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少女編~第二話

かけましたW




 ガーベラ・テトラツ・ツヴァイは、メトロン教授と共同で建造することになりました。

 全高10m、広がった翼の両翼が12m、ロッドが11m。

 アインスを大幅に超える規模に、学園全体が息を呑んだのですが、ポイントはそこではありません。

 このツヴァイ、月光吸収素子を組み込んでいるので、一年に一度、新年の夜に光の羽を舞い散らすという幻想的な光景を作り出します。

 加えて、七年に一度、虹色の羽を舞い散らすという仕掛けには、メトロン教授と共に歌を歌ってしまいました。


 なぜか姉上は、最近笑顔のままです。


 ソーラー給湯器の改良により毎日お風呂に入れたり、洗濯や洗浄にお湯が使えると大評判のエンチャント研究室ですが、最近扉に落書きが酷いのです。


 「女神在住」「ガーベラ様」「御神体保護中」・・・・・


 中には、研究室の前で祈りを捧げる人まで。

 まったく、私たちの研究室を何だと思っているのでしょう?


 まぁ、どう思われようと、建造費の大半を占める月光石代は教国が出してくれましたし、人件費は姉上のファンが昼夜を問わず働いてくれたので安い安い。

 疲れたり怪我をしたら、私がヒールを乱射するので、素晴らしい効率で出来上がって行くのです。


 あ、そうそう、あの石膏人形の追加発注があったので複製していいか、と父上から手紙が来たので、「ガンガン」お願いしますと返信しておきました。


 多分、あれです。


 ツヴァイ公開に際して、ミニミニ姉上として売りさばくのでしょう。

 商才と外交の鬼である父上らしい、そんな動きです。


 もちろん、サイサリスもデンドロビウムも販売許可はしていませんよ、父上。






 もうすこしヒール弾装を増やそうということで、アメリカンギャングみたいなドラム型弾装を開発したところ、姉上に使用禁止にされてしまいました。

 魔石に込められるのがヒールならばいいが、攻撃魔法ならどうなるか、と真剣な顔で。

 でも、ちゃんとみんなのことを考えている姉上のために、私は新たなものを開発しました。


 まず取り出したるは、声音魔法根元理論序章「言詞力」論の論文原稿。


「えーっと、これ、何? デルフィルナちゃん」

「・・・こと、魔力を使用する魔法のなかで、体内魔力消費が非常に少なくてすむ精霊魔法、これは近来の魔法と一線を画すべきモノであることは姉上もご存じの通りなのです」

「え、ええ」

「そこで考えたのが、声音魔法、言葉で伝わるエネルギーなのです」

「えーっと、どういうこと?」


 簡単に言えば、兄上が闘技場で決勝戦。

 相手は強大、兄上も半分負けてる。

 そんなときに私が「ガンばってー!」と声をかける。

 すると兄上は、自分の力以上の力を発揮して勝つでしょう。


「・・・想像できるわ」

「その際に生まれる力、この伝達こそが精霊魔法に代表される声音魔法の根本であることをまとめたのが、この論文です」


 メトロン教授は興味深そうに初めから呼んでくれている。

 そうこれは、声音によるエンチャントをも視野に入れている根元理論なのだから。

 まぁ、それはさておき。


「兄上に対する私の「頑張れ」が力を持つのは、エネルギーの伝達ラインが太いから、と考えていいわけですよね?」

「まぁ、論理的な展開で言えば、そうだな」


 どうやら、おおよその論理展開を読み込めたらしくメトロン教授も会話に参加してきました。


「でも、赤の他人から一人で言われても、大したことはありません。それは伝達ラインが細いからです」

「まぁ、そうね」

「でも、闘技場全体で「頑張れ」とエネルギーを送られたら、どうでしょう?」


 想像する二人。

 それは壮観な光景になるでしょう。

 万を越える人々からの声援。

 それを背にしてたてない戦士は居ません。

 戦死するかもしれませんが。


「・・・すごいエネルギーになるねぇ」

「・・・ちょっと見てみたいかも」


 というわけで、そんな二人のために、その光景を再現できるモノを作りました。

 計算上、十二万六千人分の「ヒール」を詰め込んだ言詞力弾、その名も!!


「ボース十二万六千、なのです!!」


 戦略型広域拡散ヒール弾。

 戦場の上空から飛来させ、無制限拡散ヒールの実施。

 首が取れてようと腕が千切れていようと、強制的にヒールするのです!!

 殺傷兵器を非殺傷兵器で威嚇するという、見事なまでの平和・・・


「あ、あれ、姉上?」


 見れば姉上、なぜかボロボロと涙を流していました。


「ごめんなさいね、ごめんなさいね、デルフィルナ。私があなたに自重をやめてなんて言ったから、言ったから・・・」


 その透明な涙を見て、心がずきんと来たのです。

 だから、ぎゅっと姉上を抱きしめました。


「姉上、私は毎日楽しく過ごしているのですよ?」

「うわーーーーーーん、手遅れだったぁーーーー!!」

「・・・あ、あれ?」


 安心してほしくて微笑んだのに、何でこうなるのでしょう?

 ともあれ、戦略型広域拡散ヒール弾は、試験鋳造されることが決定したのですが、もちろん何処に保管されているかは秘密です。


「・・・ところで、デルフィルナちゃん?」


 暫くして泣き止んだ姉上が、なぜか極上の笑みを浮かべています。


「なんですか、姉上」

「・・・最近、またあの石膏人形が流通している気がするんだけど?」


 しまった、教国ばかりが販路じゃなかったのかぁ!?


「戦略的撤退なのです!」


 姉上の足元をすり抜けて、ダッシュするも姉上も早い!


「もう売らないって言ってたじゃなーーーーい!!」

「父上の意向なのです、当主の意向には従うべきなのです!」


 そうなのです。製造版権は私のものですが、販売は当主の意思!

 私の所為ではないのです!!


「だったら、サイサリスとデンドロヴィウムはどうなのよぉ!?」

「あれは私の私財で建造した私だけの姉上なのです!!」


 そう、あの試作型二号機と三号機は、世間には出せない仕様なのです。

 というか、一号機だってぎりぎりのぎりぎり。

 構造分解でもされれば、教国が手のひらを返して邪教呼ばわりするような機構が組み込まれているのですから。


「わーーーーん、デルフィルナなんて、デルフィルナなんて、だいすきーーーー!!!」

「私も大好きですよ姉うえーーーー!!」


 と、こんな締まらない追いかけっこも楽しい日常のうちなのです。

 この光景は「女神と子悪魔の追いかけっこ」と剣術課から呼ばれているそうです。

 そうですか、そうですか、またヒール乱射をしてほしいのですね?

 その期待には必ずこたえましょう、明日あたりに。





 その翌日、剣術課の訓練場で、今際の際のような絶叫がこだましたが、誰一人負傷しているものはいなかったという。

 勿論、その原因は学園内では有名だが、犯人を追及するものはいなかった。

 だって、一応、結果は無償ヒールなのだから。











 ガーベラ・テトラ・ツヴァイのお披露目のため、私と姉上とメトロン教授が教国に招待されたんだけど、父上や母上、そして愛しの妹弟達にも会えました。


 久しぶりの一家団欒・・・


「あー、デルフィルナ、お前には兄が一人いたであろう?」

「・・・お手紙をいただいていなかったので、忘れておりました」


 そう、ルッケルスお兄様。

 言葉に出すのも何年振りでしょ?

 いや、この前論文の説明で出しましたね、忘れてました。

 とはいえ下の子二人は見たこともないはずです。


「ディねえさま。ルッケルスお兄様とはどのような方でしょうか?」


 思わず両親に視線を送ると、速攻で視線をそらされてしまった。

 説明ひとつしてねぇな、と。

 というわけで、表面上の部分を説明することにした。


「武勇に優れ、勉学に優れ、家族思いの素敵な男性ですよ? 今は王家の従者として留学にいそしんでいらっしゃいますが、向こうでも大変評価が高いそうですわ」


 一応、表面上、これでOKのはず、と両親を見るとグッドサイン。

 いやいや、この程度は話しておいてください。 


 で、ガーベラ・テトラ・ツヴァイは、なんと教国の大聖堂に納められることになったそうで、非常に驚きました。

 初めは渡来神として、小さな小屋に入れる予定だったらしいのですが、出来を見て大司教様が主神の前に据えることを宣誓し、猛烈な賛成の中で可決されたとか。


 ちなみに、土下座にきたのも大司教様。


 ガーベラ・テトラ・アインに惚れ込んだ上の土下座だったそうです。


「・・・あれ、メトロン教授。なんか翼の月光石、光ってません?」

「おや、ほんとうだね。ああなるまでは一年かかるのだが・・・」


 そんな私たちの会話を聞いて大司教様は得意満面でほほえみました。


「翼の仕様を聞きまして、司教クラス総動員で法力をつぎ込んで、本日のお披露目に間に合うようにいたしました!!」


 絶句のメトロン教授と私。

 何人死んだんだろう、とすら思いましたが、一応半死半生でゾンビのように参列している司教さんたちがそれらしいです。


「生きてるならヒールできますが・・・」

「デルフィルナちゃん、やめて、せめて今はやめて!」


 なぜか涙ながらにすがりつく姉上の意見を無視できず、懐からヒールサブマシンガンを出すのをやめたのです。

 弾丸タイプから、BB弾タイプに変更することで、格段に弾薬保有数があがり、一時間で学園全員をヒールできる程になったのですが、残念です。








 荘厳な音楽と共に開帳されたガーベラ・テトラ・ツヴァイ。

 聖歌が響きわたり、参列者や各国の使者、そして信者たちは新たなる神像に、女神像に涙した。

 その心の高まりにあわせるように、真っ白な羽が聖堂をあふれさせ、粉雪のように舞っています。


 大司教やりましたね?

 信仰心がプラスされれば、ソレがトリガーになるぎりぎりまで法力を注ぎましたか。

 これは実に効果的ですね。


 後に「女神の奇跡の始まり」といわれる事件の始まりは、こんな感じだったのです。







 ガーベラテトラツヴァイの開帳式が進む中、父上のところに騎士さんがきました。

 格好からすると快速伝令兵ですね。


 鎧の強度上昇と軽量化を同時に実現した中空ハニカム構造なのですが、ソレを知った某教授が指を指して小娘の浅知恵と名指しでバカにしてくれた曰く付きの鎧です。

 が、後日、この構造をパックって新素材として発表し、教授の責を追われたのは記憶に新しいことなのです。


「学会に復讐してやるーーーーー!!」


 この台詞を生で聞けるとは思わなかったのです。

 役得ですね。


 それはさておき、伝令さんのはなしだと、「堕天使」なる軍勢が迫ってきているとのこと。


「くそ、この時期にか!?」


 大司教のところにも同じような人たちが。


「・・・いま、神殿兵の伝令より、主神を裏切りし堕天使が攻めてこようとしているそうです。ですからいまより、神聖結界を展開します。場外のみなさまもすぐに避難してきてください」


 通る静かな声に導かれ、人々は整然と聖堂の中に避難してゆきます。

 全員が入ったのを確認したところで、十人の司教による神聖結界が張られ、ひとときの時間を得た、といえる状態になしました。


 ところで、


「父上、堕天使とは何ですか?」

「「「・・・・・!?」」」


 なぜか母上や姉上、アンジーまで絶句。


「あ、あ、あ、あの、デルフィルナお嬢様。初等科で御習いになりませんでしたか?」

「自慢じゃありませんが、初等科なんて三日と居ませんでした」

「「「あああああああああああああ」」」


 なぜか崩れ落ちる家族。


 とはいえ、知るは一時の恥知らぬは一生の恥、ともいいますので、年少組二人と共に聞いてみたのですが、微妙な存在でした。


 堕天使、というからには、堕ちる前は天使でした。

 が、色々と絶望したり自己逃避を繰り返して心が闇に染まって、主神を否定するようになってしまった存在が堕天使。

 迷惑なことに、天使のうちは天界にいるくせに、堕ちると人間様の世界に来るそうです。


「まるで私たちの世界が地獄のようではないですか、失礼な話です」

「ま、まぁ、宗教上の話だしな」


 苦笑いの父上は置いておいて、二人の年少組をそっと撫でます。


「大丈夫なのですよ。どんなときでも私や姉上、母上が皆を守るのです」

「「はい、ディ姉様!」」


 かわいい限りです。


「あー、デルフィルナ。私も一応、全力で守るつもりなのだがなぁ」


 その言葉に、思わず強い視線を向けます。


「サイサリスとデンドロビウムを売ろうと画策した人には発言権はありません」


 知らないと思っていたのですか?

 石膏人形の出荷にあわせて、どさくさでなんて、貴族のやることではないのです。

 思わず敖欽ちゃんで父上の書斎を精密射撃してしまったぐらいです。


「ぐぅ、すまん」


 というわけで、うちの女が最強というところを見せてやろうじゃありませんか。


「・・・えーっと、お母様とデルフィルナちゃんは、確かに最強かも知れないけど、私は仲間じゃないかなぁ・・・?」


 あーあー、もう、自覚ありませんねぇ、姉上。

 姉上の周囲に渦巻くほどの信仰心と精霊を感じられないのでしょうか?

 未だ論文の端っこまでしか読んでませんね?

 仕方ないので、切り札を渡しましょう。


「姉上、もしのも為の護符を渡します。手放さないでくださいね?」

「え、え、え、な、なに、このすんごく邪悪な文様が書いてある紙、すごく邪悪な魔力を感じるんだけどぉ!?」


 とりあえず、その護符を持って、ガーベラ・テトラ・ツヴァイの前に立っていれば、神聖結界が何倍にも強くなるので、がんばってくださいね、姉上。


「姉上の気のせいです、さぁ母上、アンジー参りましょう」

「そうですね、露払いぐらいは任せますよ、デルフィルナ」

「はい、母上」



「話を聞いてーーーーーーーー!!」



 さぁ、戦争なのです!











 主神なき天界からの力を借りた防御力などを頼る、地上の土塊どもを見ると、心の底から怒りを覚える。

 そう、すでに天界には主神はいないのだ。


 様々な神はいる。


 しかし、我らが尊ぶべき主神はもういないのだ。

 それを知っても天界での働きをやめられぬものは多い。

 しかし、我らは拒絶した。

 そう、我らは主神に使えるものなのだから。

 主なき世界に未練などあろうものか。


「隊長、奴らの穴蔵から、何人かの土塊が出てきました」

「ふむ、命知らずかバカだな」


 我ら堕天使と土塊との力の差は天地だ。

 それを知っていて出てきたなら、命乞いが順当だろう。


「おもしろい、命乞いの言葉でも聞いてやろうじゃないか」

「はい、隊長」


 私と共に、小隊が地上に降りた。


「おい、土塊。命乞いか?」


 あざける私に、土塊の中でも美しいと感じられた少女が、傲慢な笑みを浮かべて指を指す。


「拗ね者は穴蔵で引きこもっているがいいのです!!」


 ・・・は?


「主神主神という割には、姿形が見え無いだけでうろたえて堕天なんかして、主に対する信頼がないだけに過ぎないのです!!」


 ・・・あ、いや、ちょっとまて


「命は流転するものなのです、魂は普遍なのです。それは主神とて同じ事、神とて同じ事、天使すら変わらぬ事実!」


 ・・・・・・!!!!!


 わからなかった、この土塊がいっていることが何一つわからなかった。

 しかし、その言葉の重みに、私はヨロメいてしまった。

 堕天で重く黒く泥にまみれた心が波打った。


「・・・こ、こ、この泥餓鬼が、訳の分からんことを!!!」


 止めるまもなく、部下の一人が小さな土塊に剣を振るう。

 土塊がこれに購う術など・・・


「な、なに・・・・?」


 部下は、剣を振り抜いた姿勢で固まっていた。

 いや違う、振り抜き切らぬところで、土塊の両手が下腹部とまたしたに当てられているところで制止していたのだ。


「・・・ふはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁはんーーーーーーーー♪」


 強烈に悩ましい声と共に、真っ黒に染まった堕天使が、天界にも存在しないほどの真っ白な天使となって倒れていた。


 見るも無惨な「アヘ顔」で。


 瞬間、完全に身の危険を感じた我らは、思わず穴蔵への攻撃をやめ、身を引いてしまった。

 そう、身を引いてしまったのだ。


「母上、私の絶掌は堕天使にも有効でした」

「よろしいでしょう、デルフィルナ。薙払いなさい」

「サーイエッサー!」


 小さな土塊が右手を挙げると、再び包囲の我が広がる。

 少なくとも、あの顔を晒したくなかったから。


「イークイップ!!」


 その叫びと共に、荘厳なドレスが、体に密着した装いに変化した。


「アンジー、デンドロビウム、射出!!」「はいお嬢様!!」


 その声と共に現れたのは、小さな土塊よりも三倍は身長のある何か。

 その何かは、馬車ほどの箱も背負っている。


 瞬間わかった。

 あれは、まずい。

 あれと土塊が一緒にいるのが不味い。

 あれが本格的に動き出すのが不味い、


「総員、あの小さな土塊に総攻げ・・・」


「フーーーーーーージョン!!」


 閃光と共に発生した衝撃波で、その司令は伝えきれなかった。

 そして、生まれてしまった。

 後に知る、先行試作三号機「デンドロビウム」の真の恐ろしさを。









 堕天使わかってますね。

 変身と合体中は手を出さない。

 合体パーツの収納庫にも手を出さない。

 実に理解している相手です。

 ということで、まずは手持ちのヒールマシンガンを給弾装置とつないで・・・


「絶望と失望と混迷に揺れる心に乱させたこと事態には罪は無し!されど、神聖を否定するために信者を追うはクソ餓鬼の所行、これ悪徳なり!!」


 ずばばばばーと、目に付いた弱点へヒールBB弾を射出。


「「「「「あふふふふふふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♪」」」」」


 お、マルチロックシステムは順調ですね。

 アンジーいい仕事してるのです。

 では、ショルダーロックをオープンして・・・


「怒り悲しみ逆上も心の病。犯されし病に罪は無し! されどそれを他人に向ければ、公衆迷惑、それが悪徳!!」


 びしっとマシンガンを向けると、その方向だけ堕天使が後ろに引きます。

 ああ、こちらが飛べないと思ってますね?

 それは大甘なのですよ?


「きゅあ!」


 両肩のロックをはずしたおかげで、敖欽ちゃんの爪がかかる。

 これがデンドロビウム・フローティングモード!


「我らの浄化の光が、妬みネジくれヒネて引きこもったクズニート共に、職業案内事務所への扉を開くのですよ!!」


 敖欽ちゃんの力によって飛翔した私。


「クズニートいうな!!」と唱和する堕天使たち。

 というか、ニートって通じたんですね。

 驚きです。


「さぁ、敖欽ちゃん、側面と背面は私が受け持つので、正面突破で敵軍中央まで突っ切るですよ!!」

「きゅあああああああああああああああ!!!」


 敖欽ちゃんの極太桜色のドラゴンブレスは、私の属性にあうようで、極上ヒール、祝福の属性で敵軍をまっすぐに打ち抜く。

 そして、私も、両手のヒールマシンガンと背負ったマシンガン団地による全面攻撃で中央突破を開始していた。









 堕天使軍首脳部は、絶句していた。

 次々と壊滅してゆく部隊。

 それは死亡や消滅ではなく、「昇天」。

 苦悩と塗炭に苦しめられた堕天とは比べものにならないほどの表情での昇天。


「・・・将軍、兵たちがおびえています」

「・・・私とて恐ろしいわ」


 そう、いま中央の魔動スクリーンに映されているのは、各地で昇天されてしまった「元」堕天使たち。

 というか、その「アヘ顔」であった。

 さらに詳しい調査では、いろんなモノが全開ででているそうだ。そう、いろいろと。

 土塊が首をつって死ぬとそうなると聞いたことがあるが、少なくとも「元」堕天使は生きており、夢うつつの中にいる模様だという。


「再堕天は可能か?」

「・・・長期間かかるものと思われます」


 つまり、主神なんか吹っ飛ばす程の何かを受けたという事らしい。


「現在、土塊・・・」

「土塊ではない、完全に脅威だ。正確に認識しろ」

「はい! 現在、脅威01は、猛烈な進軍速度でこの本部を目指しております」


 深いため息と共にその者は撤退準備を指示した。


「しかし、将軍!」

「我らの故郷までを探られるわけにはいかん。すべての資料を破棄して、非戦闘員は・・・・」

「脅威01、速度上昇、きます!!!」

「な、なんだと!!」


 何が起きたかわからぬ混乱の中、照明すべてが消え去った。










 敵本体は、空中移動要塞でした。

 ・・・なんて心揺さぶる。

 これはもう、残敵なんかにかまっていられません。


『こちらデルフィルナ、アンジー感度ありますか?』

『・・・ザッ、こちらアンジー感度良好です』


 電波式トランシーバーなら、この魔法大混乱の中でも通信可能です。

 実に便利。


『アンジー、ストライカーパックの射出を』

『・・・ザッ、了解しました。お嬢様捕捉、射出準備OK。3・2・1、射出!』


 背後に感じる魔動ビーコンを受けて、デンドロビウムが離脱します。


『デンドロビウム、今までのデータで弱点は捕捉できているはずです。存分に雑魚を刈りなさい』

『はい、お嬢様』


 高武装型お姉さまモードに戻ったデンドロビウムが、敖欽ちゃんに支えられて地上に降りてゆきます。

 そして私は背後から追いついたストライカーパックの推進力を得て、一気に敵陣本部に乗り込むのです!







 突入して、いいえ、ヒールBB弾を盾代わりに展開して突入した先は、まるでNASAの管制室みたいな感じのところでした。

 その一番上にいる、一番大きい人が司令でしょう。


「・・・恐ろしいものだな、そなたら土塊は」

「あら、主神が居なくなって怖くなって地上に堕ちてきて、今度は土塊が怖い? 今度は何が怖くなるのかしら?」


 挑発的な私の言葉に剣を抜こうとする堕天使を片っ端からヒールすると、周囲の怒気は恐怖に変わっていた。


「・・・ソナタはなぜここまで我らを追いつめる? 初戦で受けた打撃だけで二割、撤退ラインを超えているのだぞ?」

「私は、さっき言いました。我らの浄化の光が、妬みネジくれヒネて引きこもったクズニート共に、職業案内事務所への扉を開く、と」


 ふふふ、と笑った司令は、残忍な笑顔を見せます。


「浄化の光か、その程度の豆粒で私ほどの堕天使を魔王級の堕天使をどうこうできると思っているのか?」

「まぁ、ストライカーパックじゃなければ、半々ぐらいの確率でいけます」


 私の答えに、司令は苦笑い。


「では装備変更の時間をやろう、われと堂々と勝負せよ!!」


 ぶわっと広がる魔気に対して、ストライカーパックの自動防御が悲鳴を上げています。

 よかった、ストライカーで。

 デンドロビウムじゃ誘爆していました。


「・・・我が家において、このような伝承があります」

「ほほぅ、聞こう。なんだね?」

「勝てば国軍!!」


 バシュッとマーカー弾を司令にたたき込み、私は上空へ避難を開始しました。

 後はお願いしますよ、母上。









 時間は、アンジーがストライカーパックを射出した時間まで戻る。

 じっと腕組みで微動だもしなかったボーテックス伯爵婦人ミレイナが口を開く。


「アンジー頃合いです。サイサリスを出しなさい」

「はい、奥様」


 新たなコンテナから出されたそれは、デンドロビウムよりは小さいが、それでも人の身長を超える者だった。

 それに、大きな盾、そして用途不明の長筒。

 何を目的にしているのかすらわからない試作二号機「サイサリス」のまえで、ボーテックス伯爵婦人ミレイナは口を開く。

 それは合い言葉、それは契約の言葉、それは宣戦布告の言葉。


「サイサリス、セットアップ!」

『ラーサー』


 それは瞬時に身にまとう鎧のようで、まるで屈強なゴーレムを着たかのようで。

 盾を構え、長筒を進軍するデルフィルナの方向に向けた。


「マーカー信号受け次第、祝福弾「アーサー」「ランスロット」「ガウェイン」を順次射出。アンジー準備なさい」

「すでにランチャーの弾倉にセットしました」

「よろしい、では、噴射範囲から退避なさい」

「了解しました、奥様」


 しばし両目を閉じていたボーテックス伯爵婦人ミレイナであったが、何よりも早く感じた。


「初弾発射!」

「おくさま、はやすぎま・・・」

「感じましたよ、デルフィルナ!!」


 第一弾、アーサーが半ば距離を積めた瞬間、マーカー信号が受信され弾頭が軌道修正された。


「次弾発射!!」

「おくさま、着弾・・・・」

「飽和攻撃こそ今回の勝負の鍵です、手をゆるめてはなりません!!」

「は、はい!!」


 準備された祝福弾すべてを打ち尽くしたサイサリスは、背後に格納されていた自分の身長よりも長い大剣を構えた。


「来なさい、カトンボ。近づく者は、この祝福されし『ドラスレぽい剣』で、昇天させて上げるわ!!」


 今ここに、ボーテックス伯爵婦人ミレイナの武人伝説が再演される。

 行われるのは一方的な虐殺ではなく祝福という名の鉄拳制裁。

 実に、多産の母らしい姿であった。









 聖堂内で乱れた遠視魔法映像を見ていた私は、我慢の頂点に達していた。

 何も出来ない自分に、何もさせてもらえない自分に。


 いや、させてもらえないのではない、一歩も踏み出していないだけなのだ。

 妹からもらった護符を片手に、ぶるぶるとふるえるだけ、それが自分。

 そんな自分。


 ・・・自分?


 いやちがう。

 年下の兄弟たちを、父を母を守ることが出来る力がないわけじゃないのだ。

 こんな護符で強化された奥にいる必要はない。

 前にでればいい。

 それで人生が変わる。


 私は、ふるえる手で、その護符を破る。


 何も起きなかった、のではない。


 目の前に、愛しき妹、デルフィルナが現れたのだった。


『この映像を見ているという事は、姉上が決意なさったことだと思います』


 その言葉を聞いて、内心苦笑してしまった。

 だって、こんなぎりぎりの所まで年下の妹に見透かされていたのだから。


『剣を持ち、盾を持ち、そして人々を救わんと決意なさったのなら、その思いを込めて、こう唱えてください』


『フェード・イン と』


 真剣な、本当に真剣なデルフィルナの瞳。

 家族を守るために胸を張ったお母様。

 そう、ボーテックス家の女が、守るのだと。


 心配そうに見上げる妹たちを撫でてから、お父様の元に向かわせる。


「大姉様・・・」

「大丈夫よ、大丈夫。私たちがあなたたちを守るわ」


 何にかえても!


「フェード・イン!!」


 放たれた言葉と共に、私の視界は真っ白な世界で覆われていた。







 真っ白だった視界が元に戻ると、視野が変だった。

 あんなににも高かった聖堂の天井が、背伸びをすれば届くほど。

 いやそれよりも、視野の下の方でワラワラしているのは、人間!?

 えーっと、もしかして・・・これは?


『姉上がガーベラ・テトラ・ツヴァイと同調したのです』


 なぜか視界の端で4歳ぐらいのデルフィルナが解説してる。

 あー、あのころはかわいかったなー、暴走もして無くてぇ。

 ああ、時間って戻らないものかしら?


『姉上?』

「(ああ、ごめんなさい。突然の状況に、混乱してしまって)」

『そうでしたか。ですが、このガーベラ・テトラ・ツヴァイには、高密度の法力がチャージされているので、あらゆる行為が祝福になります。どどーんと堕天使に振る舞ってやってください!』


 とはいっても、わたしってエンチャント系だから、攻撃系の呪文とかはちょっと・・・


『そんな姉上のために、主兵装をリストにしたのでご検討ください』


 えーっと、

・ゴッデス・ボイス(4):堕天使の弱点に共鳴して無力化祝福。

・ゴッテス・レーザー(6):両目から発射される非殺傷系祝福ビームで放射範囲全部をコンガリ祝福

・ゴッデス・アックス(2):手持ち武器戦斧を振り回すことにより、直接衝撃的非殺傷打撃・・・の予定

・ゴッデス・ナックル(1):悪い子には鉄拳制裁。英才教育の基本です

・ゴッデス・ヤクザキック(2):お姉さまの長い御美足で蹴られれば、昇天必至!

・ボース十二万六千(?):ひ・み・つ


『名前の後の()は到達距離の概算なのです』


 えへんと胸を張るちびっこデルフィルナちゃんだけど、私は目をむく名前を見つめていた。


「(って、ボース十二万六千は禁忌兵器として破棄されたんじゃなかったの、デルフィルナちゃん!?)」

『はい、だから破棄されてますよ、「国外」破棄w』


 そんなこんな姉妹のやりとりはさておいて、荘厳な聖堂が、設計外の開き方をしつつ進み出る女神像を送り出す信者の姿は、それはもう幻想的で、信者じゃなくても改宗しようと思った使者が多かったそうだと後で父に聞いた。







 私の脱出にあわせた母上の祝福弾三連で、大多数の堕天使が昇天したようなのです。

 が、司令、魔王級堕天使は、ぎりぎりの所で留まっているようです。


「く、く、くかかかかかかか! 小娘、貴様は囮兼照準で、本命は今の砲撃かよ・・・こりゃ、嘗めてたのはこっちだったな」


 がれきの中から現れた、屈強な体のお姉さまは、未だクロに近い灰色。

 堕天のままでした。


「根性ひねくれ曲がってると、意地が大きすぎです」

「そりゃそうさ! こっちとら、神に反逆して投獄されて、その上で神の不在を聞かされたんだぜ? 絶望の度合いがちがうんだよぉ!!」


 血を吐くようなその台詞を意訳してみました。


「つまり、親に反抗して家庭内暴力。投獄されて少年院。出所したら親が引っ越していたのでグレた、と?」


 すると、なぜか司令さん、がっくり膝を落として肩を落としました。


「たのむ、人間。そういう風に言わないでくれ。さすがに俺も死にそうになる」


 心の傷がざっくりきたのですね、つまり痛恨の一撃。


「家族なんてものはどこにでも居ますし、誰とでもなれるのです。親はいっぱい居ますし、子供だっていっぱい居るのです。慈しむ言葉だけ、優しい言葉だけを心に秘めればいいのですよ」


 私の言葉に司令さんは、ニヒルな苦笑い。


「ああ、そこらの堕天使なら、その言葉だけで昇天いっちまうだろうな。でもな、ヒネてねじれたこの俺を、そう簡単に・・・・・」


 やばい、あれが起動して私を捜しているのです。

 照準が・・・あ、合いました!!

 集中してる、集中してるぅ!!


『ゴッデスビーーーーーーーーーム!!!』

「堕天使バリヤーーーーーー」

「なんとーーーーーーーーー!!!」


 や、やばすぎなのです。

 姉上、なんだか逆上してるのです。

 あ、ビームを受けた正面が、真っ白に漂白されてますね。

 あとは裏面を・・・


『・・・ゴッデス・ボイス』


 げぇ、全方向祝福兵器をこんな近距離で食らったら、やばすぎなのです!!


「ストライクパック、フォートレスモード!」

『OK』

「全力疾走!!」


 相手が音だけに、音速を超えれば逃げきれるのです!!


 空を裂き、天を裂く私の隣を、デンドロビウムを持ったままの敖欽ちゃんが併走してるのです。


「その危機感、GJなのです、敖欽ちゃん!!」

「きゅあ!」


 さーて、姉上の怒りが解けるまで、学園にでも先行しよう・・・・あれ?


『・・・デルフィルナお嬢様、奥様から出頭命令がでておりますので、遠隔操縦を行っております』

『ま、まって、アンジー・・・フォートレスモードの全速力でそんな操作されたら、中身が中身がでちゃうわぁ・・・』

『現在遠隔操縦なさっているのは、奥様でも私でもありません』




 ぎゃぴー、お姉さま、お姉さま、ごめんなさいですごめんなさいですーーー!!!








 結局、リモコンで、ガーベラ・テトラ・ツヴァイに同化している姉上の手の上に着艦させられて、両腕でぎゅっと抱きしめられたのです。

 絵的には危険な任務に就いた妹を抱きしめる女神のような姉。


「(ほーっほっほっほ、ちょーっとおいたがすぎるんじゃないかしらー、デルフィルナちゃん?)」

『あ、姉上、き、きついきつい苦しい、でちゃいますぅ・・・・』




 後年語られるこの絵柄は、女神の抱擁として何度ともなしに題材とされたと言うが、その真実を知るものはいない。



閑話休題



 結局、攻め込んできた堕天使は、全員天使に復帰したんだけど天界には戻らないそうだ。


 なぜか、というと・・・


「女神ナーナリアに御救いいただいたこの命、あなたのために捧げます」

「捧げます!!」


 姉上、ナーナリア姉上を受肉した女神と判断した地上の天使たちは、姉上の神体であるガーベラ・テトラ・ツヴァイを守る隊と、アインを守る隊。

 そしてうちの実家を守る隊と姉上の親衛隊に分けられ、ローテーションで守ってくれているそうです。


「・・・デルフィルナちゃん、アインには、変な仕掛け、無いのよね?」


 なんとなく、ドヨーンとした視線の姉上。

 経験が生きているのは好ましいことだと妹は思います。


「お疑いですか、姉上?」

「確信に違い疑惑を感じているわ」


 ふっふっふ、さすが姉上です。

 姉妹伝心ですね。


「それは残念です。では、アインの前で合い言葉を言えば解りますよ?」

「いーーーーーーやーーーーーーー!!」



 いつも始まる「女神と子悪魔の追いかけっこ」。

 天使たちは初日から馴染んでいたそうだ。


あれ、前回と同じ引きになってしまったW


20130501 内容の名称で不適切なものがあったため、修正しました。合わせて加筆もしています。

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