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花火大会

 私の両親は、お互いの顔を見合わせるだけで揉め事を起こす。


 だかそれはもう、物心がつく前からの日常茶飯事だ。


 私には八つ上の兄がいる。兄は現役社会人でもう一人立ちをしている。それに兄は私が小さい頃から言っていた。「速くこの家から出たい。一人立ちして、一人暮らしをする」と……。兄はそれを叶え、今は若手社員として会社でもトップの成績を残している。


 そしてたまに私に手紙を送って来る。


『麻友。元気か?そっちの方は何か変わった事はあったか?俺は順調に会社で働いてるよ。大きなプロジェクトも任された。俺なりに頑張ろうと思う。学校はどうだ? 楽しくやってるか? 身体には気をつけろよ。家の事で大変かもしれないが、学校生活を過ごせるのは長くないからな』


 こんな感じのよく言えば親切な、悪く言えば他人事の手紙が送られてくる。だいたい内容はいつも変わらない。だから私も決まって同じような返事を返す。


『うん。元気だよ。お父さんもお母さんも元気にしてる。プロジェクト?すごいね!頑張ってね!!学校は相変わらずだよ。お兄ちゃんも身体には気をつけてね』


 そんな事の繰り返し。


 似たような言葉を毎回並べて、他人事のように自分の事を書いて封筒にいれて兄に送る。


 お父さんもお母さんも元気にしてるかなんてわからない。毎日のように会ってるけど、顔も見合わせてないし、いつも不機嫌なのだから、元気か具合が悪いかなんて知る意味もない。


 偽りの手紙を書いて、それで満足する自分がいたりする。


 でも、本当はこんな上辺事の手紙なんて書きたくないし、兄に対しての文句も言いたい。なんで自分だけ逃げたの?と問い詰めたい。けど、自分には聴く能力さえないし勇気もない。だから簡単に人と話せるような、自分で作り上げたキャラを使って生活をする。

 __そんな日常は生まれてきた時からの習慣かもしれない。






「麻友。こっちだ」


 大貴の声が人混みの中から聴こえてくる。


 私はそこに向うため、人と人との間をすり抜けて大貴達の所へ行こうとする。


「あっ……」


 人混みをすり抜けた後、前に進もうとした自分の足が躓き、身体が前に倒れる。


「大丈夫か?」


 身体が宙に浮くように軽くなり、立った状態に戻った。

 大貴が躓いた私を支え、立たせてくれた。


「あ、ありがとう」


「別に」


 大貴は、自分たちが立っている橋の下を輝きながら流れている小川に目線を移して言った。


「麻友、今晩わ」


「今晩わ、佑磨君」


 大貴の隣に立っていた佑磨君が私に挨拶をした。


「今日は休日だってこともあって人が多いね」


「そうだね」


 私と大貴、佑磨君は地元の花火大会に遊びに来ていた。


 大貴も佑磨君も浴衣姿を着ていていつもと違う服装が新鮮である。


「なんか浴衣を着てる二人ってかっこいいね」


 軽く流す感じで二人に言った。


 大貴の浴衣姿は何十回も見てる。佑磨君の浴衣姿だって見たことがないわけではない。だけど、新鮮だな。って思えた。


「麻友の浴衣姿はなんかお前らしいな」


「私らしい?」


「あぁ」


「……そっか。ありがとう」


 大貴は毎年変わる私の浴衣に違う感想を述べてくれる。それは、私にとっての浴衣を着る楽しみでもあったりした。


 今回の浴衣はピンクと水色の華が大きくかかれていて、布自体はピンクの明るい色をしている。


 正直自分には似合わないと思って着た。だって実際、自分はそこまで明るい人間ではないし、つまらなくて人を馬鹿にしてて、偽って……人を騙して、自分も騙して生活してるやつなんかにこんな華やかで綺麗な色のした浴衣は似合わないと思った。


 けど、おばあちゃんが毎年送ってくれるから、それを着てまた自分を偽って、大貴といつもこうして会ってる。


 麻友らしいって言葉は偽りの自分に対しての言葉。


 もし、自分にもわからないこと私のとても醜い本性をしったら君はきっと……その言葉を言ってくれないでしょ_?


 だから私は偽り続ける。今の関係を壊したくないから__。


「……」


「佑磨君?どうしたの?」


 佑磨君が私の顔をじっと見てた。近くにある街灯が彼の目を光らせ、全ての私の偽りがこの目にバレそうになる。それでも平常心の偽りを作って聞いた。


「なんでも無い」


 首を左右に降られて答えられた。


「そう」


 そして私たちは人達が賑わっている屋台が集まるエリアに移動した。




「……誰ですか?」


 目の前に見た事の無い男の人達が立っている。一番前に立っている人は左耳にピアスをしていて、後ろにいる二人は口にピアスらしきものをしていた。


「別に。名乗るほどたいしたものじゃないよ。……ねぇ、お兄さん達とイイ事しない?」


 その男性は気持ち悪い笑みを私に向けた。


 私は大貴達と人通りが少ないこの場所で、待ち合わせをしていた。大貴と佑磨君は食べ物を買いに行ってて私は一人、この場所に待たされていた。


「はぁ……。人が多すぎる。」


 そう、独り言をつぶやいた。


 その後に、この男子高校生らしき人達が私の目の前に現れ、世間一般でいうナンパと言うものを私にしている最中である。


「嫌です」


「そんな事言わないでさ」


 男性が私の腕を強く自分の方に引っ張る。


「っ!」


 男性が握る力は思ったよりも強くて、今にも引っ張られそうになる。だがそれに反論して自分の身体にも力を入れる。


「結構です。そんな暇があったら……」

「うるさっ」


 男性はさっきまで私の腕を掴んでた手を、さらに自分の方にやり私を自分の方へ引っ張り、私にキスをした。



「……は?」


 唇が嫌な感触になった。吐きたいほど気持ち悪い。


 よく、恋愛小説とかでいきなりキスされたりするシーンはあるけどいつも不思議に思った。なぜこれにトキメクんだろう、と。でも今回、自分が体験をして強く思った。


 よく知らない男からキスをされるのは吐き気がするほど気持ち悪い、と__。


 ここで、恋愛漫画や小説なら恋が始まるかもしれないが、今ある自分の思いは恨みだ。


「悪りい、可愛くてつい」


 私にキスをした男性はそう言った。


「キモッ」


 独り言を呟いた。運良く相手には聴こえてなかったらしい。


「お礼にさ、何か奢るよ」


「結構です」


 気持ち悪い。気持ち悪い。この人の声が、行動が、息が、音が、全て……キモチワルイ。


 私はその場から逃げようとして走りだした。


「麻友?」


 大貴の声だった。大貴はかき氷をいくつも持って呆然と立っていた。


 まさか、見られてないよね……?


 自分が硬直したのが分かった。男性にキスされた事が怖かったからではない。大貴に、彼に見られたかと思うと怖かったからだ。


「大貴、今警察に__」


 佑磨君が大貴の元に走って行くのが見えた。警察……?と言う事はこの二人は最初から見てたのではないだろうか。嫌な考えが私の頭の中で繰り返される。


「麻友……」


 大貴の声が少し聴こえた。


 後ろからあの男性達がくる音も聴こえた。


 逃げなくてはいけない。この場から、一刻も速く。


 そう思っているのに足は動かない。


 後ろからくる足音がどんどん大きくなって近づいてきてるのがわかる。


 今にも後ろの人達が私の肩にあの、気持ち悪い手をおきそうだ。


 逃げないと。


 身体の心では嫌でも分かってるのに、やはり脚は動かない。


 __いっそこの気持ち悪い人達に捕まって、大貴から離れてしまえば……。


 そんな考えが頭をよぎった。


「麻友!逃げて!」


 大貴の声が耳にすんなり入ってきた。


 あれほど重かった足が、その一声で動いた。


 私は履いていた下駄を荒っぽく脱いで、一目散に大貴や佑磨君、そしてあの人達の前から消えた。






「__終わりかな」


 近くに流れていた川に足をつけてポチャリポチャリと音を奏でながら独り言を呟いた。


 私の足は、ボコボコとあちこちに凹凸がある道を走ったせいで足の皮はあちこち剥けてて、血が滲んでいる。足を水につけた瞬間、痛みがさらに酷くなった感じがした。けど水につけないと何かと落ち着かなくて、ヒリヒリする足を川に入れる事にした。


 大貴は、多分全てを見ていたと思う。いつもと違う私を見て、愕然としたか……な?驚いただろうな。


 __もう、私には会ってくれないかな……?


 そんな考えが頭の中でいっぱいになる。



 ヒュードンドン。



 空から音が聴こえた。足元には綺麗な花が咲いている。


 花火だった。


「……もう、そんな時間か」

 大貴達から逃げて結構時間が経っている。


 二人は私を探しているだろうか、それとも二人で楽しんでるのかな__?


「ふふ、どうだろっ」


 何故か笑えた。何も、おかしく無いのに笑えた。

 自分が狂ったのかもしれない。そう思えなくも無い。



 ヒュードンドンッ。



 さっきよりも大きい華が空に咲く。


 色とりどりに輝いて空から幸せを皆に贈る。


「……私とは正反対な存在だね」


 足の近くて眩しいほど輝く、華に少しだけ歪みを作った。私とは違う。



 ヒュードンドンッ。ドンドンッ。



 さらに音も色も周りに広がった。いつも人を見上げさせている月さえ適わないほど眩しく、綺麗に花弁を散らせている。


 音を聞きたくなくて耳を手で塞いでいたけれど、いつの間にか空に舞う花弁に夢中になっていて、耳を塞いでいた手も膝の上に乗っていた。


「……ゆ、麻友!!」


 かすかに聞こえる川のせせらぎの音と花火の音以外に人らしき声が聞こえた。


「おいっ、麻友!」


 肩に手を置かれた。


 私はビクッと肩をうえにあげていた。


「わ、悪りぃ」


 申し訳なさそうに謝る声がして、私はやっと声の主の方に振り返った。


「大貴……」


「おう、って気づかなかったのか?」


「うん」


 自分で今、偽りのキャラを作っていない事に気づく。


 これ以上大貴に、彼だけには嫌われたくない。


「あっ、私の下駄!持ってきてくれたの?ありがとう!」


 今、私にできる明るい声と明るい表情を作った。明るさを創り上げる。


「おう」


 大貴は片手で持っていた私の下駄を腰の隣に置いてくれた。


「そろそろ行こっか!」


 私は冷たく冷え切った足を川からだして下駄を履く。


「足、大丈夫か?」


「うん、全然大丈夫だよ!心配しないで!」


 下駄をしっかり足に合わせ、大貴の顔をみる。


「……」



 ヒュードンドン



 大貴の顔は、花火が打ち上がった時に見る事ができた。心配してる顔で、何故か切なそうで、そしてその上、真剣だった。


「じゃあ、佑磨君の所へ行こう。大貴知ってるんでしょ?佑磨君の居場所」


「あぁ」


 そして私たちは、数歩歩く。


 正直、自分に勇気があるならば、色々な事を大貴に聴きたい。自分のことどう思ってるのか、さっきのは見てしまったのか、大貴は__。


「なぁ、麻友」


 大貴の足が止まったのが分かり、私も足を止め、大貴がこちらに振り返る。


「お前、無理してないか?」


「……え?」


 正直戸惑った。自分の本性が見破られたかと思った。


「無理に笑わなくていい。無理に明るくしなくていい」


 大貴の言葉は優しかった。けど同時に辛かった。


 この言葉はあの場面を見たと言う証拠になったから…。


「別に、無理に笑ってるわけじゃないよ!」


 また無理に笑みを作る。


「嘘だ」


 一言、キッパリと断言された。


「じゃあ一つ、聴いてもいい?」


「あぁ」


 一呼吸して、息を整えてから。


「大貴は、いつから見ていたの?」


 大貴の顔を見て聴いた。けど彼の顔がはっきりと見えるわけではなかった。


「多分、最初から」


「そうなんだ、ありがとう」


 最初からか……。身体が重くなるのを感じた。


 この場所から一歩も動きたくない。そう思っていたら大貴がゆっくりと言った。


「ごめん。すぐ助けにいけなくて。多分俺が今言っても勝ち目がないと思った。__いや、正直いうと、男として情けないけど、足が動かなかったんだ。あいつらが怖かったとかじゃなくて、と言うかあいつらの事は今すぐでも殴りたいと思った。……けど、麻友がキスされたとこ見て時が止まったように感じた。助けたくて脚を動かそうとしたけど、動かなくて、そしたら佑磨が警察に電話してくれて、俺はやっと麻友に一言言えた。」



 ヒュードンドン


 大貴が両手を力一杯手が食い込むほどに握りしめてるのがわかる。


「本当、俺情けないよな。お前があいつらから逃げてる時、目があって思ったんだ麻友はお前らがきやすく触っていい女じゃないって。彼氏でもないのにおかしいよな。それに……麻友を助けることもできなかったのに__。ごめん。本当_ごめん。」



 ヒュードンドン



 大貴の手にさらに力が加わった。目が泣きそうなのにとても真剣で、何かを伝えようと必死になっているのがわかった。



 ヒュードンドン



 花火の音が耳に聞こえてくる。でも今はもうただの花火でしかない。


「大貴」


 私は大貴の、胸に飛びついた。


「麻友……?」


 大貴の腕が優しく私の背中に回ってくるのを感じる。


 大貴の温もりがとても温かい。さっきまで冷え切っていた足が嘘みたいに溶けていく。


「……私ね、怖かったの……あの人達に絡まれたことが怖かったとかじゃないんだけど……でも、大貴に嫌われたらどうしようって………本当に怖かったの……」


 大貴の手が優しく私の頭に添えられる。


「でもっ、大貴がまたこうして私を探しにきてくれて……嬉しかった……。大貴が私のこと嫌ってなくて良かった……ありがとう…。」


 私は大貴の胸で泣いていた。


 もしかしたら初めてかもしれない、人の前でこんなにも泣いたのは。


「“Ti Amo”」


「え……?」


「うぅん、なんでもない」


 私は大貴の浴衣にしがみついた。


「麻友?」


「もう少しだけ」


 大貴の心臓の音が聴こえてくる。



 __ねぇ、貴方は今はどう思ってる?



 ヒュードンドン


 花火の音はもう私の耳には聞こえなかった。


 私はしがみついていた手を少しだけほどいて、上を向いて言う。


「ありがとう、大貴」



 __これは偽りもない、私の言葉。



 花火が全て打ちあげられた後、私と大貴は佑磨君の元へ行った。


「お待たせー、佑磨」


 大貴が佑磨君のいる所に向かって、小走りで行く。


「おっそい」

 佑磨君は腕を組み合わせて私達を待ち構えていた。


 イライラしているようにも見える。


「ごめんね、私のせいで」


 私は、手を合わせて佑磨君に誤った。


「……いいよ、今日は許す」


「ありがとう!」


 また、偽りの明るさが出た。


「__少しはマシになったかと思ったけど……」


 佑磨君の声が聴こえたように感じたけど彼は大貴と話していた。



 …ねぇ、大貴。


 __私ね、まだ彼方に言ってない事があるの。


 なんだと思う?それはね……



「大貴が私を助けてくれなくてよかった。正解だよ。」ってこと。



 だって大貴がもし私を助けに来てくれてたら貴方は怪我をおっていたかとしれない。


 __そんなこと、私は絶対嫌だがら。


 __ありがとう、大貴。



 ___私を助けにきてくれてありがとう。




 ____私に生きる意味を作ってくれたのは貴方だよ。






  一呼吸吐いてから誰にも自分の顔は見えないのに、笑顔で言っていた。


「今日は楽しかったねっ!」


 私は二人で話してる大貴と佑磨君に飛びついた。


 二人は驚いた顔で見合ってたけど、最後は笑顔で私のことを見てくれた。


 ___二人とも、ありがとう。また、来年も来ようね……!





 ___けど、私の未来はそう……明るくはなかった。

今回は、麻友目線でした。

ちなみに前回は大貴目線。


閲覧、ありがとうございました。

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