番外編「花筏」
「花筏」爽の呟きに夏葵は目を丸くする。
「花筏?」夏葵が尋ねると爽は、
「うん、花筏。散った花びらが水面に浮かんで綺麗だろ」
と答えて微笑んだ。
その様子に夏葵は頬を綻ばせる。
『爽とこうして並んで歩けることが嬉しいけど…なんか実感が湧かないな』
爽は東京に引っ越し、小学校の先生になっていた。
今は夏葵が住むマンションで一緒に生活している。
『まあこいつは元々面倒見が良くて子供から好かれてたし…こいつもこいつで子供が好きだし…』
夏葵は爽をまじまじと見つめる。
『何でこいつは女じゃなくて俺を選んだんだろう?』
夏葵は自分で思って落ち込んだ。
5年前、爽を好きになった夏葵は不思議と爽以外に惹かれることはなかった。
爽を見るだけで嬉しくなり、触れられるとどうしようもなく切なくなった。
ーーでも爽は?
夏葵は爽を見つめた。
爽は水面に浮かぶ桜の花びらを静かに眺めている。
『こいつは俺のこと…』
「夏葵」
突然名を呼ばれ夏葵は目を瞬かせた。
「俺は夏葵が好きだよ」
「5年間…ずっとお前を追いかけてた」
「どうしようもなく好きなのは…多分俺の方」
突然の言葉に夏葵がもう一度爽を見つめると爽の耳が赤く染まっていることに気が付いた。
夏葵は堪えきれず爽を抱きしめた。
幸い通りには人がいなかったので爽も夏葵を抱き返す。
「人来ないかな」
爽が心配そうに呟く。
「じゃあ、あと10秒」
と夏葵が爽の身体に顔を埋めながら言ったが、
「いや、20秒でいいよ」と爽が言ったので夏葵はクスクス笑いながら「何で延びてんだよ」とますます笑いが止まらなくなった。
「じゃあ続きは家でだな」
爽が夏葵の手を引いて足早に歩き出す。
爽の必死な様子に笑いをこらえながら、夏葵は爽のいる幸せな今を胸の奥で噛みしめていた。




