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隣の鉄子ちゃん  作者: 広 一
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鉄子の悩み

今日はすごく天気がいい。

 日曜日の午前11時を回ろうとしている、佐々木彦助と鉄子こと川上藤鷹は近くのコーヒーショップでお勉強をしていた。

 高校三年生の春、最初の定期テストが近づいていた。


……カリカリカリカリ。


 背筋を伸ばし、川上は綺麗な姿勢で数学の問題をえげつなく迷いなく解き続ける。


……クルクルクル。


 僕は英語を解くが、分からない単語が多すぎてとりあえずペンを回す。


「……おい、ここの単語なんだけどさ」


 川上に尋ねる。川上は、ぼくの示した単語を見るなり、


「人種差別という意味」


と、間もなく答えた。ぼくは頭も鉄子なんだなぁと思った。


「……川上は分からない問題とかないの?」

「私は分からない問題を、分からないと口に出さず自分で何とかする人なのよ」

「へー……」


 だろうなと思った。川上が人の力を借りて何かするなんて想像できなかった。


「川上は、困っていることとかあるの?」


 ふと気になってぼくは川上に聞いた。川上とは物心つくころ、引っ越して来てからずっと一緒だ。

 しかし、彼女の困っているところは1つも見たことがない。


 川上はノートを書く手を止めた。そして、顔を上げこっちを見ると、


「川上の家に、男子がいないこと」


と、答えた。

 つまり、どんな仕事をしてるのかは怖くて聞いたことはないが、川上家の家業である川上組の頭取である父の跡取りがいないと言いたいのだ。


「産めばいいじゃん」


 ぼくは少しからかうように言ってみた。

 返事はデコピンで帰ってきた。多分、川上の真面目な体罰なんだろう。川上は無表情でこっちを見ていた。


「い、痛い」


 率直な感想だ。すごく痛かった。

 川上はノートを閉じると、すっと立ち上がり、


「出よう」


と、言った。


「……怒った?」


 ぼくは聞いた。


「まさか」


と、川上は答えた。

 いつも無表情の川上は、心を読むのは難しいけど怒ってないことは確かなようだと、ぼくは雰囲気で感じとるとホッとした。


 時計の針はいつの間にか正午をさしていた。

 支払いを別々に払うと、僕達はカフェを後にした。

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