コックリさん
命は深呼吸をして
霊力を右手一点に集中させた。
「こんな結界!」
命は気を引き締めてドアに手を伸ばした。
バリッ…
「っ!」
小さな火花を散らし、ドアは命を拒絶した。
「クッ…!」
命は左手にも右手ほどではないが霊力を集中させ、ドアに伸ばした。
バリッ、バチッ!
左手を伸ばして命の力が強くなると、ドアも拒絶する力が強まった。
さっきよりも火花が散り、時には大きな火花が命の頬を掠めた。
「っ!」
ドアは強く光り、命は目を瞑った。
しかし霊力を弱める事はなかった。
それどころか命から溢れんばかりの力がどこからともなく込み上げてきていた。
それには命自身驚いた。
そしてそれは自信に繋がった。
「いける!」
命は込み上げてくる力を両手に集め、ドアにぶつけた。
シュワ…
すると手元からドライアイスのスモークの様な冷たい煙が発生し出した。
煙は周囲に広がり、
ドアの中へと侵入した。
ドッ!!
煙の侵入が成功すると、
ドアが大きく靡いた。
「!」
更に力を込めると、
ドカ―――ン!!!!
ドアが教室の中にぶっ飛び、結界が崩壊した。
「何!?」
唯は慌ててドアを見た。
ドアが外れると、モクモクと煙が教室の中に流れ込んだ。
そしてその中から鋭い目付きをした命が現れた。
その時の唯の手は雛子に伸びていて、床にはコルンがぐったりと延びていた。
「許さないわ!」
命が怒りを露にすると足元から煙とは違う白い"何か"がいくつも現れ、唯に向かって勢いよく延びた。
シュル…
「?」
訳がわからない唯は、
されるがままに両腕を
その"何か"に巻き付かれた。
「これは…?」
唯は手に力を込めて振り払おうとしたが、"何か"は簡単には払えなかった。
それは命に味方する霊魂たちだった。
命が無意識に霊界から呼び寄せたのだ。
「逃がさないんだから!」
命は両手を平げて唯に向けた。
すると霊魂たちは命に反応して宙に舞い上がり、唯を吊し上げた。
「う゛っ!」
唯の余裕だった表情は次第に暗くなっていき、眉をひそめた。
「まだまだ!」
命は更に白い霊魂を操って唯の体に巻き付けた。
ギュゥゥゥ……
「くっあ!」
その締め付ける力は徐々に強まっている。
流石に唯も喘ぎ声をあげた。
「さぁ!
"唯の中にいる誰かさん"?
その体から出て!
さもないと…」
命は更に力を強めた。
「ゥァ…!くっ…」
カクン・・・
すると小さな呻きをあげ、唯の首が垂れ下がった。
「…」
命は慎重に唯に手を伸ばした。
ふわっ…
霊力で唯の中に何もいない事を確認すると、締め付けを止めて
唯の体を床に下ろした。
「ごめん、唯…」
命は汗ばんだ唯の額に手を当てた。
取り憑かれていた間の唯の意識(人格)は眠ったままで何ともないが肉体はダメージを受けている。
痛みは唯の人格に伴うのだ。
「…?」
その時命はふと顔を上げた。
そして周りを見渡した。
「何…この邪気…」
まだ教室には邪気が漂っていた。
「ただの霊じゃない…」
コト…コトコト!
机上に置かれた十円玉が左右に震え始めた。
「!?」
命は立ち上がって十円を注視した。
明らかに異様な空気が十円から出ていた。
「誰?こそこそとしないで姿を見せなさい!」
すると十円玉は静止し、
宙に浮き上がった。
「フフフフ…」
不気味な笑い声が聞こえたかと思うと、
ドワッ!
十円玉から黒い煙と伴に
巨大な白狐が現れた。
「!?」
白狐の体は立ち上がると教室の天井にとどき、縦の長さは端から端まで伸び、尾は曲げてなければならない。
「あなたが…コックリさん…ね…」
命は自分よりも何十倍も大きな白狐に、震える手を抑えて睨み続けた。
「いかにも。
祈祷の力を持つ少女よ」
白狐は命を見下ろし続けた。
「退け!そなたに用はない。
ワラワはそこの童から対価を受け取りに参ったのじゃ」
白狐はギロリと唯や雛子たちに目線を向けた。
ゴックン…
命は唾を飲み、バクバクとうるさい心臓を堪えて白狐の前に出た。
「何の真似じゃ?」
白狐の鋭い目が命を貫くかの如く向けられた。
「皆には手を出さないで。
帰って…ください!」
恐怖のあまり、声が裏返った。
ニィ…
白狐は薄気味悪い笑い声をあげ命を見下ろした。
「それは聞けぬ相談じゃのぅ。
ワラワとて手ぶらで戻るわけにはいかぬ」
「なら…祓うまで!」
命は手を上げた。
「ほぅ…。
そなたがワラワを祓うと?」
白狐の雰囲気が変わった。
「そ、そうよ!」
「面白い、やってみよ!」
すると狐から邪気が放たれた。
教室に充満していたそれとは違う。
邪気は直ぐに命を囲んだ。
「!」
命も負けじと霊力を放った。
床から風が吹き上げ、
セミロングの黒髪が靡いた。
命の霊力は、身体に害のある邪気を浄化しながら拡がっていった。
「やるのぅ…じゃが、」
白狐は三本ある尻尾をねじりあげ一本にすると、その尖端を命に向けて突き刺すように振り落とした。
ガッシャーン!!
「!」
命はバックステップで後ろへかわした。
尻尾は机ごと床に穴を開ける威力があった。
まともに受ければ確実に死ぬだろう。
「…!」
命は再び深呼吸をして、
霊魂を集め始めた。
「さぁ、存分に我を楽しませておくれ…!」
白狐は怪しく微笑んだ。