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隣の鉄子ちゃん  作者: 広 一
6/6

驚きの連続

 次の日の朝から、登校するとき家の一番最初の電信柱で川上が待っててくれるようになった。

 これまでも時々は一緒に登校する時もあったけど、川上は道場で、ぼくは学校で部活の朝練なので、お互い会えばとその程度だったが、ここ2、3日、川上はぼくの生活時間に合わせて、待ち合わせてくれる。

「時々でいいのに」

と、ぼくが言うと、

「時々じゃだめだわ」

と、無愛想に言う。

 そんなやり取りをする度、鉄子は鉄じゃ無かったんだなと思った。

 そして、付き合って一週間目の休日、始めてデートをすることになった。


 ぼくはいつも待ち合わせる電信柱に5分前に到着するよう家を出たのだが、もうすでに川上はぼくを待っていた。

「本屋に行きましょう」

 川上が開口一番そう言うと、ぼくらは本屋に向かい、デートが始まった。


 デートは終始、川上がリードしていた。

 ぼくもデートプランを考えてきたんだけど、川上の方がぼくより何枚も上手で、エスコートされっぱなしだ。

 少し男として落ち込みそうになったけど、川上がなんだか楽しそうなので良いかなと思った。

「少し休憩しましょう」

 お昼の3時前、川上が言った。ぼくらはテスト前、いつも一緒に勉強するカフェで休憩することにした。


 注文したアイスコーヒーとケーキをウェイトレスが運んできた。ぼくはチョコレートケーキ、川上はチーズケーキだ。

「チョコレートケーキも、美味しいのかしら」

 正面に座った川上が言う。

 それを聞いて、ぼくは笑ってしまった。

「笑わせようとして言ったわけではないわ」

「ごめんごめん。チーズケーキも美味しいか?」

「あげないわ」

 即答だった。

 好物なのかなと思って、なんだかまた笑ってしまった。

 ぼくはチョコレートケーキをフォークで一口の大きさに切って、顔の前で数秒考えてから、

「ほら」

と、言って川上の前まで運んだ。

「もらっていいのかしら」

「あげる」

 川上は、ぼくがフォークに指したままのケーキに顔を近づけ、それをパクっと食べた。

 その間、なんだか胸がこそばかった。

「美味しい」

 彼女がこっちを向いてそう言った時、少し笑った気がして、なんだかドキッとした。

 ぼくは、なんだか恥ずかしくて目を反らした。


 帰り道、公園によった。もう夕暮れだった。

 子供が親に連れられ帰った後のブランコに、二人並んで座った。

「楽しかったな」

「えぇ、楽しかったわ」

 同じ方向の宙を見る。

 二人の肩を風が流れていく。

 太陽は灯火のように山に消えかかり、夜の匂いがしていた。


「大切な話があるの」


 そう言った川上をぼくは数秒見つめた。そして、前を向き、

「あぁ、話してくれるのを待っていた」

と、言った。

 そう、ぼくはまだ聞いていないことがある。

 病院でなぜ、ぼくのことを婿に取ると言ったのか。告白をしたあの日、橋の上で「私にも色々あるのよ」の色々を、ぼくは聞けずじまいだ。

 ぼくはそれを話してくれるのを待っていたのだ。

「これを聞いたとしたら、かなり面倒な事になるかもしれない」

「構わない」

「とても驚くわ」

「何でもいい。大丈夫。言ってくれ」

 ぼくは川上に催促すると、川上に向かって微笑んだ。何でも受け入れてやると。

 きっとすごく言いにくいことなんだと、ぼくは思った。

 川上が口を開く覚悟を決めた時、夕陽の灯火は消え、夜になっていた。日光の代わりに、電灯の白い無機質な光が二人を照らす。風は冷えて、背を冷やし、ぼくに緊張感を与えた。

 そして、意を決したように川上が口を開いた。



「私、忍者なの」



 ぽくは正直、何言ってんだこいつって思った。

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