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妄想の夏

 ここ数日、異常なまでに暑い。

 自宅の中は低温サウナみたいだし、鉄製の玄関ドアのノブをがっちり握ろうものなら悲鳴がもれなくついてくる。

 以前記したように、ガラスと鉄でできている車なんぞは灼熱の凶器と化し、私の命を狙っている。

 ボンネットに生卵を落とせば半熟の目玉焼きができるだろう。先日は車内に置き忘れたミネラルウォーターが、熱湯になっていたくらいだ。

 ここまで暑いと、脳まで煮えてくるものらしい。

 頭の中はお花畑状態となり、色とりどりの蝶が舞う始末だ。

 しまいには、自分が愛してやまないアニメキャラまで登場し、妄想劇場の幕が上がる。


 私の二次元王子三巨頭といえば、以下の通りである。

「Free!」の七瀬遥くん。「テニスの王子様」の海堂薫くん。「黒子のバスケ」の黒子テツヤくん。

 老いらくの恋とは恐ろしいもので、やたらと妄想をかきたてるのだ。

 たとえば、体感温度38度ほどありそうな台所で料理をしている時。

 ふっと隣にはるちゃん(=七瀬遥くん)が現れる。水着に裸エプロンという軽装で、彼が大好きな鯖の切り身を焼いてくれるのだ。

「おれはFreeしか泳がない……ところで、鯖食べる?」

 彼はクールな顔で、絶妙な焼き色の鯖の切り身を差し出す。私は全身の骨が溶けて軟体動物となり、その場で陶酔死する(!)。


 あるいは、用事があって近所へ出かける時。

 直射日光にあぶられながらふらふら歩いていると、対面方向から海堂くんが走ってくる。相変わらずの三白眼&爬虫類顔だ。怖いほどにストイックで努力家の彼は、猛暑の日でもランニングを欠かさないのだ(と思われる)。

 彼はぶっきらぼうだが、猫などの動物を愛でる主義だ。彼との距離が少しずつ縮まる。

 歩道で丸くなってうずくまったら、猫だと勘違いしてくれないかしら。そして私を拾い(!)、自宅で飼ってくれないかしら。

 私はとっさにしゃがみ込む。しかしその姿はどう見ても、何かの間違いで内陸部の住宅地に打ち上げられたトドだ。

 やがてリズミカルな足音が近づき、「ふっしゅ~」という謎の気体が吐き出され、海堂くんが走り去る。

 私は「暑さで立ちくらみしてしゃがんだけど、速攻で回復したおばさん」を装い、またふらふらと歩き出す。


 もしくは、スーパーで買い物をしている時。

 アイス売場のショーケースの前で涼んでいると、不意に背後から声がする。さすが視線誘導ミスディレクションの熟達者だけあって、何の気配も感じさせないところが素晴らしい。

「アイス、当たり出ましたけど。良かったらどうぞ」

 純日本人なのに水色の瞳&髪を持つ黒子くんが、アイスの棒を差し出す。私はそれを使って「アイスもう一本」にありつくべきか、記念すべき棒を防腐処理して保管しておくべきか、激しく悩む。

「僕はあなたの影になります」

 黒子くんはまたもや私の視界から消え失せる。その直後、回転するパス・イグナイトパス・かいが飛んできて、私の頭を直撃する。

 私は思わずよろけ、アイスのショーケースにしがみつく。気がつくと、幼稚園児くらいの女の子が私をじいっと見ていたりする。


 この妄想状態はいつまで続くのだろう。

 とりあえずしばらくは、妄想の中で無表情トリオと戯れていたい(!)。


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