事件
事件は始まっていた。
カフェを出て近くの商店街を歩いてランチを取る飲食店を探していた時だ。
川上の携帯電話が、初期設定の着信音を鳴らす。
「電話に出るわ」
「どうぞ」
川上が出た。
川上とは付き合いが長いが、川上の携帯電話を鳴らすのは大抵、自分か川上の家族なので、ぼくは家族からかなと予想した。
「はい、川上藤鷹ですが。えぇ、はい。はい、そうです」
雰囲気で分かった。
何やら川上の回りで良くないことがあったのだろう。
あの川上が、無表情だが、ほんとですか?と、落ち着きを失っている。
……何があったんだろう。
ぼくは思った。
しぱらくすると川上が電話を切り、こっちを向いた。
「……どうした?。大丈夫か?」
「あぁ……、すぐに行かなくちゃいけなくなった。でも……」
「でも?」
そう言うと川上は沈黙してしまった。
色んなことを考えているのだろうか、無表情なのだが珍しく眉間にしわがよっている。
ぼくは考えた。
川上の表情に、少しだが変化が見える。しかも、困惑の表情だ。あの川上が眉間にしわを寄せるなんて、とっても困っているに違いない。
ぼく、佐々木彦助は、今まで本当に川上にはお世話になった。
小学校の時、この商店街に住むガキ大将にラジコンを取られた時も、取り返し、弱い自分と、暴力的なガキ大将を両成敗してくれたこともあった。
中学卒の時の修学旅行、男子で胸筋のついた女性は美乳だという話題で盛り上がり、女子風呂を覗いた時も、クラスの半数以上いた男子生徒全員を全裸のまま蹴散らし、その毎日鍛え上げたナイスな体を僕達に見せつけてくれた。
その川上が困っているんだ。もしかしたら、何か自分にも出来ることがあるんじゃないか。
川上の助けになれないかなって。
「川上、なんでも言えよ。助けになるぜ」
川上が、ぼくの目と合わせる。
「本当か」
「あぁ……なんでもいい、言ってくれよ。困ってる時はお互い様だろ」
川上が、額に手を当て考えること数秒。
「二言はないな」
と、聞いてきた。
「あぁ、あるわけないだろ。そんなこと聞くなんて、水くさいな」
ぼくは言った。
川上は突然、僕の手を引くと、
「行くぞ」
と、言った。
ぼくは川上の導くまま、川上を困惑させる原因へと走って向かうのであった。