少女編 第八話
今回の話には、いじめの温床となるいじめる側の理論が大上段で記載されています。
ご不満や不快感を感じる方は、今回の話を読まないことを推奨します。
つうか、読んで不快になった、という書き込みは完全にパスします。
えー、最近土下座が流行っているようです。
教授の研究室の前で土下座するのは、見るも「ぶひぃ」な魔術学生達。
用件は「まじかる☆留め金外し」を伝授してほしいという、まっとうに考えればありえない話。
正直、この魔法の開示については王宮からも問い合わせがあり、それでも「ダメ」と言い続けた話を、一介の学生になんで伝授されると思うのでしょう?
「性犯罪者を量産するつもりはないですよ?」
「「「「「そこをなんとか!!」」」」」
おいおい、性犯罪者にはならないと言い切れよ、と思わず前世を思い出してしまいました。
一応、あれは非殺傷魔法として登録していますが、再現不能という事で固有魔法扱いなんですが、それでも教えろというのが理解できません。
あなたたちは魔術学生なんですよね? それなのに固有魔法が知りたいって、本気で言ってます?
そんな私の言葉に、「ぶひぃ」たちは切々と自分たちの窮状を訴えます。
単純に言えば、醜い・臭い・下品と女子学生にいじめられていて、やり返すと性的嫌がらせを受けたと教師に泣きつくそうだ。
とはいえ、正直、私も「ぶひぃ」と同じ教室は嫌ですよ?
何日お風呂に入っていないのですか? 何日同じ服を着ていますか? 散髪に行ったのは何時ですか? 歯磨きはしてますか? 顔は洗っていますか? 生涯自分の部屋で閉じこもって誰にも会わないのであればコミュニケーションなんて必要ありませんが、たとえ家族で会っても他人に合う可能性があるのならば、相手の事を慮って身綺麗にすべきなんですよ? 相手の本質は心だなんだと言いますが、体臭が不摂生の所為で臭くて、自分を抑制できないせいで「ぶひぃ」で、周りを考えられないから息が臭くて、そんな人が排斥されないはずが・・・・あれ?
「デルフィルナちゃん、物凄く真実なんだけど、物凄く言い過ぎ」
「でも、お姉さま。この手の馬鹿には、ちゃんと正面から真実を叩き付けないと相手が悪いと誤解したまま性犯罪者になること請け合いですよ?」
いままで廊下で呻いていた「ぶひぃ」達は、そのまま気絶した。
「んー、なむなむ。天界に幸多からんことを~」
「なにかしら、まるで殺し屋のようなセリフに聞こえる私は変なのかしら?」
いえいえ、お姉さまが私に順応した証拠なのです。
翌日から「ぶひぃ」達は正面から土下座はやめましたが、私を物陰から付け狙う事を始めました。
本格的な性犯罪者ですね。
というわけで、魔術課の教員室に直撃したのですが微妙な反応でした。
あの「ぶひぃ」達はわりと成績優秀な生徒たちらしいのですが、魔法への興味以外一切ありませんという特化型なんだそうで、生活能力の欠如も普通レベルなんだそうです。
「ということは、魔術課にはあんな「ぶひぃ」が溢れている、と?」
「いやぁ、溢れてはいないけど、少なくはないかな」
「じゃぁ、身支度が出来る魔術学生の方がマイノリティーということですか?」
「マイノリティーって程じゃないけど、過半数割れはしてるよ」
ショックな事実でした。
でも、だったら、なんであの「ぶひぃ」達だけ苛められるんですか?
「ああ、彼らは本当に成績優秀でね。でもそれを鼻にかけて尊大で救いようのない性格だから排斥されているんだ」
・・・なんでしょう、この残念感。
これならお兄様に「ストーカーに付け狙われているのです。助けてください」と泣きついた方が早かったでしょうか?
しかし、こう、なんで決定打に欠ける話の動きなんでしょう?
・・・まさか。
「まさか、あの「ぶひぃ」達は、貴族子女なんですか?」
「それ以外、あの手の人間の在籍を認めるはずもないんだよ」
ひぃぃぃぃぃ、この教員、ぶっちゃけすぎです。
いや、大きな問題が浮上。
「つまり、今のところ打つ手はない、と?」
「あー、デルフィルナ君。君の破天荒な活躍は聞いているし見ている。どうにかならんかね、あれ?」
つっと、指さす先には、カーテンに隠れていないけど隠れている「ぶひぃ」達。
ここまで言われていて改善する気にならないのでしょうか?
ありのままの自分を愛してくれる人が好きな人、なんて戯言を言っている「ぶひぃ」も思い出しましたが、ありえないのです。
体臭がきつくてデブで薄汚れていて汗汚れは表に出ていて口臭がキツイ女性を彼らが愛せるはずがないのですから。
「・・・さすがデルフィルナ君。言葉の刃でとどめを刺すか、すばらしい」
え? とふたたびカーテンを見たが、そこには窓が開け放たれている光景だけで「ぶひぃ」は居ませんでした。
「・・・えーっと、彼らは飛行魔法とか」
「ああ、あの重量を支えられるほどの魔力はないかなぁ」
「なにを気楽に!!」
思わず窓の外に向かってヒールBB弾を乱射してしまいました。
父上から、「ぶひぃ」の面倒を見てください、お願いしますという内容のながーーーーーい書状が届きました。
聞けば、「ぶひぃ」達の実家は古き家系の魔術家系なのですが、その影響でかなり甘えた育て方をしてしまい、実家ではすでの矯正不能だというのです。
が、全身打撲になってまで習得したい魔法があるという熱意は今までにないものだそうで、その成功体験から人生を見つめなおさせたいという嘆願が父上の処に来たそうです。
「ぶひぃ」の実家って、父上の敵対派閥だったらしいのですが、それが王宮で土下座して頼んだというのです。
それも各派閥の人々が居る前で。
完全な飛び道具にして、二度ときれないカードを切ったわけです。
逆に父上はありえない貸を作ることになるそうですが、受け入れなければ重いハンディとなる事請け合いだとか。
「あー、面倒です」
「でも、まぁ、受け入れるしかないのかな?」
「毎日風呂に入って歯磨きして食事制限して身だしなみをちゃんとしないと破門と返事しておきます」
というわけで、「ぶひぃ」達は私のマジカル☆弟子になったのでした。
一応、身支度やら条件の継続性を見るために一週間試させたのですが、一応合格してしまいました。
それほどまでにエロい事がしたいとは、本当に見下げ果てた「ぶひぃ」です。
「あ、あの、師匠。ご伝授お願いします」
「「おねがいします!!」」
てらてらした脂ぎった顔で言われてもキモイだけですが、仕方ありません。父上のお仕事の足しになるのですから。
・・・私だけのお姉さまシリーズを売られないためではないのですよ?
「では、まず、口頭呪文を千回」
「「「・・・え?」」」
「聞こえなかったのですか? 口頭呪文『マジカル~、とめがねはずしぃ♪』を千回、口調と言い方も一緒で!」
思わず視線をそらす「ぶひぃ」たちを連続で蹴ります。
あまりの痛さに座り込み、私を見上げた視線が怯えていました。
「お前たちは、私に魔道の深淵を覗き込ませてくれって頼んだんだよ。魔道の奥底は深くて暗くて、とーーーーーっても怖い所なんだよ」
おら、たて、と再び蹴ります。
すると、びくびくしながら立ちました。
「深き深淵を覗き込むときにはな、その奥底から見られていることを意識しなけりゃいけない。自分を殺せる奴だけが深淵にたどり着けるんだ」
振えは止まりました。
そしてその両目に暗いトモシビがついたようです。
「わかったら、千回」
「「「・・・はい」」」
口頭呪文、これは言わば心技体の技に当たります。
これがずれてもダメ、歪んでいてもダメ、ぶれていてもダメ。
「おら! なに勝手に呪文を変えてるんだ、『マジカル~、とめがねはずしぃ♪』っていってんだろうがぁ! 『マジカル~、とめがねはずしぃ!』じゃねぇ!!」
「師匠、わかりません!!」
「わかるまで言え、わからないならカウントストップでいいつづけろ!」
「はい!!」
とまぁ熱血格闘系で何とか口頭呪文がマスターできたので、次です。
「今度は、口頭呪文に合わせて、振りの練習です」
「「「・・・・え?」」」
「聞こえなかったのかぁ? 『マジカル~、とめがねはずしぃ♪』って呪文と一緒に動きをまねろって言ってんだよ!!」
あ、デジャブ。
また恥ずかしいとかいうのでしょうか?
「おめーら、自分の格好を見ろ、今までの自分を見ろ、周りからの視線を見ろ!! おめーら以上に恥ずかしい存在なんて世界にはいねぇ、私が宣言してやる、おめーらは世界で一番情けなくて恥ずかしい存在だよ!! この上何をしたって恥なんかねぇ。格好よさゼロのお前らに何を掛けたってゼロなんだよ、だからやれよ、やれっていってるんだよ!!」
「「「・・・ううううう」」」
まるで被害者のように泣きますけど、求めてきたのは「ぶひぃ」達なんですけどねぇ?
「もういい! てめーらから頼んできたから教えてやってるのに、いやだなんだと泣きやがるやつらなんか知らねぇ!! かえれかえれ!!」
どかんと床に座ると、暫くして「ぶひぃ」達も帰るかと思いきや、今や懐かしい土下座です。
「「「師匠すみませんでした! 指導をお願いします!!」」」
「つれーんだろ? やめろよ。生きて行く上にゃ関係ねえ事なんだよ、魔道の深淵なんてものはな」
「「「それでも、それでもおねがいします!!」」」
あーあ、せっかく縁が切れると思ったのですが。
なんだかなぁ。
個人的に息苦しい、「ぶひぃ」達には色々と人生的に苦しい特訓が終わり、とうとう「マジカル☆卒業試験」と相成りました。
というか、標的の鎧に向かって行使するという試験ですが。
「お前たちは十分修業を積みました」
「「「はい!!」」」
「発声もフリも十分です。あとは・・・」
「「「・・・」」」
「これを着るのです」
私が渡した紙袋を見て、「ぶひぃ」たちは固まりました。
世にも情けない目はしましたが、ここで逆らっても意味がないという事で黙々と更衣室に入り、そしてその格好となっています。
そう、魔法少女ディーの変身魔女セット(大きなお友達版)です。
「師匠、すでに師匠を疑う気持ちは一切ないのですが、一つだけ聞かせてください」
「なんですか?」
「この服の意味は?」
簡単なことなのです。
私の魔法は「心技体」が整って初めて意味をなすもの。
正しい発声で、正しい動きで、そしてその動きで得られるひらひらの軌道も詠唱の一部にして。
「「「!!!!!!」」」
「わかりましたか? 魔道とは深きくらき底にあると」
「「「はい!!」」」
「ぶひぃ」たちは、なぜか見学に訪れた魔術学生たちの失笑に負けず、それぞれの鎧の前に立ちました。
「始めるのです」
「「「はい!!」」」
それは奇怪な舞踊。
それは正視を出来ない奇妙な宴。
口頭呪文と共に、うねる様な波打つようなフリが行われ、そして大きなお友達が持つにはコンパクトな魔法少女の「杖」が閃く。
『『『マジカル~、とめがねはずしぃ♪』』』
会場は呆然としています。
そう、固有魔法と決めつけられたその魔法を、成績優秀ながらどうしようもない屑と言われていた三匹、いや三人の魔術学生が習得して見せたから。
その姿かたちや詠唱時の格好などは見れたものではないですけど。
すごい、そう思われた瞬間、三人の大きなお友達用の魔法少女服が吹き飛びました。
そこに現れたのは、真っ白な肌のナニカ。
吹き荒れる悲鳴、巻き起こる混乱。
というか、「ぶひぃ」たちも驚いた姿勢のままこっちを見ました。
「し、しよう、これは?」
「その魔法は、自分を中心に魔力の届く範囲のすべての留め金を外します。自分の留め金も外れるのは当然なんですよ?」
「・・・師匠の留め金は外れていないようですが?」
「私の服は、新型の流体機構服なので、留め金はありません」
「「「そ、そんな、ばかな・・・」」」
そんなつぶやきと共に、ぶひぃは倒れたのでした。
めでたしめでたし。
「めでたくないわよ、デルフィルナちゃん!!」
「えーーーー?」
あれから「ぶひぃ」たちは、真の自分を見てもらう事に目覚め、どんな時でも瞬間でマッパになれる「マジカル☆マッパー」を開発。
加えて、周囲に優しい体型になり、マッパーとしての自分たちを受け入れてもらえるように肉体改造も決行。
現在はかなり鍛えられた体になっているそうです。
「というわけで、屑が減ったのですよ?」
「それ以上に、魔術課はゼンラー率が上がったわよ」
「・・・とりあえず、見なかった事にしましょう」
「デルフィルナちゃーーーーーん!!!」
というわけで、令嬢でした。