鉄子父のピンチ
手を引かれること30分弱。ぼくと川上はとある病室の一室にいた。
ある人物を、川上とぼく、そして、黒スーツの厳めしい奴らが所狭しと囲っている。そのなかには数人だが女もいるみたいだ。
事態は深刻らしい。とても川上に、ここで何をすればいいか尋ねることが出来る雰囲気ではなかった。
ぼくの胸は気まずさで爆発しそうだ。
何分たったろうか?。いつの間にか時計の針が17時を指そうとしている時に、この集団の中心たるベッドにねていたその人物が目を覚ました。
「頭取!」
若い切れ目の黒スーツの男の一人が言うと、みんな頭取!頭取!と伝染するように呼びかけ出す。
誰かが看護婦を呼んで来いと若い衆に命じる。
「父!」
隣で川上もそう呼びかける。
みんな必死だ。
「静かになさい」
川上父はかすれた声でそこにいる全員にいった。
何回か見たことがある。川上のお父さんだ。川上の両親は高齢出産であったので、ぼくらの両親よりずっと歳を重ねていた。
そして、切れ目で顔の彫りが深くこの中で一番厳めしい顔をしていた。
いつの間にか着ていた医者と看護婦。川上秋玄様のご容態はと、黒スーツが聞くより先に話し出す。
「川上秋玄様のご容態は過労でございましょう。3日ほど安静にしていれば元気になります。念のため、精密検査もしておきましょう」
そして、看護婦が、また検査の時間なればお呼びいたしますと言うと、部屋を後にしていった。
黒スーツ達が、あぁ、良かった良かったとざわめき出す。
「父、大丈夫ですか!?。だからあれほどに母も無理をするなとおっしゃっていたではありませんか!!」
川上がそう言うと、父が川上の頭にまだ、ふらついて頼りない体を起こそうとした。慌てて黒スーツの人達は川上父を支える。慌てて川上も手を貸す。
そして父は、川上の頭にを頼りない手つきで撫でた。
「藤鷹。心配をかけたな」
「まったくでございます」
少し半泣きの藤鷹を見て、ぼくは少しなんだか胸が熱くなった。
鉄子の目にも涙か。
「佐々木君も来てくれてありがとう。私は大丈夫だ」
「無事で何よりです」
その言葉に、気まずさが引っ込む。
「そうでした!。父!」
川上が突然、何かを思い出したようにはっとする。
父は驚く。
「どうしたんだ突然……」
「ここに佐々木を連れて来たのは、父の見舞いの要件だけではございません!。父に佐々木彦助を紹介したくて連れて参りました!」
川上の言葉きいて、ぼくと川上父は顔を合わせた。
「あぁ、佐々木君のことはよく聞いているよ。いつも娘がお世話なっている」
「こちらこそ、お世話になっております」
ぼくと父がそう言ってお互いに頭を下げると、
「違います!。友達として紹介したいのではないのです!」
と、言う。
父は少し考えて、
「お付き合いしてるのか?」
と、聞くと、
「それも違います!」
と、言う。
「じゃあ。佐々木君をどう紹介してくれるんだ?」
父がそう言いながら、ぼくの方を向いて笑ったので、ぼくも何だか分からず、笑い返す。
そして、何だかそのやり取りに、いつの間にか回りの黒スーツ達も、こっちに注目して、お嬢もついに男ができたなどと、違うのかなどと盛り上がり出した。
なんだか照れくさいなと、ぼくが思っていると、話題の中心である川上が、
「私は!」
と、何かいい始めるものだから、病室が静かになるくらいみんなの目を引く。
「私は、佐々木彦助を婿に取ります!」
黒スーツ達はあんぐりした。
ぼくは目を丸くして川上を見ている。
そして、その発言が起こした数秒の沈黙の後、父は本日二度目の昇天に至った。