四章「雨音」
夏葵はびしょ濡れのまま帰宅した。
部屋の明かりを付け、時計を見ると既に6時を回っていた。
両親は共働きで帰りが遅いため、今この家には夏葵しかいない。
テーブルには小さなメモが添えられた夕飯が用意されていた。
しかし夏葵は夕飯を食べる気にもなれなかったため居間のすぐ隣にある和室にゴロンと寝っ転がった。
雨音が耳鳴りのように絶え間無く頭の中で響いている。
夏葵は目を瞑り雨音をただ聞いていた。
『帰ってきた時よりも雨音が小さくなったからじきにこの雨も止むだろ』
夏葵はそんなことを思いながらもまだ爽のことを考えていた。
『あの時、あいつはどんな顔をしてたっけ』
『伸ばされた手に思わず目を伏せたあの瞬間、あいつは何を考えていたんだろう』
夏葵が思い出せるのは夏葵の髪に触れた爽の手のあたたかさだけだった。
夏葵よりも大きくてあたたかな手、それが今は夏葵を酷く切ない気持ちにさせる。
夏葵は大きな溜息を一つこぼし、両手で頭を抱えた。
「こんなんじゃろくに勉強もできねぇ」
小さくなりかけた雨音がまたザーザーと激しい音を立て始めた。
この雨は暫く止みそうにない。
爽の存在が今の夏葵には重すぎて耐えられなかった。
大切な親友を失くす怖さと自分の浅ましさ。
『あいつにとって俺はもう親友でも何でもないんだろうな』
夏葵は肩を震わせ、手をグッと強く握りしめた。
『せめて一言でいい。あいつに謝らないと』
『謝ってそれから…』
「あいつはもう一度俺に笑いかけてくれるかな」
夏葵はうとうとしながらそのまま眠りに落ちた。
雨はまだシトシトと音を立てながら静かに降り続いていた。




