少女編~第三話
えーっと、調子に乗ってかけました。
本当は、兄上が出てくる話の冒頭が出来ているんですが、なぜかその間の話ばかり出てきてしまいます。
兄上ぇ~w
姉上からヒール弾の禁止命令がでたのです。
実に残念ですが、この命令、お父様経由。
さらに言えば国王発なのです。
何たる横暴!
我がヒール弾の最廉価版ヒールBBは安くて手軽で・・・
「だからよ、デルフィルナちゃん」
ほえ?
おもわず首を傾げた私に対して、始まったのは経済学の話。
細かい話を差っぴいて言えば、回復薬は高い。ヒールBBは安い。
ヒールBBが世界を席巻すれば、薬品屋が廃業。
薬品に関する情報が失われる、という話。
やべー、さすがにそこまで考えていなかった。
ともあれ、研究は続けることは許可されており、ぜひとも前線や騎士団の訓練の際に活用してほしいとか何とか。
王宮の費用はヒールBBで浮かせようという腹ですか、そうですか。
まぁいいのですが。
ともあれ、研究の方向転換ということで、姉上に提案していました。
「そこらの雑草にヒールをエンチャントして、安いヒール薬を作ってみたいです」
「あら、面白そうね」
「うむ、よい研究テーマだ」
というわけで、メトロン教授を筆頭に、様々な雑草採取を始めたのですが、そこに薬学課とエルフ文化局が絡んできたのです。
「雑草という名の草はない!」「無闇に草花を虐殺しないでください!」
じつに真っ直ぐな話でしたので、薬効がなくて成長率が高くて、他の植物を駆逐する系統の在来種を中心に薬効を負荷してみることにしたのです
話を聞いて薬学課とエルフ文化局は大乗る気で協力してくれたのです。
なにせ、回復薬の単価削減は薬学課の目標の一つでしたし、特定薬草ばかり採取されるために森のバランスが思わしくないという悩みはエルフ文化局でも大問題でしたから。
そんなわけで、薬草に詳しい薬学課とエルフ文化局が選定した草花に、エンチャント研究室が様々なエンチャントをすることになったのです。
これが、後に「学園滅亡の危機」と呼ばれた事件の発端なのでした。
エルフ文化局推薦は、寄生木。
魔法的な意味もありつつ魔法薬効は無し。
で、森から減ってくれればいうことなし、という事らしい。
という事で、葉や本体、そして根っこまで様々なエンチャントをしたところ色々と結果が出ました。
No.1 寄生木
葉 : キュア属性と親和性高し。ただし、発動と共に対象の魔力をガッツリ吸う
木 : ヒール親和性高し。ただし此方はヒールよりもドレインが発生する。
根 : 何でも吸う。エンチャントで毒に特定成功。
「思いのほか、いい結果ですね」
「どこがですか」
私の満足げな顔に、エルフ文化局のテレニーさんは不満顔。
「だって、葉っぱ以外はすごく使えますよ?」
「え? 根以外は使い物にならないのでは?」
いえいえ、テレニーさん。
ちょっと冷静に考えてください。
ドレイン属性付の木、これで矢を作ってみてください。
「・・・あ」
効果の高さにもよりますけど、究極的な不殺兵器ですよ?
「・・・なんてエルフ文化に即したお話ですね!!」
「そういう事です」
あと、ハイキュアを込めた葉っぱで、魔力暴走している魔獣にも効きます。
「ああ!」
というわけで、No.1の寄生木さん、結構有効でした。
つづいて、薬学課。
No.2 : タンポポモドキ
花 :脳内分泌系をハイにしてくれる効果があり、依存性あり
葉 :体の痛みをなくしてくれる効果あり、依存性高し
茎 :心の高ぶりを抑えてくれる効果あり、依存性あり
根 :筋力を限界まで高めてくれる効果あり、依存性最強
「はいはい、ダウトダウト!」
なんででしょう、見た目麗しく、常春の国を代表するようなこの国の花なのに、このエンチャントとの親和性の悪さは!
何もしなければ熱さましぐらいには使えるんですよ、根っこ。
それなのに、それなのに、なぜか何をエンチャントしてもこの結果。
呪われているのでしょうか?
「いやいや待ってくれ! 依存性はキュアで何とかなるじゃないか!!」
確かに、それも正論ですが、対抗治療薬を常備しつつ使用するレベルの話じゃないのです!!
「ご近所に愛される、国の代表的な花ともいわれるタンポポモドキを悪の代名詞にしたいのですかぁ!?」
「売れるぞ、これは絶対売れるぞぉ!?」
「死の商人になりたいなら、国を離れるのです!!」
「ぐぉぉぉぉぉ!!!」
さすがに国の花とも言われているタンポポモドキを毒色に染める気はないらしく、研究資料は破棄されました。
この研究をだれも思いつかないことを祈るのです。
最近、女神と小悪魔の追いかけっこが少なくなったと、ちょっとさみしげな剣術課。
そんな練習の最中の休憩で、ふわりとしたドレスの少女が、籠を抱えてやってきた。
「あ、あの、練習、ご苦労様です」
かわいい声に思わず鼻の下を伸ばす剣士たち。
「あ、あ、あの、いつも応援してますので、これ、食べてください!!」
差し出された籠の中身は色とりどりのクッキー。
あまりの事に呆然とした剣士たちだったが、我も我もと殺到して口にする。
「お、おまえ三枚目だろ!」「かんけねー、はやいもんがちだ!!」
「も、もっとたべた・・・・・」
いつしか言葉は途絶え、クッキーを食べた剣士たちはバッタリ倒れ込んだ。
ほかの処で休憩していた剣士たちが駆け寄ったが、異常な雰囲気に近づけないでいた。
「ふむ、ヒール効果はあり、MPも回復してますね。二枚目以降も口に入れたという事は味にも問題なし。いいでしょう、合格ラインですね」
にっこり、というよりも、ニヤリと笑った少女は、残ったクッキーをベンチに置き、周囲に微笑んだ。
「皆様も、よかったら食べてくださいね?」
るんたったー、とスキップする少女を見て、それが誰かを思い知った。
小悪魔、健在、と。
何故か最近、外で採取していても人と会わないなーと思っているところで、学園長に呼び出されました。
一応、原因は判っているので、完成品を持って私、テレニーさん、姉上、そして薬学課のボーデス課長と出頭したんですが、なぜか学園長は笑顔でした。
「最近、色々とやってるようだね?」
視線は最年少の私集中です。
おかしいですね、テレニーさんかボーデスさんを見るべきでは?
「はい、違う見解を合わせて最高のものを作り上げました」
「ほほー、一応、何かが完成したのか。では見せてもらえるかね?」
もっちろん! と出したのは、小瓶に入った薬品。
見た目は、こう、景気の悪い国防色。
「ふむ、これは、何の薬かね?」
「ヒールです! 在野の薬草ではなく、通常に存在する草花から作り上げた最高傑作、ハイヒールプラスです!」
薬効は通常のハイヒール薬の12倍、飲む量は半分、値段は10分の1!!
もう、薬学界の革命児なのですよ!!
「で、欠陥は?」
瞬時に全員が視線をそらしてしまいました。
そんななか、学園長は私の正面に立ち、ぎりぎりと私の顔を学園長に向けさせました。
「欠陥は?」
言うほかありません。
「不味いです」
「うむ、良薬は不味いモノだろ?」
「薬と我慢して飲めるまずさを超えて、天元突破した破壊力ある不味さなのです」
私の言葉に、姉上とテレニーさんは物凄く頷いている。
完成前版だけでもあの不味さ、薬効を目にしなければ絶対に呑みたくないものなのですが…手放せるか不安のある薬効なのです。
「・・・ふむ、デルフィルナ嬢、色々と無茶をしている割には猛烈に健康だね?」
「はい、薬効の一部です」
「・・・ほかの女性陣はどうかね?」
「女性としての悩みが半分ぐらい吹っ飛びました」
「都市生活のエルフの悩みの七割が吹っ飛びます」
うむ、と首をかしげた学園長は、ボーデス課長を見ました。
「ためしに呑んでみたまえ、ボーデス課長」
「えええええええ!!!!」
そりゃ、えー、でしょう。
私たちの七転八倒を見ているし、今日飲んだメトロン教授の苦しそうな姿も見てるし。
「毒ではないのであろう、デルフィルナ嬢」
「保証します」
私の即答で、手にした薬品をボーデス課長に渡しました。
渡された瞬間、助けを求めるような視線で私たちを見ますが、すでに課長と私たちでは深い溝が出来ていたのです。
飲んだ人、呑んでいない人。
脂汗をかき、真っ青になりながら震えるボーデス課長の背中を、私は押すことにしました。
「ボーデス、ボーデス、ボーデス」パン、パン、パン
よく宴会などでの勢いの乗りを私が始めました。
「「ボーデス、ボーデス、ボーデス」」パン、パン、パン
続いて姉上も調子を合わせてくれます。
「「「ボーデス、ボーデス、ボーデス」」」パン、パン、パン
今度はテレニーさんも、いや、学園長も!!
「「「「「ボーデス、ボーデス、ボーデス」」」」」」パン、パン、パン
気づけば、窓の外には数々の被験者となった天使たちまで加わっています。
学園長室の内外に響き渡るボーデスコールで場が温まったのを見計らった私。
では、私がまとめに入りましょう。
「ボーデス課長の、ちょっといいとこみてみたい!」
「「「「「イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! イッキ! 」」」」」
ここまで場を整えられて引けるほど、社交性が低いわけではないボーデス課長は一気に飲み下し、そしてそのままの姿勢で気絶したのでした。
それを冷静に観察し、いろいろと調べているうちに、学園長もびっくりの効果が様々と発見され、絶対に毒ではないけど発売禁止になってしまいました。
製作は禁止ではないというところがミソ。
久しぶりの王宮謁見の間。
今度は公式な謁見なのです。
あのヒール薬の開発に対して、国から報奨が出るという事で、そのための謁見式が今のそれなのですが、旧来の礼儀作法と少し違うのです。
王も王冠をかぶっていませんし、貴族列強の方々も帽子をかぶっていないのです。
メトロン教授もボーデス課長も。
基本、この王宮謁見の間では、貴族の階位を表す帽子をかぶります。
だから私も姉上も伯爵令嬢としての帽子とコサージュをつけているのですが、テレニーさんも里での階位の帽子をかぶっているのですが、が。
王宮謁見の間にいる男性全員が帽子をかぶっていないのです。
これは王宮典範に関わる異常事態ですが、今回は仕方ないと思うのです。
「ハイヒールポーションプラス製作にかかわった者たちよ、面をあげい」
「「「「「ははっ」」」」」
正面に見据えるのは王座の君。
先日見たときは、随分とさみしそうな頭でしたが、いまや金獅子かというほどのフサモサ。
ちろーっと周囲を見回してみても、全員ニコニコのフサモサ。
「そなたたちが開発した薬品は、低価格ながら素晴らしい成果ありと大々的な宣伝をしたいところだが、この薬品を国策外交薬品に指定させてもらいたい」
意味は分かるな?
その視線に、私たちは頷きます。
「わかった。その意思に答えるために、褒美を取らせたい。もちろん、報奨とは別に、だ」
すると、なぜか視線が私に集まりました。
確かに中心開発していましたが。
「ならば、この薬品に名をつける栄誉をいただきたいのです」
「ほ・・・ほほぉ、して、どのような名だ?」
私は少し動揺している王に向かい、胸を張って答えます。
「新薬の名は『勇者ボーデス』!!」
わっと盛り上がる貴族がボーデス課長に集まって胴上げを始めました。
そう、男性服薬で髪の毛の再生や男性の能力回復などなどが発見され、不味さを超えてその力を手に入れたボーデス課長は、今や貴族社会男性の中で「勇者」扱いなのです。
よみがえった男性力で、カカー天下だった家庭をひっくり返し、いまでは新婚カップルも目を背けるほどのデレデレぶりだとか。
そんな、追いつめられた夫族の勇者が胴上げされているのです。
我も我もと集まろうというモノでしょう。
「あいわかった! 新薬の名は『勇者ボーデス』と認めよう!!」
わーっという歓声と、勇者万歳の唱和が響き渡る王宮で、そう言えば、と思い出しました。
「安い回復薬を作る話はどこ行きましたっけ、姉上?」
「・・・本気で忘れていたわ」
「あ、でもでも、里でもドレイン矢は好評で、今まで邪魔ものだった寄生木を集めるのに奔走してますよ?」
男たちの祭りから取り残された少女たちは、なんとなくぼーっと見ているだけだった。
そう、男たちの祭り、なのだから。
では、女たちの祭りは、というと…
始まりはその謁見式に付属した会食のとき。
育ちざかりの私を筆頭に、研究続きでまっとうに食事をしていなかった姉上やテレニーさんを見て、貴族御婦人たちが鼻で笑って集まってきたのです。
「はしたないですわよ、御嬢さん方。体に合わせたドレスを着ているのですから、そんなに食べたらポッコリ…」
そう言って姉上のおなかを羽扇で指したのでしたが、固まりました。
何事かという事で、一緒に嫌味を言いに来たであろう方々も、その羽扇の先を見て固まります。
そう、姉気のおなかは、全く大きくなっていなかったから。
ちなみにテレニーさんや私も同じ。
加えて言えば、コルセットなんかも全く無使用。
おもわず、そっと耳元に口を寄せてこう問いかけます。
「どういう事ですの?」
ざわざわとする貴婦人たちに、一応のコースが終わってからということで貴賓室を借りたわけだが、国内貴族の婦女子大半が集まっているかのように見えるのが恐ろしい。
どよめく貴賓室の中央で、とりあえず、私たちはドレスを脱いで下着姿になりました。
コルセットの類をしていないことを証明するためです。
瞬間、きゃーとかうそーとか、大騒ぎになりましたが、衛兵入ってくるなよ?
「う、うそよ! あれだけのコースを食べて、胃袋の形も変わってないなんて!?」
「し、信じられないわ、うそだといって!!」
「お、お、教えてくださいませ、その秘密を!!」
「「「「「その秘密を!!」」」」」
全員ほぼ土下座状態。
全員が出来ないのはコルセットの所為。
引いても仕方ないのでさっさと「勇者ボーデス」の効能だと答えた。
「え、あれは、男性機能の回復が薬効なのでは?」
「いいえ、あれは基本的にヒールなのです」
例えば、風邪。
例えば、裂傷。
例えば、そばかす。
例えば、肌荒れ。
例えば、肥満。
この瞬間、土下座の輪が一気に縮まりました。
「過食には消化を助けエネルギーを発散させ肥満にさせず、深酒には高い処理能力で体への負荷をなくし、生理痛を軽減し…」
気づけば、ギラギラした瞳の貴婦人たちが私を取り囲んでいました。
姉上とテレニーさんは、うわーとかふわーとかいうお姉さま方にペタペタ確認されている。
「…で、おいくら『金』でお分け頂けますの?」
「残念ながら、国策薬品に指定されましたので金品での授受はできません」
どよーんと暗くなる周囲に、軽やかな声を追加します。
「ですが、皆さんご存知かどうかは知りませんが、『勇者ボーデス』の製造価格は非常に安い、廉価と言ってもいいほどです。・・・つまり」
「「「「「つまり?」」」」」
ぐっとつめよる貴婦人たちを一度引き離してからドレスを着なおします。
下着だと身の危険を感じるのです。
「…貴重でありながら大変廉価な褒賞として、献身の国民に送られることになるものと予想されます」
「「「「「?」」」」」
思わず首をかしげる貴婦人たちに、こちらもドレスを着なおした姉上がほほ笑みました。
「つまり、国に貢献して報奨されるような場合、安易にばらまかれる、その可能性が高いという話です」
「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」
実際、すでに製造工場は動いていて、割とものすごい数を作っているのです。
昇進祝いに送られたり、結婚祝いに送られたりするのが目に見える流れなのです。
「今の話は確実性に欠けますが、すでに共同研究室には多量の発注が王家から来ています。みなさん、心してお待ちください」
さいごのテレニーさんの言葉に、涙ながらのスタンディングオベーションが発生し、色々な人とハグしてしまったのです。
中には、旧敵同士と言われている夫人同士が握手して、どれだけ美しくなるかで勝負だとかなんだとか昭和バンカラのせかいをかもしだしていたりいなかったりで、もう、何が何だか。
「今ちょうど女神様もいることですし、わたくし達は会派を超えて『女神会』を名乗りませんか!?」
「すばらしいですわ!」
「賛成です!!」
「ああ、今、この場に居られたことを女神に感謝ですわ」
「「「「「・・・・・」」」」」
と、おもいっきり姉上に向かって祈っているのです。
あ、姉上、御免なさい。
「貴様ら見習い騎士が、正式に騎士となった祝いに、騎士の薬を配布する」
突然招集された私たちは、見習い騎士から正式な騎士になることを告げられた。
体力的にも技術的にも、今だ足りない私たちの緊急招集という事は、戦争が近いという事だろうか、と少し不安になったが、貧乏貴族の子沢山な我が家には朗報だろう。
渡された小瓶の中身は、形容に困る薄暗い薬品で、「勇者ボーデス」と書かれていた。
「この薬品は、国策薬品であり外部流出が禁じられているため、この場で飲むことが義務付けられている。飲まなくても騎士になれるが、飲むことを勧める」
こんなに優しげな団長は見たこともないという笑顔に騙されて、私たちは一気飲みした。
その不味さは翌朝起きるまで引くものではなかった。
「がぁーーーーーーー!!!」
あまりのまずさに気絶したのだろう。
飛び起きれば隊舎のベットだった。
起床時間よりかなり早く、着替えさせられてはいたが恐ろしい量の脂汗が出ていて気持ちが悪かったので風呂を浴びることにした。
この何時でもお湯が出るという水道の発明は、なんと学園の少女によるものらしく、汗っかきの私にはこの上もない発明に思える。
ひとしきり汗を流した私は、自分の視界に違和感を感じた。
ふと、下を見て、見慣れた「あれ」がものすごい形になって「見えている」のだ。
いつもならば下っ腹で先っちょしか見えない「あれ」が。
「・・・なに?」
思わず身だしなみ用の手鏡で全身を見て驚いた。
どこもかしこも引き締まった筋肉となっており、薄かった髪の毛も獅子のような剛毛で艶やかになっていた。
とりあえず目鼻立ちは一緒なので本人だと判るが、と終えで見れば別人と言えるだろう。
「・・・まずい、肌着が合わないかもしれん」
そう思って試着してみると、シャツの丈が合わず、下着の胴回りが余りすぎだった。
鎧はある程度余裕あるつくりになっているので一度着てからベルトで合わせたが、そう言えば見習い騎士の鎧を着ることはもうないのだと思い直し、苦笑いしてしまった。
・・・いや、それ以上に不味いのは礼服。
思わず着られる服を組み合わせて紐で縛って勾配に飛び込むと、おばちゃんがにこにこしてた。
「今まで来た人の中で一番まともな格好で来たわねぇ?」
どうやら騎士の薬は同じような効果を示したが、パニックになって購買に来るパターンは一緒らしく様々な格好で飛び込んできているらしい。
まぁ、他人の名誉のために詳細は避けるが。
「ここでサイズを計っていきなさい。縫製部がいそいで新しい騎士の分の一式を作ってるわ」
というわけで、一応、薬明け一日は休みという情報を聞いて安心して部屋に戻った私だった。
翌日届いた一式を持って団長室に挨拶に行くと、にっこりした団長が迎えてくれた。
「うむ、見事に乗り越えたようだな」
「はい、あの不味さは死ぬほどですが、騎士道精神を塞ぐものではありませんでした」
「よし!」
ばんっと肩をたたかれ、私の配属が指示された。
と言っても、元々町の警備部署にいた私が、そこの所属騎士になっただけなのだが。
「一班! 右を回れ! 二班は私と共に!!」
「「サーイエッサー!」」
風のように軽い体を駆使して窃盗犯を追い詰める。
恐ろしい話だが、まるで体がないかのように軽い。
これでも騎士の鎧を着たうえで走っているのだが。
いつもは手間取っていた捕り物も、ものの五分ほどで終わってしまい、尋問は部下に任せた。
「サー、騎士となって変わりましたね?」
事務担当の準騎士の女性に言われ首をかしげる。
見た目は多少変わったけど、騎士道精神には変わりはない、と。
「い、いえ、その見た目がものすごく変わりましたよねぇ!」
まぁ、確かに。
今までは子豚野豚と言われていた体型だったし、ちょっと走っただけでいいが切れてたしねぇ。
「この騎士指名期間に何があったんですかぁ!?」
思い返すのはあの薬のまずさ。
だから思わず苦笑い。
「騎士になればわかるよ」
後で聞いた話だが、見習い騎士たちの間でも「騎士の薬」の噂は広まっていて、絶対騎士になってやると野望を燃やす者たちが増加し、各部署のモチベーションが上がったそうだ。
今度はまじめに新薬を開発しました。
ヒール(旨)。
通常のヒールより材料費が安くて、そしておいしい。
また飲みたいと思ってしまうほどおいしい。
これは画期的なのです。
「っていうほどおいしくないけど?」
「違うのです姉上。傷や裂傷、骨折なんかの怪我があるときに呑むと、すごくおいしいのです」
治療が必要なほどの怪我をしている時、脳内分泌液の影響で口の中が苦くなったりしますけど、あの分泌液に反応して美味しくなるのです。
つまり、普通に飲んでも野菜ジュースなのです。
「ちょっと健康になるぐらいの?」
「そんな感じです」
人体実験はいつもの剣術課の方々。
「勇者ボーデス」が各部門優勝で賞品にされているため、各貴族から絶対に勝てと言明されていて必死です。
そのためけが人も多く、今回のヒール薬治験には協力的だったのです。
その美味さは、重症具合に比例するみたいで、内臓が飛び出かけた人には、この世の味とは思えない天上の味に感じたとかなんだとか。
「ね、ねー、デルフィルナちゃん?」
「なんですか姉上」
「それって、常習性、ない?」
「・・・薬学上の常習性がない事は、勇者のお墨付きです」
じーっとみられてしまうと、思わず視線をそらしてしまうのです。
「その、内臓飛び出た子、防御捨ててる戦い方してないかしら?」
「・・・」
というわけで、姉上に連れられて、剣術課に謝りに行かされてしまいました。
が。
「いいえいいえ、彼女のおかげで自分が盾役に向いていることがわかりまして、実に感謝しているんですよ」
と、全身傷だらけで微笑まれてしまいました。
「・・・ですから、あのヒール薬は剣術課に常備してくださいね?」
頷くほかない話なのです。
その後、市販化したこのヒール薬は、味で怪我の具合がわかるうえ、あまり進んでやる人間がいなかった盾役になりたい人が激増するというチームバランス崩壊の危機まで招いたらしいのですが、それは本人の趣味の範囲ですので気にしません。
安くていいものは、高くていいものを駆逐します。
しかし、それによって失われる技術もあるという事で、その辺を大切にするかしないかは文化の違いという方向で処理しました。