少女編 第九話
えー、怒涛のアップ祭りをした神代ですが、さすがにそろそろ仕事モードですので通常状態に戻ります。
気長にお待ちください
「デルフィルナ様が、そんな危ない目に合っていたなんて・・・」
後日、ぶひぃ達の奇行を知った沙也加様は恐怖で顔をゆがめます。
兄上曰く、そういう性的にやばい人はエンジュマリカ皇国でも居るそうで、見つけたら悪即断だとか。
そのくせ貴族王族が幼児幼女を娶ることは有りなのですから疑問が多いのです。
実は沙也加様の婚約者も、そういう趣味人の介入を防ぐために立てられた人物なのだそうで、「沙也加が本当に好きになった人が現れたら、私との婚約を早々に破棄なさい」とにこやかに仰ってくれるイケメンらしいです。
なんでしょう、こう、モヤッと感が半端じゃありません。
王族のお姫様の盾として推挙されつつ、それでいて手を出す気は全くないなって聖人がどこの世界に・・・。
「実は叔父上なんです。だから王族としての権威もはるかに上ですので、私を利用しなくても十分なんですよ」
なるほど、とエンジュマリカ皇国の王族人間関係を知ってしまいました。
兄上もその方を知っているそうで、十分以上に交流があるそうです。
なんというか、姪ながらも妹を守る気概のある方、とリスペクトしているみたいです。
で、そんなエンジュマリカ皇国のお姫様である沙也加様が恋心を覚えているのが兄上、と。
兄上と結ばれるためには、沙也加様が降嫁して嫁入りする必要があるのですが…。
「議会では、そのための留学という事になっています」
「うわ、もう、外堀も内堀も埋まっているじゃないですか」
「あら、さすがデルフィルナ様。エンジュマリカ皇国の言い回しもご存じですのね」
なるほど、さすがエンジュマリカ皇国。
いろいろと日本っぽい感じらしい。
これは一度行ってみたいですね。
「兄上との手紙のやり取りで、色々と」
「・・・はぁ、デルフィルナ様は、ルッケルス様に愛されておいでですねぇ」
切なくため息の沙也加様を、よしよしと撫でる私なのでした。
私の「マジカル」魔道を本格的に王宮が研究し始めました。
いわゆる挙動一致の魔法というのは、騎士の攻撃や防御動作に組み込むことで魔法騎士への道が開かれる、というのが表向きの話。
では裏向きはと言うと、流体機構服によるアンチエイジング効果が認められたためでした。
なぜここでアンチエイジングか?
簡単な話でいえば、流体機構服による自由負荷が絶えず加えられるため、インナーマッスルが鍛えられ、恒常的なカロリー消費が増え、内臓的にも肉体的に活性化し、肌艶や身体能力の向上などで絶大な効果が見られたからです。
まぁ、サンプルは母上と父上なんですが。
これに目を付けた王宮貴婦人たちは誰もが自らの手にと大騒ぎになった為、致し方なく王宮研究室で研究が開始されたのでした。
で、ここでも教官役をさせられたため、王宮の一部では「鬼軍曹」「心なき教官人形」「小悪魔という名の魔人」などと様々な字がついて回るようになったのですが、事件は第一期の貴婦人たちが卒業する時に起きました。
「「「「「○○ルマ○○ルマプリリン◎、◎◎レホホ◎◎レホドルミン◎! 謎の魔法少女になーれ!」」」」」
妙齢の、それも美しい貴婦人たちが、魔法少女に変身しようとしているのは奇怪な光景ですが、あの流体機構服を制御するためなので仕方ないでしょう。
そんな思いと共に眺めていると、変身光が一斉に輝き、そしておさまりました。
が、その結果について、私は理解していませんでした。
そう、「貴婦人」が「魔法少女」に変身するための「魔法」なのです。
ともなれば・・・
「「「「「きゃーーーーーーー!!!」」」」」
全員が一瞬で少女になり、魔法少女っぽい服装に代わっているのです。
見た目も「少女」に!!
や、やばい、謎の人体改造になってしまったのですよ!!
「は、肌がすごい無敵!!」
「胸がしぼんだけど、おなかがおなかが、素敵!!」
「はぁ、この髪艶、いいえ神艶!!」
「「「「「すてきぃぃぃぃぃぃ♪」」」」」
あぁ、一応好評のようでよかったですよ、ええ。
そんな脱力感を覚えている私の周りに、第一期生達は集って万歳三唱状態。
「我らが神教官に感謝を送りますわぁ!!」
「ああ、この喜びがあるのなら、あの地獄の特訓なんて鼻歌気分ですわよ!」
「そうですわそうですわ!すてきすてきすてきぃぃぃぃ!!!」
大興奮のみなさんでしたが、一応、まぁ実験のために、変身を解除してもらったんですが、なぜか肉体が少女のまま。
やべ、本格的に肉体改造だ。
「すばらしい・・・、ああ、さすがはデルフィルナ教官」
「この若さをもう一度得られるだなんて、あなたは神ですか?」
「もちろん神ですよね!! なにしろ女神ナーナリアの妹ですもの!!」
「ああ、地上に舞い降りた女神姉妹に心身からの感謝を!!」
・・・とまぁ、その格好で自分の屋敷に戻り、その事実を知った旦那たちが夜を満喫し、さらにはそのおかげで子供がいっぱい生まれたり夜の生活に張りが生まれたと感謝の手紙が実家と研究室に山のようになったり。
ああ、なぜでしょう。
私の周りには騒動が絶えませんねぇ?
とはいえ、一応人体実験ついでに。
「というわけで、弟子たちよ。ちょっと人体実験してみないか?」
「「「心得ました、マイマスター」」」
わりと肉体的に細マッチョ系だった「元」ぶひぃ達ですが、この実験によりジョブチェンジしてしまいました。
マッパー系細マッチョからゼンラー系ショタへ。
何を言っているかわからないと思いますが、何故かそうなりました。
というわけで、ほぼ全裸に近いショタが走り回りつつ、それを怪しげな視線で追ってしまう男女がいる学科になってしまった魔術課なのでした。
まぁ弟子たちは自分を見つめる視線に快感を覚えているので、それはそれでよい事なのであるものと信じます。
ええ、信じますとも!
魔法少女ブートキャンプが本格的に稼働し始めて早半年。
我が国の貴族貴婦人の大半が「少女」になってしまっています。
王妃ですら自分の娘より見た目が若くなってしまい、かなり微妙な視線で子供たちから見られています。
・・・王が。
こんな少女相手に? 王よ、ないわぁ。みたいな感じで。
霊獣を奪われ諸外国から年少好きが高じて王妃も人体改造してしまった残念王として高らかに語られている事でしょう。
では残りはどうかというと、少女時代よりも年かさの上を目指して「勇者ボーデス」に賭けているらしく、国内での活躍が目覚ましかったりします。
まぁ少女の私がこういうことを言うのはなんですが、皆さん暴走しすぎではないですか?
「デルフィルナちゃん。心底あなたの所為だと思うわよ?」
「お姉さま。それは穿った意見なのです」
「いえいえいえ、明らかな事実です」
むにーっとお互いのほっぺたを引っ張り合う私たち姉妹は、何処までも仲良しだと胸を張れる関係です、ええ。
魔法少女ブートキャンプで少女体型を手に入れた貴婦人たちが、物凄い勢いでドレスを作ったり直しをしたりしている影響で、城下町の服装関係商店が連日徹夜の大騒ぎになっているそうで、今年の租税は大いに期待できそうだと財務大臣が笑っていました。
ただし、財務大臣のご婦人も魔法少女化していますので、色々とご苦労があるようです。
目の下なんか真っ黒ですよ。
「いやいや、デルフィルナ殿のおかげで、公私ともに順調ですからな。この程度の疲労など跳ね返せますぞ!」
「あ~、ガンバッテクダサイ」
という会話が、あったりなかったり。
そんな外との交流が増えた影響で、私は自分について色々と考える事が出来ました。
というか成長ですね。
最近なんですが、私の脳みそと前世の記憶が合致してきた影響で、わたしの能力が「ほわたぁ!」系ではないことに漸く気付きました。
多分あれですね、経絡とかを打ち込んだ際の力が足りないので、別の意味になっているのでしょう。
いわゆる拳法における表の技と裏の技。
同じ挙動だけど積み上げた練習の重さで意味が変わるみたいな。
クンフーでしたっけ?
即死系の技が相手の何らかの精神的な何かに作用して、相手を無力化する。
そういう意味では、拳法を「仲良くなるための手法」ととらえた人みたいな感じかもしれません。
私の異能は、誰かを幸せに出かもしれない何かだと考えれば、今までの重さを忘れる事が出来るかもしれません。
というか、母上やアンジーは知っていたのでしょうね?
だからこそ、家族総出で伸ばしてくれたのですし、毎日のように相手してくれたのでしょう。
私はこの体に生まれてよかった。
時々男に生まれたかったとか思った時はありますが、それでも私に生まれてよかった。
だって。素敵な家族に囲まれて、素敵な世界に囲まれて、素敵な仲間に囲まれて生きて行けるのだから。
「デルフィルナちゃん、現実逃避中に悪いけど、そろそろ国境越えよ」
「・・・お姉さま、現実逃避だなんてそんな。私はただ、過去を思い返していただけです」
魔法少女ブートキャンプ、隣国で出張公演となりました。
隣国の話ですが、絶大なる要望が国内貴族のあらゆる派閥を超えて集まったそうで、これを無視すれば革命が起こされること必至だったそうです。
おかしいですねぇ? 某隣国ってうちの国への感情って最悪じゃなったでしたっけ?
その影響で庶民の方々もうちの国許すマジって感じだったはずですが?
「何度も説明したと思うけど、そんな感情論を超えて渇望しているのよ」
「まぁ、何度も聞きましたが」
そう、こんな会話も既に三桁。
正直市場に売られる孔子・・・子牛ですね、の気分なんですが、その気分を裏切るのが周辺状況。
国境線の向こうには横断幕やら飾り付けやら伴奏隊やらが山ほどいて、大歓迎式典が開かれているんですよ、ええ。
あの中に入ってゆくのか、と視線を過去に向けたくなるのは仕方ないでしょう。
「はぁ、私、デルフィルナちゃんにもてあそばれている気がするんですけど?」
「お姉さま。そんな些細なことは気にしないでください。たぶん、ええっと、その、絶対? に幸せになれますから」
「安心できないこと夥しいセリフね、デルフィルナちゃん」
なんというか、やさぐれ気配を出していても女神フェイスを保っているお姉さまはやはりリスペクトできる方です、ええ。
ああ、と感動はよそに、私は三つの僕に命令です。
「豪欣ちゃん、お空から不審なやつを『ごー』してください」『きゅ!』
「氷虎ちゃん、穴掘って隠れてるバカがいっぱいいますので、『がぶっ』ってしてください」『ぐるぅ』
「ソニックちゃん。馬車の下に潜り込んでいる大馬鹿が居ますので、『ざっくり』やっちゃってください」『みゅ!』
さぁ、何処の馬鹿だか知りませんが、穴掘って埋めて上からかぶせますよぉ~。
というわけで、デルフィルナちゃんでした。
※20140107 細かい修正は別にして、名前だけは直しました。ごみんなさい




