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5話 初めてのモンスターは大抵コイツ


「ところでここにいるって事は君たちも塔に入るつもりなのかい?」


 ケヴィンが俺たちに問いかける。

 

「俺はそのつもりだったんだが、沙希は……」


 俺は沙希に視線を向けると、沙希は驚いたように体を震わせる。

 そして首を横に振ってそれを否定した。


「……私はただ人を探してここに来ただけで。塔に入ってみようとは考えてなかったです」

「そうなのかい?」

「塔の中にはモンスターがいるんですよね? 私、戦う事って多分出来ないから……」

 

 そういってうつむく沙希。

 先ほどから話していて思うのが、沙希は相当な引っ込み思案な性格をしているんじゃないかって事だ。

 本人が言っているように確かに戦闘に向いている性格だとは思えなかった。

 その言葉に思案していたケヴィンは、


「サキ、ステータスを見たかい?」

「え?」

「神が言ってただろ? 頭の中でステータスと念じる自分のステータスが表示されるって」

「そういえば……」

「僕が思うにサキは後衛向きだと思うんだ。ジョブで言えばヒーラーとかバッファーとかその辺のね。武器も杖みたいだし」


 ケヴィンが沙希の持つ杖を指差す。

 確かに攻撃的な雰囲気はないし、杖を武器にする戦士というのもいないだろう。


「だからスキル欄にはそういったスキルがあるんじゃないかと思ってね。ヒーラーなら前線に立って戦うこともないし、危険がないとは言わないがなんとかやってはいけるんじゃないか?」


 ケヴィンの言葉に沙希は考え込むように目を閉じる。

 おそらく頭の中でステータス画面を覗いているんだろう。

 しばらくして沙希が目を開けると、


「[支援魔法Lv1]と[回復魔法Lv1]って書いてありました。他には[鑑定]と[アイテムボックス]もありましたけど」

「[鑑定]と[アイテムボックス]は俺もあったな。ちなみにどっちも使って見たことがある」


 俺はアイテムボックスから最初に持っていた銅の剣を取り出してみせる。

 何度見ても不思議な光景で理論が全く分からない謎な光景だ。


「ワオ! 僕にも[鑑定]と[アイテムボックス]があるが、使ったのは[鑑定]だけだ。[アイテムボックス]だろ、それ? どうなってるんだ?」

「俺も分かんないけど、なんとなく使い方はわかるんだよな。ちなみにどうなってるのかは全く分からない。やってみるか?」


 銅の剣をケヴィンに差し出す。

 ケヴィンはそれを受け取って、自分のアイテムボックスにいれようとしたのだろう。

 銅の剣の鞘が空間に飲み込まれていくように姿を消していく。

 再び取り出そうとしてみたのか、今度は柄から銅の剣は姿を現し始め、いつの間にか剣は完全な姿でケヴィンの手に握られていた。

 まるで手品のような光景だが、種も仕掛けもない。

 いや、アイテムボックスというスキルが種や仕掛けになるのか。


「まさにアメイジングだ。自分でも理屈はさっぱり分からないが、使い方はなんとなく分かるよ。不思議なもんだな」


 ケヴィンは手に持った銅の剣を俺に渡してきた。

 受け取った銅の剣を、再びアイテムボックスへと戻す。


「………」

「あ、そういえば沙希の話の途中だったな」


 その光景が信じられない物だったのか、沙希は呆然としていた。

 まあ、確かに知ると見るじゃ大きな違いだろうしな。


「スキルを聞く限り、沙希はヒーラー兼バッファーの資質がある、でいいんだろうな。多分使い方も使おうと思えば分かると思う。俺が[アイテムボックス]を使ったときもそうだったし。どうする? 物は試しで塔の中に入ってみるか? 実際に使ってみれば分かることもあるし、この先塔の中に入らずにいるって訳にはいかないだろ?」


 俺たちは着の身着のままで、この世界に放り出されたのだ。

 この先、生活していくにも先立つものが必要だ。

 多分それは塔の中で手に入る物なんだろう。

 おそらくだがモンスターを倒せば何らかの物が手に入るはずだ。

 それを売るなり何なりして身銭を稼ぐことが、今一番身近なこの世界の生き方だと思う。

 沙希は俺の言葉にしばらくの間沈黙していたが、


「分かりました。塔の中に入ってみます」

「そっか。じゃあ俺も付き合うさ。ケヴィンはどうする?」


 話を振られたケヴィンは、


「もちろん僕も行くさ。正直僕はゲーム、特にRPGが大好きでね。結構ワクワクしているんだよ、このゲームの世界って奴に」


 その気持ちは分からなくもない。

 俺もRPGが好きだったし、MMORPGは妹とよく遊んでいたもんだ。

 まさか現実になると思いもしなかったんだがね。


「よし、じゃあ3人で塔の中に入ってみるか」


 俺の言葉に二人はうなずく。

 塔の中か。

 いったいどんな場所なんだろうな。

 俺は期待と不安をない交ぜにした感情で、沙希とケヴィンと一緒に塔に向かうのだった。


◆◇◆◇◆


 塔の中に入って最初に思ったのが、以外と広いという事だった。

 ダンジョンや迷宮のように入り組んでいると思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 天井はかなり高く、剣を手にとって手を伸ばしても届かないだろう。

 感じ的には10人で入って武器を振り回しても問題はなさそうな広さだ。

 ただ道がないかというとそうではなく、横には壁が有り、まっすぐに進むのだと言うことが感じ取れる。


「とりあえずいきなり戦闘っていうパターンないらしいな」


 見た範囲にモンスターの姿はない。

 入った瞬間に敵と遭遇という意地の悪いシステムでないことに安堵する。


「多分まっすぐが道なりだと思うんだけど」

「そう、ですね。左右には壁があって進めませんし」

「なら進むしかないな。沙希準備は良いかい?」

「……はい。なんとか頑張ってみます」

「そっか。じゃあ進んでみよう」


 ここにいて迷っていても仕方がない。

 そう言って俺たちは塔の奥へと進んでいく。

 感覚的には数分だろう、ついにそれは俺たちの前に現れた。


「グギ、ギィ……」


 醜悪な顔をした人型のモンスター。

 二本の角に、口から見える大きな牙。

 上半身は裸で、でっぷりとした腹に、腰には薄汚れた布が巻いてあるだけだ。

 手に持っているのは棍棒だろうか。

 その姿は俺の思い描くとおりの姿をしていた。


「ゴブリンか!」


 ケヴィンは声を上げて手に持ったハルバードを構える。

 俺もそれに習ってお婆さんからもらった形見の剣を抜く。

 すらりとした刀身は両刃で、反りはなくまっすぐな直刃だ。

 軽量化がかかっているため、その重さは大体竹刀か、もう少し重いくらいの鉄パイプ程度の重量。

 多少振り回してもすぐには疲れないだろう。

 手に持つ凶器に注意しつつ、沙希に声をかけた。


「沙希、[支援魔法]を頼めるか?」

「え? あ、はい。やってみます」


 沙希はゴブリンの姿に動揺していたのだろうが、すぐに気を取り直して杖を両手に持ち構える。

 少しスキルの使い方に迷っていたようだが、


「≪プロテクト≫」


 両手に持った杖を俺に向けるとそう口にする。

 すると杖の先がポウ、と光った。

 同時に俺の体から黄色の燐光を放ち始める。

 それは温かくもあり、なんともいえない感覚が走るが、なんとなく俺は、ああ、防御力が上がったんだな、と直感的に分かった。


「これが支援魔法、か」


 もう一度沙希はプロテクトをケヴィンへとかける。

 ケヴィンの体が黄色い燐光を放つ。

 ケヴィンも自分が魔法をかけられたのが分かったのか不思議そうな顔をしていた。


「ごめんなさい、今の[支援魔法]のレベルだと防御力を上げることしか出来ないみたいです」



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