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九月

 昔、ある誘拐事件があった。


 __それは約十年前にある有名人の子供が誘拐事件にあい、五年前にテレビやら色々な報道で世間に広められた。


 その芸能人の両親は子供がいなくなったことに気づいて、警察に連絡したのは子供がいなくなった一週間後。


 ……可笑しいよね。実の娘がいないのに一週間も無視するんだよ?笑えるよ。


 結局、その子と両親と会ったのは二年後。


 __それまでその子は光もろくに通っていなく、食料も朝昼夜とおにぎり一個と500mlのお水を一本が毎回自分の目の前に置かれて、お水だけを飲んで二年間を過ごした。おにぎりなんて何で作ってるのかも分からないのに、食べれたものではなかった、と思う。けど、本当に本当にお腹が空いてる時だけは食べた。


 具は何も入っていなかったけど、美味しかったのを覚えていた。


 けど、極限の空腹になるまで、お水だけで日々を過ごす事が当たり前だった。


 その子は日にちが過ぎるのも分からないまま自分がみるみるうちに細くなっていくのを感じた。もう骨だけじゃないのかって思うくらい細くて、自分の姿を見るのも嫌だった。


 __その子が見つけられたのは、誘拐されてから一年と十一ヶ月。



 __その子、深雪(みゆき) (かえで)……私は病気の個室にいた。身体中あちこちに機械がつけられていて動くこともできなかった。


 ___機械がなくても多分、動けなかったと思う。気力が何一つ残っていなかった。


 ただ、ゆっくりと目を開けて視線を少し上にしたら見える綺麗な青い空を飽きることなく見ていた。



「あと少しでも日が遅ければ死んでしまうところでした」


 病院の先生が言った。


「そうなんですか」


 母はなんとも言えない声色で答えた。嬉しくも切なくとも後悔も感じない声。


「__死んでしまえば良かったのに」


 母がボソリと言ったのが聞こえた。


「__死んでしまえば、私に子供がいないことに出来たのに……」


 また独り言を言った。


 私は、ベットで寝たふりをして母と先生が話しているのを聴いていた。


 カーテン一枚しか遮るものはなく、母たちの影は見え、声をしっかりと聞けることが出来た。


「なので、良かったですね」


 先生は多分、母に向けて笑顔で言ってくれたと思う。声が優しかった。


「……」


 けど、母は何も言わなかった。


 先生に母の声が聞こえたかは分からない。もしかしたら私の空耳だったのかもしれない。でもそれが空耳でも事実だから。その言葉は嘘にならない。


 私は、女優だった母と俳優だった父の子として産まれた。


 その時母はまだ十代だったし父も二十代になったばかりで事務所が子供の事を隠すよう強く言ったらしい。もちろん母も父も自分達の芸能界にヒビをいれたくなかったらしく同意した。


 ただ、結婚だけは世間に知らせた。


 そして私はいらない子同然として育てられた。


 だから、私が誘拐された時も両親はそのままにしようとしたらしい。私がいない存在にしようとした。けど祖父母がそれを止めてくれた。


 私が見つかってからの一ヶ月間も私を病院に放置しようと考えていたらしい。それは、自分達に隠し子がいただけでも世間はブーイング一色に変わるかもしれないのに、隠してた上に誘拐事件に巻き込まれた。となると自分達の立場がないとないと考え、私と言う存在をいないことにしようと思ってたから。


 けど、また祖父母が説得してくれて両親は病院に来た。けど、ただ来るだけで私が母と話す事は一言もなかった。けど父は私の事を心配して顔を出してり、話しかけてくれた。


 そうして私が退院した日。二年ぶり以上久しぶりに家に帰った。


 家の雰囲気は変わっていた。


 特にリフォームした所もなかった。けど、あたりを見渡してやっと分かった。


 __私が使ってなりしていたものが、一つも無いんだ。


 元、自分の部屋だった所に行ってもそこは母の衣類やら靴やらがいっぱいあった。


 リビングにも少しながらあったおもちゃもない。確かに二年もたってあのおもちゃで遊ぶか?と聞かれても遊ばないけど、オモチャだけではなかった。


 私の服、靴、ぬいぐるみ、机、本…様々なものが無くなっていた。


 ここまでみると流石に幼かった私でもわかった。


 __本当に両親は私の事を必要としていないんだ。と……。


 それから数週間、私は両親と一緒に暮らした。一緒と言っていいのかわからないが、同じ家には住んでいた。


 両親と顔を合わせるのは週に二回程度。私は朝起きて、朝ごはんを作り、食べ、食器を洗い、家の鍵をしめ、学校に行き、家に帰り、掃除をして、宿題をして、お風呂を炊いて、晩ご飯を作って、食べて、食器を洗い、お風呂に入り、予習復習をして、好きな事をして、寝て、起床して。そんな繰り返しの日々を一人で過ごしていた。


 たまに両親が帰ってきても、母は酒でよってるせいか、強引に持ち何度も壁にうち続けたりしてるものだから、家では一人が好きだった。


 父も帰ってきて、私の世話をしてくれるけど、母と一緒に帰って来る事はなくて、私が母にされている事は知らなかった。



「楓、私達と一緒に暮らしましょ?」


 両親と暮らして何週間かたった頃、父の母と父が、祖父母が私の元にやってきてそう言った。


 私はその時、右腕と右頬にガーゼを当てていて、血がガーゼに浸みていた。


 父は、私が会うたびに怪我をしている事に疑問を持ち私の所に祖父母をいかせたと言う。


「今、通ってる学校とは違くなるけど、きっと今よりは良い暮らしてできるよ思うの」


 祖母が言った。


 私は学校は別にどこでも良かった。学校何てものは勉強さえすれば良いのだがら人とか友達とか変わっても変わらなくてもどちらでもいい。だから批判する理由は無かった。


 私は頷いて、祖父母と一緒に暮らす事に賛成した。


 それからは母から虐待を受けることもなくなったし、父はときとき顔を見せに来てくれた。


 あと変わったことといえば、苗字が深雪から南になった。理由は知らないけど……。



 ___私はずっと騙されていた…。






「み……南、大丈夫か?」


 聞き覚えのある声が聞こえて来た。私はゆっくりの目を開けてそこにいる人物を確認する。


 ……風谷君だった。


「風谷くん……?どうしてここに?」


 辺りを見渡したらここは保健室で、私は寝たままの体勢から上体を起こそうとした。


「そのまま寝てろよ。お前も階段から落ちたんだから」


 風谷くんが上体を起こそうとした私をまた寝かせる体勢にした。


「階段……?」


「覚えてないか?南、足を滑らして階段から落ちたんだぞ?」


「……あぁ」


 足を滑らした、と言うより技と、足を滑らしたヤツか。と自分で思って自分で納得する。


「て事は、私をかばってくれたの?」


「なんと言うか、俺が悪いからな」


「別に風谷くんは悪くないよ?」


 私が意図的にやったことだし……と声に出しそうなのを必死で抑えた。


「悪くねーって……俺がお前を追いかけなちゃこうならなかっただろ?」


「そうかも知れないけど……。でも私が悪いわけだから?」


「南ってよくわからねぇな」


「えっ?」


 彼は表情一つ変えず眈々と話す。


「だってさ、自分から学級委員やるヤツってだいたい目立とうとしているヤツが大半なのに劇の主役は立候補されても断るんだもんなー」


「それは……、私より適任がいるから?」


「いや、南絶対そう言うこと思ってない」


「え?」


「南って人のこと良く見てそうで見てねぇもん。それに南って本当は自分がやりたいと思ってるだろ?」


「そんなことっ!」


 私はついベットから身を乗り出す。


「おっと、安静にしておけって」


「安静に出来ないような状態にしたのは君なのですが」


 風谷くんを技とらしくジロジロ見る。


「悪りぃって。でも、南主役が麻友に決まった時どう思った?」


「それは……」


「本当は、皆にもう少し押してもらいたかったんだろ」


「……」


 ここまで、自分の事を言われたのは初めてだ。なんかムカつくし、苛立ちも感じてるのに、怒れない。


「人の押しを待ってやるのもいいけど、自分からやるって言う勇気って言って良いのかわからないけど、そう言うのも大切だからな」


 風谷くんが私の頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。


 ……少し甘えたくなってしまった。


「風谷くん」


「ぅん?」


 私は手を彼の方に進めて顔を近寄せた。


「頭大丈夫なの?そんな包帯グルグル巻で」


「あー、痛くないって言ったら嘘になるけど気になるほどでもない」


「血が出てるのに?……鉄の頭ですか?」


 ジーッ風谷くんの頭に視線を送る。


「……イタイ、デス」


 何とか出したような声だった。


 その声に思わず笑ってしまう。


「ふふふ」


 お腹が痛くなる。


「そんなに笑う事はないだろ!」


 風谷くんが拗ねたような顔をした。


「ごめん、ごめん」


 私はまだ手をお腹にあてながら謝った。


「失礼しまーす」


 樋口くんが保健室にバックを三つ持って入ってきた。


「佑磨。もう帰りの会って言うか挨拶したのか?」


「もうしたよ」


 樋口くんが三つのバックを保健室の片隅にあるソファに置いた。


「てことは、もう部活始まってるかー」


「うん。でも南も大貴も今日は部活にいかないで真っ直ぐ帰れ、だって」


 樋口くんがこちらに近づいて来る。


「マジかよ……」


 風谷くんがすごくションボリした。


「それにしても、大貴、包帯グルグルだね」


「佑磨まで笑うなよ」


「はは。所で南は大丈夫?」


 樋口くんがさっきまで風谷くんに向けていた目をこちらに向けた。


「うん。大丈夫だよ」


「そう……、なら良かった」


「それにしても、大貴も南もいきなり授業中なのに教室飛び出して階段から落ちるとか、なにしたの?」


 樋口くんが笑いながら私達にといてきた。


「俺は、ただ飛び出した南のことが気になって……」


「大貴はお人好しだからねー」


 樋口くんがまた笑った。


 でも次に私に話しかけてきた時の瞳は笑ってはいなかった。


「じゃあ、なんで、南は教室を飛び出したの?」


「それは……」


 言葉が出ない。私はクラスで劇の役割を決めていた時、麻友が主役に決まった瞬間教室を飛びた。それを風谷くんが心配して追いかけてきて、私はワザと階段で足を滑らして、怪我でもしようかなと思った時、風谷くんが私を庇って下敷きになってくれたらしい。


 でも何で私がワザと怪我をしようとしたかは、私しか知らない。


 風谷くんは私が教室を飛びたした理由は分かったらしいけど……。


「お腹痛くなっちゃって、慌てて教室飛び出しちゃったんだ。先生に言うの、忘れてたね」


 はは、と笑って話しを流そうとした。


「それで大貴は後を追ったと……」


「そうなんだよな」


 風谷くんは、私をまた庇ってくれようとしている。


「でも、トイレって階段の方向じゃないよね?」


「それは……」


 言葉が詰まった。


 どうしよう……,そう思ってた時、保健室のドアが横に開く音がした。


「もう大丈夫なの?」


 保険医の先生が私達の近くまで足を運ぶ。


「樋口くん?どうしたの?怪我でもしたの?」


「いえ、違います。大貴と南のカバンを届けにきただけです」


「そうなの。ありがとう。あっ、でもそろそろ部活の時間でしょ?」


「そうですね」


 さっきまで床に置いていたカバンを持ち樋口くんはこちらを見てから保健室を出て行った。


「あなた達も大丈夫そうなら帰る?」


 保険医の先生が私達に尋ねてくる。


「俺はそうします。南は?」


「私も、帰ろうかな」


「そう。分かった。担任の先生や部活の先生には私が言ってきます。なので帰っていいですよ」


「ありがとうございます」


 私達は先生にお礼を言って荷物を持ち保健室から出た。


 玄関に向かうため二人で廊下を歩いていると一人の少女の姿が見えた。


「あっ、麻友」


 風谷くんがその少女に近寄る。


「大貴っ!それに楓も!今、帰り?」


 麻友が自分に近づいてきた彼の背にいる私にも気づいて話しかけてきた。


 私は風谷くんと麻友の間に入る感じに移動した。


「うん。麻友は、今から部活?」


 シューズが変わっている彼女の足元を指しながら問いかける。


「うん!あっ、もう行かないと!じゃあね」


「あぁ。明日な」


「じゃあね」


 体育館に行こうとしていた彼女の足が止まって私達の方を向く。


「気をつけてね!」


 それだけを言うと麻友は背を向け体育館へ向かった。


「怪我すんなよ〜。」


 風谷くんは背を向けた麻友に向かって、彼女に聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。


「……そろそろ行こ、風谷くん」


「え?あ、あぁ。」


 私は彼の腕をつかんでいて玄関まで足早で向かった。


「どうしたんだ?」


 少し後ろの方から風谷くんの声が聞こえる。一緒に帰ろうと言いながら私は、彼と距離をとった前を歩いていた。


 目の前は学校前にある通学路。私はそれを背にして彼に言った。



「私、風谷くんのこと好き。」



「え?」



 風が砂を混じりながら私の肌に当たる。


「好きなの。入学式の時から」


 それまで距離をとっていた感覚をなくす。


「覚えてない?」


 彼の顔に顔を近づけ瞳をずっとみつめる。


「……悪りぃ。」

 風谷くんがさっきまで私に合わせていた目線を下にして俯きながら言った。


「それはどっちに対しての?」


 さっきよりも距離を縮める。もう、距離というものが無いくらいに縮める。身体が少し触れ合う。


「まずは、入学式の事」


 風谷くんが数歩後ろに下がり私に視線を戻した。


「後、南の気持ちには答えられない。ゴメン」


 彼は真っ直ぐに私を見た後、頭を下げて謝ってくる。


「……麻友だから?……麻友が、好きだから……?」


 また彼に近寄って頭を下げる彼を見下すように見る。


「麻友?なんで、麻友が出て来るんだ?」


 下げていた頭をあげて今度は頭にハテナを浮かべて聞いてくる。


 本当に麻友の事をなんとも思っていないのか、それとも隠しているのかが分からない。


「……風谷くんは麻友の事、好きなんでしょ?」


 そう聞かずにはいられなかった。


「え?まぁ、幼馴染みだし嫌いではないけど」


「幼馴染みだから?じゃあ普通の友達だったら?……異性としては?」


「どうしたんだ?南」


 声音が変わった私を心配して風谷くんが顔を覗き込んできた。

 今、そんな事をされると余計に虚しくなるだけ。


 それに……。


「南っ!?」


 私は風谷くんの肩に手を回して彼の首筋に自分の唇を触れさせた。


 彼の顔が少し驚いた顔になる。


「風谷くんの事、好き。だから…__」


「南?」


 私の腕から解放された首筋の一部を探るように手で抑えて、彼は私を見てきた。


「ゴメン、私、帰るね」


「……わかった」


「じゃあね」


 私は彼に手を降り、学校の敷地内を走って出た。


 走って時間が立ってから足を緩め、歩きながら息を整える。


「私には、言ってくれないんだ__」


 空に視線を送りながら独り言を呟いた。


 視線は青と白の景色が見えるはずなのに目に映るのは風谷くんと彼女だった__。










『風谷くんの事、好き。だから…__。』


「私が、風谷くんの近くにいる邪魔者を消してあげる。」

楓の不思議?ネタバレ注意

・苗字が変わったわけ

・父親の態度が変わった理由

・大貴を好きになった理由


まだあると思いますが、また次回。


閲覧ありがとうございました。

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