1話 10億飛んで4985人が転移させれた世界はRPG世界だった
気がつけば見知らぬ街中に一人佇んでいた。
「え…? な、ちょ…どこだここは?」
突然のことに頭が回らず、混乱した思考で周りを見渡す。
辺りには大小様々な建物が並び、それぞれのの建物には看板などが目立っており、時折洗濯物らしき物まで紐でつるされて日にさらされている。
しかし、妙なのがその建物の作りで、通常の一軒家やビルのようにコンクリートで固めた現代風の作りではなく、木材で荒く作られたであろう不格好な敷居や屋根、はたまたレンガ造りの古風と言うより中世のヨーロッパを思わせる造りだったのである。
まるで映画やゲームに存在する街の一画のような雰囲気だ。
訳もわからずただ呆然とその場立ち竦んでいると、
「な、今度は何だ?」
突然辺りが暗く陰に覆われていった。
不審に思い空を見上げると、上空になにやら大きな黒い影が現れた。
その影はまるで現実感がなくただひたすらに威圧感だけを放っていた。
『あ~、皆さんこんにちは神様です』
その影が発した言葉なのだろう、辺りに重く響き渡っていく声。
高くもないが低くもないその声は女性の声のように聞こえ、自称の神様であるが、信じさせるには十分な何かを感じさせた。
『突然のことに戸惑っているでしょうが、まずは落ち着いて私の話を聞いてくださいね。大変に重要なことをこれから話しますので、聞き逃したら後から困るのは貴方たちですよ』
女性の声はそう言って言葉を続ける。
『貴方たちは死にました。というか殺しました。そしてこの世界へと転移させたのです』
「はぁ!?」
突然の宣告に俺は驚きの声を上げてしまう。
意味がわからない。
いきなり見知らぬ街中に立っていたと思ったらお前は死んだのだと言われたのだ。
納得する云々より困惑の感情の方が強かった。
『というのもですね、現在貴方たちの元いた世界にある地球には、人口が増えすぎたあまり大変な事態に陥っているのです。例えば人類ではない動物や植物の絶滅や環境破壊など、皆さんも知っているような事がここ数百年で急激に行われ、地球の環境に劇的な変化をもたらしています』
『まあ進化と淘汰というのは得てしてそういう物かもしれませんが、見過ごすにはちょっと事が大きくなりすぎているため、少しばかり梃子入れをしようと神様会議で可決されたのです』
神様も会議とかするんだな、と思わず心の中で突っ込んでしまった。
『その内容というのが、人類を適度に減らして地球を保護しようというモノです。このままだと人口増加による他生物への圧迫が激しくなり、おろか人類同士の戦争にもなりかねないとのことでして。そうすると進歩しすぎた人類の兵器は、大変な地球へのダメージが予想されます』
『人類だけが被害を受けるなら放置してもよいのですが、そういうわけにもいかないでしょう? そこで今回可決されたのが"人類間引き計画"』
『人類は地球から生まれた生物であり、それを排除するのは愚の骨頂……ですので、人類全てを地球から排除はしません。しかし、ある程度なら間引いて捨ててしまっても構わないだろうという判断の下、一定以下の条件を設け、我々が作り出した仮想世界へと隔離した、というのが貴方たちの今いる現状となっています。ある意味貴方たちは選ばれたのです』
『ちなみにその総数10億飛んで4985人』
「多いな!?」
現在の世界総人口は75億だと聞いたことがある。
単純に計算すれば7分の1がその対象に選ばれたと言うことだ。
本当のことを言っている確証はないのだが、実際行われたとしたら大変な混乱が地球には起こっているのではないだろうか。
『あ、皆さんそんな数を間引けば混乱が起こると考えていらっしゃいますね? 大丈夫、問題ありません。なぜなら貴方たちが居たという事実ごとこちらへ転移させましたので、地球に残る人類には影響はあれど問題はないのです。分からないという方もいるでしょうが問題はないと言うことで納得してくださいね』
『まあ、ここまでの強引な強権は使いたくはなかったのですが、地球保全が最優先ですのであしからずという事です。さて、色々話しましたがそろそろ本題に入りましょう。貴方たちは死にました。ということで、これから貴方たちには殺しあいをしていただきます』
映画かよ。
しかもさっきら随所に日本のなにかしらのネタを挟んで来ているんだが、この自称神様。
というかとんでもないことを言い始めたな。
『とはいっても人類同士の、ではないですよ? 私たちが用意したモンスターと戦ってもらいます』
「モンスター?」
『私たちはこの世界に、特殊な塔を造りました。その中には様々なモンスターが存在し、様々な仕掛けなども設置されています。その階数は100階。上に行くごとにモンスターは強くなっていきますので注意してくださいね。そしてその頂上である100階に到達した人には望みを叶えて差し上げます』
『何でもいいですよ。地球に帰りたいと願えば帰しますし、この世界に残りたいと思えば残します。もちろんその際には誰もが羨む幸福な来世にしてあげます。頑張ったご褒美ですからね。逆にこの世界に残るのでしたら永遠の命ですら叶えましょう。それぞれが思い描く願いはある条件下においてほぼ全てかなうと思ってください。ただし戻った地球で不老不死、世界征服などは駄目ですよ? 一応地球には法則がありますから。しかし、それに抵触しない願いならば一つでも二つでも望みには答えます』
地球には? 法則?
微妙な言い回しが少し気になった。
『ご褒美の話はこの程度にして、ではルール説明に入りましょう。この世界はある国のゲームを基にして創り上げました。神様会議でも問題になったのが、どういうシステムで世界を造り、どのように人を餞別するのかだったんですが、さすがは人類ですね。ゲームというのは実によく出来た異世界の基礎、構成や法則を用いたもう一つの世界になっており、大いに活用させていただきました。いやはや、すばらしい想像力です。多くの神様もその想像力には感服しておりましたよ』
『さて、先ほども言った塔を攻略するに当たってシステムを構築したわけですが、皆さん、自分の姿をよくご覧になってください』
そう言われて自分の姿を確認してみる。
すると、
「な、なんだこれ?」
あらためて確認した自分の姿に驚く。
服はまるでゲームの世界のキャラクターが装備しているような、革の胸当てや服を着衣しており、腰には一本の鞘に入った剣のような物が佩いていた。
おそるおそるその剣を鞘から抜くと、
「これ、本物か…?」
その刀身はまるで本物の刃が付いているようなギラリとした光を放つシロモノだった。
間違いなく本物の刃物だろう。
確認するまでもなく、その存在感は凶器であることを疑わせなかった。
飲み込まれたようにその刀身を眺めていると、
『それが貴方の武器となります。個人別に剣であったり槍であったり、はたまた杖であったりしますが、ランダムで割り振ったものなので、このまま使い続けるか違う武器に変更するかはそれぞれの自由です。というかその武器は初心者用に造られたものなので、その武器で塔の100階を目指すのはまず無理なのですけどね』
これで初心者用なのか。
いつまでも手に持っておくのは危険なので、慎重に剣を鞘に戻しておく。
『次に頭の中でステータスと念じてみてください』
俺は言われたとおりに頭の中でステータスと念じてみた。
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綾峰司
Lv:1
HP:16/16
SP:10/10
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STR:9
VIT:8
DEX:6
AGI:6
INT:5
MND:3
LUK:7
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武器:銅の剣
防具:革の胸当て、革の靴
装飾:
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攻撃力:19
防御力:18
魔防御:3
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☆スキル
[剣技Lv1][格闘Lv1][鑑定][アイテムボックス]
☆称号
[プレイヤー]
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所持金:1000ギル
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頭の中に文字が浮かび一覧となって並び写された。
まるでRPGのステータス画面だ。
しかも妙に見覚えのある感じの表示。
もしかしてある国というのは日本なんじゃないか?
竜の冒険とかその辺りが幅をきかせていそうな雰囲気であった。
『確認できましたね? それが貴方たちの能力を表す、いわゆるステータスになります。剣と魔法の世界を参考にこの世界を構築したので、当然魔法も存在します。スキルの欄に魔法がない方もいるかと思いますが大丈夫です、レベルとともに覚える方も居れば、努力によって覚える事も可能です。使い方はなんとなく分かるはずですので、各自で試してみてください』
「俺はないみたいだな…使ってみたかった気もするが」
ステータスをもう一度開いて確かめてみるが、スキルの欄には魔法に類する物は存在しない。
努力やレベルが上がれば覚えるらしいので、時間があれば試してみてもいいかもしれない。
『一応これで最低限の知識を得たかと思います。では最後にこの世界で生きるためのルールを説明しましょう』
『この世界での死は存在の消滅を意味します。死ねばそこで終わり。後には何も残らずただ無が待つのみです。間違っても死ねば生き返る蘇生の魔法があるのではないかという希望は持たないこと。もし死者の蘇生を望むのなら塔の100階を目指し望みとして願いなさい。それ以外での方法での死者の蘇生方法は存在しませんのでご注意を』
『そしてもう一つ重要なことは、この世界には貴方たちとは異なるNPCという人類を模倣して造った生命体が存在します。彼らは貴方たちとほぼ同一に造られておりますので、当然感情を持つ生き物です。決して差別行為などを働かないようにしてください。我々からすれば貴方たちもNPCも同列の存在なのですから』
人がどう生まれたのかは解明されていない謎だが、神様からすればどう生まれようが生き物に違いはないのだろう。
『では、以上で説明を終了します。私個人としては塔の攻略をしてほしいところですが、無理だと思えば街でNPCのように静かに暮らしていくのも有りだと思いますよ。死は平等に訪れます。その先が無であろうと死んでしまえば何も考える必要はありませんからね』
そう言って上空の影は薄れていき、日の光が徐々に差しはじめる。
神の声はもう聞こえなかった。