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文化祭

……人は人に怯え生活をしている。


 自分でそのことに気づいているのか気づいていないかはその人によると思う。けど、少なからずその気持ちは誰にもある。


 __どんなに表情を隠していても。


 __どんなに自分を隠していても。


 __どんなに人から愛をもらい、信じようとしていても。


 その気持ちが他人からは見えていはなくても、自分見えない何処かに嫌なほどにこびり付いて離れようとしない。


 それが、人が持つ永遠の定めなのかもしれない。




「佑磨君のせいなんだから…!!」



「__ありがとう。」




 彼女は、俺が殺した。







 文化祭当日。


 学校はいつも以上に慌ただしく活気に溢れている。


 と言ってもこの学校は一般公開がなく、学校の生徒と先生だけで行われているから人の数は変わらないのだが。


「良かったら見ていって下さい」


 俺は今、自分のクラスではない教室の前で突っ立ってチラシを配りながら客寄せをしている。


 そこにいつもの2人組の顔が見えた。


「佑磨、此処にいたのか」


「もー、探したんだよー?」


「大貴、麻友、悪りぃ。少し捕まってた」


「え?」


 はい。と言い、大貴と麻友に客寄せで使っていたチラシを配り二人は顔を見合わせた。


「手伝ってやる」


「私もー!」


 二人は俺が持っているチラシ達を三頭分にして俺の元に一部を渡し、それぞれが均等にチラシの数を持つことになった。


 眈々と進められる状況に俺はついていけず時間が経ってから二人に話すことができた。


「悪りぃよ。と言うか二人は先に行ってていいから!」


 俺が二人の前に立って言うと二人はまた顔を見合わせて二人とも、それも同時に笑った。


「は?」


 なぜ二人が笑っているのか一人で困惑していると二人はごめんごめんと謝る気もなさそうに笑いながら話しかけてくる。


「三人でやった方が早く終わるだろ?」


 大貴がまだ不器用な笑みを見せながら言う。


「そうそう!三人で一緒にいこっ!」


 麻友が明るい表情で瞳は淋しげなものをまといながら言った。


「……ありがとう。早めに切り上げような。」


「うん!」


「あぁ」


 二人がチラシを配りながら小さな声で合図した。


「……悪りぃ、俺、照明の手伝いすることになったから二人で見てて」


 俺は自分でも呆れ二人に謝る。


「またかよ」


 大貴がワザとらしくため息を吐く。


「佑磨君って本当に良い子だよね」


 よしよし。と麻友は俺の頭を撫でながら言ってきた。


「本当悪い。今回は二人までに迷惑かけるわけいかないし、二人で見ててくれ」


 俺が撫でられていた手をよけて二人に向き直って謝る。


「……そうするか。」


「最後の文化祭だから佑磨君も一緒にいて欲しかったのにな」


 大貴と麻友の声が少し暗くなる。


「本当悪い!」


 俺が自分の顔の前に両手を合わせて謝ると二人は俺の手を片方ずつ握って笑顔で言った。


「じゃあ頑張って!あとちゃんと埋め合わせしてよね!」


 麻友が偽の笑顔で言う。


「何か奢ってもらうか。……とにかく頑張れ」


 無表情の中に冗談なのか嘘なのか分からない表情と、声音をした大貴。


 この二人、本音なのか嘘なのか分からないんだよな。


 少し微笑を浮かべている自分がいる。


 でも、二人は別に嘘をつきたくてやっているのでない。


 自分だからこそわかることだからか、二人にそう言ってもらえるのは嬉しかった。


「ありがとう!」


 俺はそう言って任された場所へ走り出した。




 俺が向かった先に嫌なほど顔を知ったやつが立っている。


「宮野ー!」


「わっ、悪りいって

 俺が足音をたてながら自分の方にきたのがよっぽど恐かったのか、宮野(みやの)は後ずさりをしながら謝る。



「宮野、なんで自分が出来ない仕事をやろうとする!」


「いや、出切るんだよ。出来るんだけど……」


 宮野に顔を近づける。顔と顔の距離が近くなり、そこから逃げるように宮野は、背をそり顎を引いている。


「お前は限度を知れ!」


「悪いって。でもちんたらやる気のないやつに仕事は任せたくないつーか……」


 宮野と俺は中学に入った時にあった。


 第一印象はなんて言うか、馬鹿だと思った。


 人に頼まれたものはすべて引き受けるし、自分からも自分が得意とするもの、出切る仕事はすべて引き受ける。


 働き者と言うか言葉にも一応、限度と言う言葉があって、でもこいつは限度と言う言葉を知ることをなく、ただ与えられた仕事も与えられていない仕事も一生懸命に懸命に達成しようとしているやつで…それでも、今まで見たことのないタイプだったから、少し興味が湧いて…話しかけてみた。


だが、ほぼ始めて話すような奴に話しかけるような言葉でないと、今では思う、が。


「宮野って、何でそんな仕事するわけ?ドmなの?」


「え?あーなんて言うかこれはちょっとした癖でさ、下手な奴に任せて下手なもの作らせるより、俺がすべて引き受けて人並みのものを作った方が全然言いなって」


「へー」


 その言葉を聴いた時、人の不器用さをかばって自分でなんとかしようとしている奴がいるのか。と感心ようとした。


 ……だか、次の言葉で却下することになる。


「だってさ、下手なもの作られて、自慢させられるのとかうざいし、それに目が痛くなんだよな。下手な奴が作った下手な奴見ると」


 うわ、こいつ最低だー。と多分、ほとんどの人が思うよな言葉。けど俺は不思議とそうは思えなかった。でも結局、こいつは人の事なんか考えてない、人に優しさの姿は見せていても(本人はその気がないんだが)それに対してこいつはこれっぽっちも優しさの欠片も持たない奴だ。


 でもなぜ俺がこいつを“最低”と思わない理由は何と無くわかる。それは、こいつは嘘を名に一つ言ってないからだ。


 人は言葉を喋ると代替嘘や偽りの言葉を一つは言う。


 なのにこいつは嘘のかけらもなく、自分の思っていることをすべて言葉にしていた。


 とても純粋で素直な奴だと思った。


 こんな宮野みてーなやつに眩しさを覚えてしまっていた。


 俺はこいつが、とても、羨ましかったのかも知れない。


 とまぁ、昔話はいい。


「宮野、今回の一日だけでいいから、お前の役割を言え」


「何だよいきなりっ。……えっとー確か、部活だと出し物の元部長としての責任者、クラスの出し物の責任者と接客と調理。あと劇だと仕事。あと生徒会長としての挨拶とか責任者で、運営と案内。係りだと照明と展示、あとは……」


「もういい」


「何だよ、自分から言っといて!」


「宮野さ、絶対一人分は三つ持ってるよ」


「は?こんなの一つにもはいらねぇよ」


 入らん前にはみでるから!と、言いたくなるのを堪え違う言葉を言う。


「そろそろ行かないと舞台遅れるぞ?」


「そうだった!じょあ頼むな!」


 宮野は去ろうとしていた足を一旦止め、一度俺の方に振り返り、手を降ってからまた足音をたて、姿を消した。


「あいつ、馬鹿だよなー」


 独り言をつぶやいて、俺は一人で笑っていた。


「頑張れよ」


 誰にも届かないその声には、意味もなくて、可笑しくて、また笑った。


「どうしたの?一人で笑って」


 人が立てるざわめきの声と俺の笑い声以外に人の声が聞こえた。


 声音からはとても心配しているように聞こえる。だが、その根元からは心配のかけらもなく、ただ俺をあざ笑っている。


「何だよ。猫かぶり」


 俺は独り言を吐き捨てるように言った。そしたら彼女、南はえーっと困った顔をして、何を考えてるのか分からないほど満面の笑みを浮かべて


「それは、樋口君のことかな?」


 と楽しそうに言ってきた。


「どう考えてもお前だと思うけどな」


 微笑を浮かべ、飽きながら言うと


「えー、なに言ってるの?」


 とまた、人をからかうような笑みを向けて言ってくる。


「なんで、こんなやつがモテるんだが。不思議すぎて頭が壊れそう。」


 あー頭が痛い頭が痛いと繰り返していると南は笑っていた顔をやめ独り言のように呟いた。


「それはね、演技をしているから。それも皆に好かれるように」


 ここまでははっきりと聞こえた。


「それと、裏切られても大丈夫なように」


 こんな感じに言っている気がしたが、声が小さくて、俺には曖昧にしか聴こえなかった。


「それにしても宮野君の代わりが樋口くんってなんか最悪ー」


 もう素の自分をさらしても良いと思ったのか南の言葉に嘘は見つからない。


「それはこっちのセリフだ。だけど、良い機会だし、舞台が始まったら話させろ」


「えっ?なに?告白?」


 面白いとからかいながら俺の顔をニヤニヤしながらみてくる。


「なわけねぇよ。南に告白とか死んでも、絶対しない」


「えー。ま、私も樋口くんみたいな子タイプじゃないし、良いんだけど」


 南はそう言うと俺に背を向けて、舞台に視線をやった。


「お前、絶対証明やる気なかっただろ」


「あー、わかる?」


 南は俺に背を向けたまま、手すりに寄りかかって舞台をみてる。


「宮野と一緒な奴はだいたいそうだ」


 宮野はあの性格のせいか、人に仕事を頼まないで一人でやろうとする。だから宮野のことを少し知っている奴は仕事をサボりたくて、宮野と一緒の場所や仕事に行って楽をしようとしている。


 そう考えると、宮野が俺だけにも頼るようになったのは進歩とは言える。人に頼むことを知らなすぎるあいつに頼まれると断ることが出来ず、今日みたいな日が続くのだが……。


「あ、劇、始まるみたいだよ」


 人ごとのように言ってくる。まぁ、人なのだろうが。


 俺はスポットライトのスイッチをいれ、舞台の中央に光を当てる。


「あとは、このままだな」


 ライトを固定して、ライトの隣に用意されている椅子に座った。


「で、話って何?」


 仕事が無くなったと分かり、今度は舞台を背にして、俺に視線をやった。


「麻友と大貴のこと」


 南の眉がピクリと動いた気がした。だが、当然のようにここはキャットウォークで、明かりと言える光は一つも無く、表情を詳しく見ることは出来ない。


 それでも少しだけ南が動揺しているのがわかる。


「二人がどうしたの?」


 意地でも二人に起こした行動を隠すつもりらしい。


「一つ目、麻友のこと」


 そんな彼女の演技は無視して俺は話を進める。


「麻友?何かあったの?」


 まだ、演技を続けるらしい。


 本当に心配しているようなそぶりを見せて、俺に問いかける。


「南、お前、麻友をいじめてるだろ」


 南の顔を見ながら言った。本当はこいつの顔なんて見たくもない。けど、大事なことだから、こいつと向き合って話さなければいけない。


 いくら南が真実を隠そうとしていても、彼女の瞳が本当のことを訴える。だから彼女の顔を、いや、瞳を見なくてはいけない。この暗闇の中なのだから余計に。


「いじめてる?私が?頭、大丈夫?」


 雰囲気が変わったのが分かる。口調からも、全身からも。


 呆れた口調も冷淡な態度も学校では一切出さないものだ。


 だか、彼女は今、俺に出している。先ほども同じような雰囲気を出していたが、今回は比べ物にならないくらい、人を馬鹿にした態度だ。


「お前よりは大丈夫だと思うが?」


「樋口君、人のこと言えないじゃない。何が猫かぶりよ。貴方のことじゃない」


「俺は、お前の人を騙すことで使ってはいないからマシだ」


「本性を隠すのにマシも卑怯もないわ」


 馬鹿じゃないの。と彼女は鼻で笑いながら俺に目を合わす。


 目は人を馬鹿にしていて、でも瞳は本音を言っている。


「麻友をいじめているのは、麻友が大貴といつも一緒にいるから」


「何言ってるの。そんなわけっ」


「あの子がいなくなれば、風谷くんは私のことを見てくれる……」


 彼女の瞳を見てわかることをふざけながら声を真似て言った。


「勝手なこと言わないで!」


 南は俺がマジかにいるのにもかかわらず大声を荒げた。


「ひとつ、俺からのアドバイス。もし南が麻友を殺したとしても絶対、大貴はお前のもとには来ない」


「そんなのっ……」


 南が言いかけてたことなんか無視して彼女の口を手で無理やり抑えて耳元で囁いた。


「やって見ないと分からないって言おうとしてなら君の全てを壊す」


「っ……」


 俺の声に殺気が混じっていたのか、彼女は後ずさりをした。


 俺は彼女の怯える表情を見て笑みを浮かべる。


「南がする事は俺がお前に返してあげるよ。だから、正しいと思うことでもしたら?」


 からかいと言うには軽すぎる、脅すと言ってもいいくらいに俺の声には重りがあった。


「樋口って……わけわからない」


 呼び方が変わったのは別にどうでもいい。


「君よりマシだど思うけどな」


 俺はまた南をからかうように笑みを浮かべた。


「もしかしてさ、樋口も麻友のこと好きなの?」


 今度は彼女が俺を脅すように声音を変えてといてきた。


 まぁ、俺にとっては脅しにもならない声音だが。


「麻友のこと?」


 わざと話を長くさせようとする。


「だって普通、好きでもない子にそこまでする理由がないじゃない」


 それとも樋口のお好きなお人好し?とからかいながら聴いてくるものだから話を長くするのは辞めだ。


「馬鹿じゃねぇの」


「はぁ!?」


 憎たらしいやつに一発を吹き込むと言うのはなんて清々しいのだろう。


 だか、本当はこんな事をしてはいけないのは自分でもわかっている。だけど、今こいつに本当のことを言っとかないと、後が今以上に酷いことになりそうだ。


「俺は麻友の事は好きじゃない。まぁ、友人としては普通だが」


「はぁ?じゃあなんでそこまで麻友にこだわるのさ」


 呆れたと言わんばかりに今の彼女には冷淡の表情がある。

「麻友にこだわっているんじゃない。大貴の大切な人を傷つける奴が許せないだけだ」


「なに?もしかして、樋口って風谷君の事好きなわけ?」


 南が笑いながら言ってくる。それからなわけないかっ。冗談だよ。冗談。と言ってまた笑う。


「そうだが」


なぜこんな奴に打ち明けたのかは、自分でも分からない。


こんな奴だからこそ、こんなに簡単に言う事ができたのかも知れないが。


「はぁ!?」


 笑っていた彼女の表情に今度は驚きの顔がくる。


「可笑しいでしょ!同性を好きになるとかありえない!馬鹿じゃないの!?」


「馬鹿でもなんでもいい。けど、大貴を傷つける奴は女だろうと何だろうと許さない」


「な、何それ!意味わかんない!!」


 南の声がどんどん層を増して高くも大きくもなる。


「お前なんかにわかってもらえなくていい。だか、もう彼奴らを傷つけるな」


「意味わかんないっ!」


 南の声がまた一段と高くなる。耳が痛くなりそうだ。


「とにかく」


 俺は、スポットライトのスイッチを消して、南に目線をやる。


「彼奴らにもう関わるな」


 俺はそう言うとキャットウォークから姿を消した。


 後ろから奇声らしき声が聞こえるのは無視して。







「おーい、大貴、麻友。」


 俺が南と別れた後、二人を見つけたのは、数時間後の後夜祭の時だった。


休みが終わったので、投稿ペース遅くなるかもです。

佑磨は、人の事が分かるあまり、自分の事はあまり興味のない少年だと思います。

閲覧ありがとうございました。

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