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クリスマスイブのプロポーズ

クリスマスイブのプロポーズ~epilogue

作者: 刹那玻璃

 プロポーズの数日後、年末に慌ただしく籍を入れ、そして、ある程度のものは哲哉てつやとその両親が車で運んでくれたこともあり、年末年始は新居の片付けと哲哉の実家、親族の挨拶回り……年明けには哲哉の母と結婚式会場の相談と苺花いちかは忙しかった。

 元々マイペースでと言うよりものんきな性格もあって、大丈夫かと哲哉は心配してはいたのだが、年末からジェットコースターに乗っている感じ〜と返事をする苺花に、あぁ、こういう奴だよな……と惚れた弱味もあり、一応心配しつつ仕事に向かっていたのだが……。


 ある日、2月に入ってのことである。


「うーん、てっちゃん。調子悪い?」

「いや、俺に尋ねられても……疑問形で言うな。苺花の調子が悪いのか?」

「よく、解んない」


 首をかしげる苺花に、


「病院でも行くか?」

「うーん、病院、今インフルエンザが流行してるし、一応仕事も3月末に退社だから……」

「何なら、母さんにいっておくから病院に行っとけよ? 悪化したりしたら駄目だ。俺がついていってもいいけど……」

「それはダメ! てっちゃん、新しい仕事任されてるじゃん! それだけでも大変なのに!」

「俺は苺花の方が大事」


ハッキリと言い切った哲哉を見上げ、ぱぱぱっと頬を赤くする。


「……どーして真顔で言うの~? 恥ずかしい」

「今のうちしか言わないかもしれないぞ? 苺花。今のうちに聞いておけ」

「……うぅぅ。てっちゃんの意地悪」

「本当に、俺から母さんに言っておくから、苺花無理は駄目だ。病院にいっておくこと、いいな? じゃぁ、行ってきます」

「行ってらっしゃい!」


 こう言う見送りもいいな……と思いつつ、車をだし仕事に向かう。

 職場につき、駐車場に車を停めると、スマホをとりだし、実家に電話する。

 数回のコールで電話が繋がる。


『もしもし? 勧誘お断りですが』


と言う痛烈な一言に脱力しそうになる。


「母さん……俺だけど」

『詐欺も結構ですよ~?』

「哲哉だよ! 分かってやってるだろ!登録してるのに!」


 食って掛かると、ケラケラと、


『あら、哲哉。苺花ちゃんは?』

「その事! 何か調子が悪いみたいで、病院行くか? っていったら、俺の仕事はちゃんとしろって。母さん、ちょっと様子を見て、行ってきてくれるかな?」

『……息子は両親よりも嫁大事……本当に必死に育てたのに……』

「泣き真似しても、母さんが苺花可愛がってるだろ、俺より」


言うと、からっと、


『当然じゃない! うちの子よ。娘が欲しかったんだもの。あんなに可愛い娘よ~?』


と告げる。


 哲哉の両親と言うか、父や親族は、一人息子である哲哉の早い結婚を待ち望んでいた。

 しかし、哲哉は大学に行き就職するとその仕事に没頭し、ただ、幼馴染みの苺花とデートらしからぬお出掛けが多く、本当に落胆していたらしい。

 だが、母のみが薄々と言うか苺花への想いを知っていて、応援はせず見守っていた。


『じゃぁ、苺花ちゃんと病院にいったら、お買い物とか楽しむわね~?』

「母さん……ここでは言えないものは買うなよ。調子悪いんだし」

『あら? 苺花ちゃんの下着? 見たの?』

「そりゃ見るだろ! 夫婦なのに! だから、連れ回さないでくれ。苺花の体を考えてって言ってるんだよ! じゃぁな! 仕事だから」


 電話を切ると、同僚が近づいてくる。


「よっ! 大角おおすみ。嫁さんと喧嘩?」

「違う! い……嫁が調子が悪いみたいで、でも無理して出歩いたら困るから、お袋に電話したんだ」

「嫁の親?」

「俺の親。俺の両親、俺と嫁が幼馴染みだから、可愛がってるんだよ」


 出入り口で、タイムカード兼会社の出入り口の鍵を兼ねたカードを通し、入りながら答える。


「嫁って、大角の嫁って俺達知らねぇよな?」

「人見知りなんだよ。悪いか? 代わりに渡したよな? 一応」

「あぁ、年賀状はお前の名前だけ」

「違う! 結婚式の招待状を!」

「あぁ、苺花ちゃんだっけ? 可愛い名前だよな。そういえば、お前、スマホ見てニタニタ……」


ポケットを示す。


「ニタニタじゃない! 苺花……結婚式の衣装を選びに行ったんだ! 先に入籍したから式は後でって、準備しようとしたら苺花が反対するし……」

「は? もっと豪華にしろってか?」

「逆だ! 披露宴なし! 式だけして終わりでいい。プロポーズに入籍だけで十分幸せ……って言うもんだから、お袋が、俺に食って掛かって『入籍だけでいいと思っているの!』って、鬼になって……嫁が『充分です! お母さん! てっちゃんじゃなくて、私が言ったんです』って……。で、苺花が折れて、今色々と準備中」

「てっちゃん……苺花ちゃんにそう呼ばれてるのか」


 バンッ!


持っていた鞄で同僚を叩く。


「うるさい! 人の家庭を言うなら、お前は何だ」

「……結婚して年も経つと、変わるもんさ。大角も覚悟しろ」

「と言うか、俺達一桁の時代から一緒だったし、変わるもなにも、ないな。逆に、苺花が一緒の家にいることが新しいし、今日も『行ってらっしゃい』と言われて……」

「あぁ、嫌だ、嫌だ。新婚のおのろけ話。ごちそうさま!」

「お前の新婚の頃よりましだ。じゃぁな」


 部署の違う同僚と別れ、席につく。

 前は一般だったが、年末から若いものの課長代理に抜擢されている。

 抜擢された当初は嫌々だったが、結婚して、苺花と暮らすことを思うとそれなりに仕事に励もうとは思っている。

 が、残業や部下になる後輩の指導には、辟易している……帰って苺花と晩御飯が待っているのに……。

 まぁ、何かあったら電話を掛けてくるだろうと、切り換えて、今日の仕事のチェックをする哲哉だった。




 電話もかかってこなかった為、然程酷くはなかったか、帰って大人しくしているのだと、しかし心持ち急いで帰っていった哲哉は、あんぐりと口を開けた。


「何だこれ? 苺花?」


 まだ住み始めて二ヶ月で、ウォークインクローゼットの家の為、家具と言ってもソファにテーブルをと買いに行ったばかりだが、苺花が買い物に行ったにしてはあり得ない程の荷物が積み上がっている。


「てっちゃん! お帰りなさい」


 玄関の荷物の向こうから苺花が手を振る。


「ただいま……って、苺花が買う訳ないし、又母さん達か?」

「う、うん。えっと、本当に良いですって、言ったんだよ? でもね?」

「いや、苺花が買ってとか言うタイプじゃないのわかってるから、母さんか? でも、こんなによくもまぁ……」


 玄関の大半を占める程、買うものがあるのか?


「あ、あのね……? てっちゃん」

「ん? 何だ?」

「えっと、お、おめでとうございます」

「……えと、良く解らないんだが? ありがとうでいいのか。何かあったのか?」

「てっちゃーん!」


 抱きついた嫁の一言で、硬直した哲哉に悪気はない。


「どうしよう~! できちゃった結婚って言われるから式やめたいって言ってるのに~! お母さんがぁぁ。てっちゃんのおじさんとか、おばさんの家に電話掛けちゃって、届いたの! 運ぶの疲れちゃって置いてるけど、リビングも一杯だよ?」

「苺花? 何が出来たって?」

「荷物の山」

「違う! おめでとうって言うのと、できちゃった婚って言うと……もしかして……」

「うん。おめでとうございますって言うんだね~? ビックリした」

「……」


 返事のない夫に、おたおたと、


「てっちゃーん? 息してる? 大丈夫? それとも、おめでたくない~?」

「いや……いや、それはない。と言うか、俺と苺花の子だぞ? めでたいに決まってるじゃないか! 何で電話で知らせてくれても良かったのに!」

「てっちゃんのお仕事があるでしょ?」

「休憩時間でいいのに……」


ぼやいた哲哉は苺花を抱き締める。


「本当にありがとう……嬉しい」

「ねえねえ、てっちゃんすごく心配なんだけどね……?」

「何が?」

「……お隣の不知火しらぬいさんのお家に、ご迷惑かかったらどうしよう……」


 引っ越しの時に手伝ってくれたり、車の運転できない苺花を訪ねてきては、


「一緒に買い物にいきましょう?」


と誘ってくれるのは、実は哲哉の知人の家でもある不知火家の奥さんである。

 お隣の大きなお屋敷の不知火一家には、引っ越して以来色々と気にかけて貰っているのにと、うんうんとうなる。


「あ、あのな……」

「だって、受験とかあるし……」

「それはお隣に言っておけば良いだろう。明日にでも俺も言っておくし」

「明日! そうだった! てっちゃん、バレンタインデーだ! チョコレート買うの忘れてた! 祐次ゆうじくんに約束したのに~!」


 ガックリとする。

 何故、バレンタインデーと言う諸外国は家族にプレゼントだが、日本では一応女性から贈るとあるのに、新婚の夫ではなく隣家の、春に高校生になる少年に贈るんだと言われるのだろう……。

 ちなみに妹の葵衣あおいは、春に6年生である。

 その情けなそうな顔を見た苺花は、慌てて、


「てっ、てっちゃんのはちゃんと買ってるよ~! と言うか、明日届くように、ちゃんとお願いしてるもん! チョコじゃなくて、前に行った……アッ! 内緒にしてたのに!」

「はぁぁ……」


ため息をつくが、よしよしと背中を撫でる。


「苺花の性格は解っているから、気にしないが……それよりも子供が嬉しい。ありがとう」

「えへへ……良かったねぇ」

「でも、苺花。季節もこんな季節なんだから、無理とかするなよ? 何なら仕事も……」

「あ、うん。職場に電話して早期退職することにした。丁度、産休から戻る子がいるからって。でも、退職して大丈夫? お金とか……」


 全うな心配をする苺花に、苦笑する。


「大丈夫だよ。それよりも苺花はそそっかしいから、転んだり注意しろよ?」

「大丈夫だよ~?」

「お前の大丈夫は信じられない」

「ひどーい!」


 頬を膨らませた苺花は、ニッコリと、


「あ、でも、去年はてっちゃんがクリスマスイブにプロポーズしてくれたけど、今日はバレンタインデーの前日イブだよ?」

「……あ、ホントだな」

「良いことあるかな~?」

「俺は、ホワイトデーは何をお返しするか……だな」

「いらないよ~! あ、和室にこたつ欲しいかも」


 腕の中の無邪気な提案に、


「駄目だ。こたつを買ってきたらお前は絶対、博物館や美術館のパンフレットとか広げて……次は、あの博物館! とか言うだろ? 出てこなくなる。和室はこの溜まっている荷物置き場。休みごとに開けて片付けていくぞ」

「えー? こたつぬくぬくなのに……」

「お前はみのむしになるだろ? 駄目だ。それよりも、晩御飯! 食べるぞ?」


二人は仲良く手を繋ぎ、奥に入っていったのだった。

苺花のマイペースさがかなり出ておりますが、哲哉はそのずれたところが可愛いようです。


にゃんこカップルも出したので、こちらの包容力バッチリ亭主も出してみました。

よろしくお願いいたします。

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