4話 ビクビク女性とテンプレ的アメリカ人男性
その女性は見るからに気が弱そうで、雑踏に当てられたのか顔色がずいぶんと悪く感じた。
それでも整った顔だな、と感じる辺り非常に綺麗な女性なのだろうと思う。
年の頃はおそらく俺と同じくらいか少し上。
とは言っても大学生といった雰囲気ではないので、高校2,3年生だろうと感じた。
「貴方は日本人ですか?」
「はい、まあそうですけども…」
「よかった……っ!」
笑顔を浮かべる女性。
とてもチャーミングである。
思わずどきりとしたくらいだ。
「私、その、いきなりこの世界にいて、わけがわからなくて…! 知った人を探そうとしてもいなくて、歩いていたら声をかけられて見た目外国人で! でも言葉は通じて、でもなんか怖くて! だから初めて日本人らしい人を見つけて思わず声かけちゃって……!」
「あ、あの…おちついて…」
喋っているうちにだんだんと涙目になってきた女性。
余程混乱しているのか言っている意味は分かるがカタコトみたいな喋り方になっている。
落ち着かせるために声をかけると、しばらくして落ち着いてきたのか、荒かった呼吸がだんだんと落ち着いてきた。
そしてひとつ大きな息を吐くと、
「……ごめんなさい。思わず興奮してしまって」
「いや、なんとなく事情は理解したし、気持ちも分かるから」
察するにいきなりこの世界に来て訳が分からなくなっているところ外国人に声をかけられたが、驚いてしまって逃げたところに日本人の俺がいて思わず声をかけた、ということだろう。
さっき喋っていたことを整理すればそういうことになるはずだ。
「さっきの質問だけど俺も日本人。そういう貴方も日本人なんだろ?」
「は、はい! 日本人です!」
その通りだ、と言わんばかりに手を打って同意を示す女性。
結構オーバーなリアクションだが、こんな事態に巻き込まれたのだ、そんなリアクションになってしまうのかもしれない。
「しかし、まいったよな。貴方もいきなりここに連れてこられたくちだろ? 意味わかんないよな」
「そうなんです。本当にどうして良いのか分からなくて……」
「だよな。きっと俺もそうだし、ここにいる皆同じ心境だと思うぜ」
状況を理解してる人はおそらくいないだろうと思う。
とういうか理解していたら頭のおかしい人だろう。
誰がいきなりゲームの世界に連れてこられると想像する物だろうか。
「全く、ほんとに誰か説明してほしいよ、ったく」
「ヘィボーイ、この世界はリアルファンタジー。つまりマジモンのゲームの世界の中に俺たちは迷い込んじまったって寸法だと俺は思うよ!」
「うお!?」
「きゃっ!?」
突然横合いから陽気な声がかけられる。
その声を発しただろう人物は、陽気な笑顔を浮かべた、金色の髪をした彫りの深い顔の男性。
身長がかなり高いようで、175cmの俺を優に超すだろう、ガタイの良いムキムキの筋肉を有しており、いわゆる典型的な日本人の思う外国人であった。
陽気な笑みを絶やさず外国人は言葉を続ける。
「見ろよこの町並み! まるで中世を感じさせるレトロ感、頭に浮かぶステータス、この武器! こいつが俺の夢じゃなかったとしたら神の言ってたとおりゲームの世界以外考えられないぜ!」
そう言って見せてくるのは俺の身長と同じくらいの槍。
斧と一体化した穂先を持つその形からしてハルバードと呼ばれる槍の一種だ。
「さっきから様子をうかがっていてね、そちらのお嬢さんの様子が落ち着いたみたいだから声をかけたんだ。さっきは逃げられてしまってね。心配だったから遠目で見ていたんだよ」
その言葉に、女性はハッとした顔を浮かべ、
「さっき会った外国人……!」
「フロム、ユナイテッドステイツさ。さっきは驚かせて悪かった。声をかけたのも、ナンパじゃなく心配だったのと話を聞きたかったからで、やましい気持ちはなかったんだ。ところで日本人は外から来る人種を外国人とひとまとめにしてしまう癖がある。良くないことだと僕は思うんだけど、どうだろう?」
「そうだったんですね。あのさっきは……その、すいませんでした。ユナイテッドステイツ……アメリカの方なんですか?」
「イエス。詳しく言うとニューヨークのブルックリンなんだけど、まあ分かんないだろうからそれは置いておいて。いや、しかしさっきも思ったけど、言葉に不自由しないってのは良いモンだな。昔から日本人と話してみたいと思ってたのさ」
「あ……そういえば普通に話せてるよな」
「もちろん俺はイングリッシュで会話しているぜ。きっと君たちも日本語で話してるはず、そうだろ?」
「確かに喋ってるのは日本語だ……しかも日本語に聞こえるし、どうなってるんだ?」
突然声をかけてきた自称アメリカ人はオーバーアクション気味に肩を竦めてみせる。
「どうやら勝手に翻訳がされているみたいなんだ。さっきスペイン出身の奴と会話してみたんだが、俺にはイングリッシュに聞こえたし彼にはスパニッシュに聞こえていたらしい。流暢なイングリッシュだと褒めたら、君こそ良い発音のスパニッシュだ。ん、どういうことだ? なんて顔を見合わせちまってな。そこでどうやらお互いに母国語に翻訳されてるんじゃないかって気づいたんだよ」
「はぁ……な、なるほど」
「思わずオーマゴッド、って神に祈っちまった。ブラックジョークだぜ」
はぁ、と大きなため息を吐いた。
何をするにも話すにもオーバーな感じが実にアメリカっぽい。
なんとなく面白いな、と感じた。
「さて、そろそろ自己紹介といこうか。俺の名前はケヴィン。ケヴィン・マーティンだ。気軽にケヴィンって呼んでくれ。君たちの名前は?」
「あ、そうだな。自己紹介をしてなかった。俺は綾峰司。ツカサが名前だからツカサだな」
「私は小井戸沙希。サキと呼んでくれれば……はい」
「ツカサにサキ、ね。日本の名前は呼びにくい語感が多いけど君たちの名前はスムーズに呼べるな。うん、ツカサ! サキ! 良い名前だね! よろしく!」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
自称アメリカ人―――ケヴィンはそう言って笑顔を見せた。