1』

打算なく人に優しく出来る心を持つ人に贈られる称号。

Lvに応じてレベルアップ時のステータスに上昇補正。

----------------


 マジかよ。

 婆さんを助けたら凄い性能の剣どころか称号まで貰ってしまったようだ。

 レベルアップ時のステータス上昇補正は結構なアドバンテージだ。

 レベルが上昇して行くにつれ、差が出てくるだろう。

 このことを沙希やケヴィンに話すべきだろうか?

 でも下手に話すと行動に打算がでてしまい、優しさと判定されない場合があるかもしれない。

 悩むところだ。

 

「うーん……」

「? ツカサどうかしたのかい」

「え? ああ……うん、いやなんでもないよ」


 結局、考えたが言わないことに決めた。

 変に問題になるくらいなら最初から知らない方がいいだろう。

 そう判断した俺は[優しさLv1]という称号は心の内にしまっておくことにした。





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