3話 形見の剣はすげーチートな香りがした
お婆さんのその言葉、俺は頷き肯定した。
「はい、実は訳も分からずここに飛ばされて行く当てもなくって……神様は塔を攻略しろと言うんですが具体的な方法とか説明されてなくて……」
「ほうほう、そうかそうか。そりゃあ大変じゃったのう」
俺の話を頷きながら聞いてくれるお婆さん。
「だから俺、何やって良いかも分からなくて……」
「ふむ。じゃったらまずはその塔に行ってみるべきじゃの」
「塔に、ですか?」
お婆さんは言葉を続ける。
「なんでも<プレイヤー>にはレベルという物が存在するのじゃろう? モンスターを倒せばそれが上がっていく。つまりより健康に強くなるのじゃ。この歳になって分かるが、健康というのは何よりもありがたいものでな、少しばかり苦労してもそれが手に入るのなら手に入れておくべきじゃ。それに塔の到達者は願いを叶えることが出来るそうだし、ならば目指す価値もあるだろうしの」
「……確かに」
「おぬしに願いがあるのかは分からんが、もし願いが叶えたくなったとき、いつでも動けるようになっておくのは悪いことではなかろうて。人生何が起こるか分からんからのう。爺さんも前触れなく逝きおったもんじゃ」
遠くを見つめ思い出すようにそう語るお婆さん。
「……そうじゃ。そういえば」
何かを思い出したのかお婆さんは椅子から立ち上がり、リビングの奥へと入っていった。
数分後、出てきたお婆さんは両手に剣を抱えて持ってきた。
そしてそれをよっこらしょ、とテーブルにのせる。
「あの…?」
「いや~どこにしまったかと思えば置物の奥の方とはな。引っ張り出すのに苦労したわい」
そう言って腰を叩くようにして、再び椅子に座った。
お茶を飲んで一息ついた後、お婆さんは、
「これは死んだ爺さんの形見でな。ババアに剣の価値など分からんが、生前、それも何十年前も前じゃがそれなりに大切に手入れをしておったモンじゃ。まあ今となっては骨董品じゃが。さて、とりあえずこれをお前さんにやろう」
「は? いや、もらえませんよそんな説明の後で! だって形見なんでしょ!?」
いきなりの展開にびっくりしてしまった。
さすがに受け取るわけにはいかないだろう。
「まあ他にも形見はあるでな。爺さんは昔そこそこ腕の立つ狩人じゃったからそれなりに質は良いと思う。これから塔に向かいモンスターと戦うであろうツカサの役に立つじゃろうよ」
「いやいや、気持ちはありがたいんですけど……」
「ん? なんじゃ? ジジイの使っておった数十年も前の骨董品など使いたくないというのか?」
「いや、そうじゃなくて! って分かって言ってますよ
ね?」
「ほほ。いいからもっていくがいい。老い先短いババアにはどうせ不要なもんじゃ。爺さんもきっとそれを望むじゃろう」
「う~ん……」
断るのも悪いのだろうか?
おそるおそるテーブルに置かれた剣を受け取る。
すると、その重さに驚いた。
思った以上に軽いのである。
鞘の拵えは金属製で、柄や鍔も見たところ同じように金属製に違いない。
刀身はそれなりの長さで、腰に差してある剣よりずっと長い。
大剣と言って良い大きさだろう。
よくまじまじと剣を見つめる。
すると、
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『形見の剣』
攻撃力+125
+[軽量化]
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頭の中に文字列が表示される。
「え?」
一瞬何が起こったのか分からなかったが、神様に言われて開いたステータスのスキル欄に[鑑定]という文字があったことを思い出す。
とすると、それが発動したのだろうと当たりをつけた。
[鑑定]の発動に驚くのもそうだが、もっと驚くのはこの剣の攻撃力である。
攻撃力+125って相当強い剣なんじゃないだろうか?
試しに腰に差してある剣を[鑑定]してみると、
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『銅の剣』
攻撃力+10
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およそ12倍の攻撃力であった。
「マジか……」
確か神様は武器は初心者用とは言っていたが、その迫力は思わず息を飲んだものだ。
その12倍っていったいどんな威力でどんな切れ味なのだろうか。
[軽量化]っていうのも付いてるし、もしかしなくても相当な業物の臭いがプンプンする。
本当にもらって良いのか迷うが、お婆さんはくれる気満々だ。
情けは人のためにならずと言うが本当なのだな、と思うのだった。
◆◇◆◇◆
そこから話はそこそこ、お婆さんの家を出た俺は、教えられたとおり塔の方へと向かっていた。
お婆さんお部屋を出た瞬間、
―――ピロリロリン。
という音が頭の中に響いたが、周りを見渡しても何もなかったため放っておくことにした。
お婆さんがくれた形見の剣は腰には差せなかったので背中に背負っている。
剣の鞘には腰に差すには長めのベルトが付いていたので、これを使っていたお爺さんも俺と同じように背負っていたのだろう。
腰に差してある剣は邪魔だったので[アイテムボックス]の中にしまってある。
スキル欄の[鑑定]の横に[アイテムボックス]の文字があったので、もしやと思い意識してみたら普通に使えたのだ。
使い方は思った以上に簡単で、使おうと思ったら使い方がなんとなく分かったのである。
スキルの使い方はなんとなく分かるという神様の言うとおりだった。
とはいえ勝手に殺して勝手にこの世界に飛ばした神様を敬ったりする気は起きなかったので、なんだかなぁとため息を吐いた。
しばらくお婆さんに教えられたとおりに塔に向かって歩いていると、なにやら人影が多くなってきた。
多くの人が集まるその一角は広場のようであり、その先には天空にそびえ立つ塔が空高く伸びていた。
遠目でも確認していたが近くで見るとその圧倒的な様相が窺える。
その大きさは今まで見たどんな建物より大きい。
東京ドーム何個分とか、そういう単位で表されるくらいの大きさだろう。
そしてその塔の前に集まっている人の数。
人、人、人の大洪水で、まるで都内の歩行天国のような混み具合をみせており、まさに雑踏の中といった様子だ。
その人たちをよく見てみれば誰もがその手に武器を持つか背負ったり腰に差していたりする。
MMORPGの中のパーティ集合場所を現実にしたような光景だった。
というかまさにその通りなのだろう。
風に乗って聞こえてくる声は、パーティを組もうと交渉している声が多く、誰もが仲間をここで募っているらしい。
確かに塔の中に一人で入るのは危険に感じる。
誰かしら仲間がほしいところだ。
そう考えた人が多くいたのだろう、誰もが向かい集まる場所であった塔の前、おあつらえ向きに閑散とした広場になっているため、多くの人が集まったのだと考えられる。
俺もここで仲間を募るべきか?
そう考えていると、
「あの……」
「へ……?」
突然声をかけられ振り向いてみると、そこには黒い髪を肩まで伸ばしたサラサラ髪でミディアムヘアの女性が立っていた。